• 2022年10月21日
  • 2022年10月21日

【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『薬効検定』のみかた」鈴木貞夫

 
国産初の新型コロナウイルス感染症経口薬として期待を集めていた塩野義製薬「ゾコーバ」は、今年5月に「緊急承認制度」で審査が行われましたが、安全性や効果を疑問視する声があり、承認は見送られています。
今回の【識者の眼】は鈴木貞夫氏(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)が非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『薬効検定』のみかた」と題して寄稿。薬効検定データのみかたについて説明しています。ぜひ、参考にしてください。

国産初の新型コロナウイルス感染症経口薬として期待を集めていた塩野義製薬「ゾコーバ」は、今年5月に新たに創設された「緊急承認制度」を使って審査が行われたが、安全性や効果を疑問視する声があり、承認は見送られ1)、審議を継続することになった。また、寄生虫病薬「イベルメクチン」の新型コロナウイルス治療薬としての有効性が、臨床試験で確認できなかった旨、興和より発表があった2)

薬剤は、同意をとった被検者を対象に、「第1相」「第2相」「第3相」の3段階の臨床試験データを厳密に審査し、安全性や効果が確認されて初めて承認される。もっとも厳密かつ大規模な中核は第3相試験で、ランダムな割付による臨床試験(RCT)が、多くは二重盲検で行われる。ランダム割付は、被検者の背景を揃えることによって、選択バイアスや交絡(測定する・しないにかかわらず)を確率的に制御する。また、実薬かプラセボ(偽薬)かを患者にも研究者にも知らせない二重盲検は、それを知っていることにより生じるアウトカムの偏り(情報バイアス)を防ぐ。

裏を返せば、RCTによらない研究や、実際の投薬行為は、これらのバイアスにさらされていることを示している。その結果をもって薬効について判定するのは危険であるが、SNSでは、この種の「ゾコーバ、イベルメクチン推し」が目立った。逆に、ファイザー社やモデルナ社のコロナワクチンは、比較によらない個々のエピソードや、接種者だけの割合などの記述による危険視が相次いでいる。そのせいか、若年者の接種はあまり進んでいない。

こういう副反応疑いは、RCTによるものを除けば、背景を揃えることが非常に困難で、一旦市販された後の疫学研究は、よほど綿密かつ大規模な研究の計画を立てない限り、妥当な結論を出すのは困難だろう。国ベースでこのような研究を行うには、ワクチンの登録と他の情報とのリンクが不可欠だが、かなり先の話になるだろう。

「ゾコーバ」については、第3相部分で主要評価項目(オミクロン株に特徴的な5症状が消失するまでの時間の短縮)を達成し、24時間の短縮が認められたことが塩野義製薬より9月末に公表された。これをもって、ゾコーバの審査・審議に向けて、塩野義製薬は厚生労働省と医薬品医療機器総合機構(PMDA)との協議を開始したと報道されている。緊急承認制度を使っての2回目の審議会となるが、エビデンスに基づいた妥当な結論が待たれる。

【文献】

1)厚生労働省:薬事・食品衛生審議会 医薬品第二部会(薬事分科会・医薬品第二部会(合同開催)を含む)議事録(2022年7月20日).

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27328.html

2)興和:新型コロナウイルス感染症患者を対象とした「K-237」(イベルメクチン)の第Ⅲ相臨床試験結果に関するお知らせ(2022年9月26日).

 https://www.kowa.co.jp/news/2022/press220926.pdf

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]


出典:WEB医事新報

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