• 2022年8月5日
  • 2022年8月22日

【識者の眼】「新型コロナウイルスの感染拡大において、社会として守るべき人をどう守るのか?」和田耕治

 
感染拡大が広がる昨今、発熱外来や保健所などの医療ひっ迫状況を受け、政府の方針が注目されています。
今回の医事新報【識者の眼】では、和田耕治氏(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)が寄稿し、政府の発信する「行動制限はしない」という表現が「感染対策は不要」に聞こえないようにと警鐘を鳴らしています。ぜひ、お読みください。

感染拡大が広がる中において、「行動制限」に話題が偏っていないか。「社会として守るべき人をどう守るのか?」という問いを加えられないだろうか。既に通常診療にも制限が出ている。手術や抗癌剤の治療、出産、急性や慢性の疾患の治療にも影響が及ぼうとしており、今後さらに影響が大きくなる。救急車の搬送困難も急増している。新型コロナウイルスの感染者においても症状の重い人が必要な医療につながらないことがさらに起こりえる。

そうした問いに答えるとするなら、まずは数が大きいところから対応を考える。たとえば、症状が我慢できる範囲であれば市販薬などを用いて対応する。職場や学校から検査をするようにと言われて受診している人も少なからずいる。

受診についての方針は国や自治体からお願いをすればできると思うが、以前、新型コロナウイルスが確認された当初に3日程度様子をみるようなことが大きく批判された経緯があるため、政治も自治体も発しにくいのかもしれない。ただ、当時とは状況は違っており、そこは3年にわたり、世界的にも感染者を低めに抑え込めたわが国では、丁寧に説明をすれば受け入れていただけるのではないか。

もちろん検査を受けたいという人はいるので、迅速抗原キットを薬局などで買いやすくするなどの対応を同時に行う必要がある。迅速抗原キットも数としては相当数あるようだが、薬局では足りないところも多く、ロジスティックスの改善が急務である。自治体によっては無料配布と陽性の場合のオンライン登録をしているところもある。

感染者が増加すれば、当然ながら、自分を守りたい人にまで感染は及ぶ。そうした人はできるだけ接触機会を減らしていただくことはもちろんだが、いずれ家庭、施設、医療機関などに感染が及ぶことは既に経験しているとおりである。そのため、感染者をできるだけ減らすような対策は不可欠である。自治体は特に感染リスクの高い場面での対策の強化や、症状がある場合には外に出ないような対策をもっとお願いしてはどうか。「行動制限はしない」という表現が「感染対策は不要」に聞こえないようにしていただきたい。

経済活動をこの段階で止めないという重要性は誰もが否定しない。ただ、既に医療は逼迫をしており、入院が必要な人たちが入院できなくなることも、誰もが望むことではない。こうした市民へのコミュニケーションを政治のリーダーにお願いするとともに、市民やメディアにもご理解をいただきたい。

和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス感染症]


出典:WEB医事新報