• 2021年11月9日
  • 2021年11月17日

【識者の眼】「緩和ケアとバーンアウト」西 智弘

 
患者さんやご家族の苦しみや悲しみに直面する機会も多い、緩和ケアを担当する医療者は、それらに対する共感性疲労や情緒的エネルギーの消耗により、バーンアウト(燃え尽き症候群)に陥るケースが多いと言われます。今回の【識者の眼】は西智弘氏(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)が「緩和ケアとバーンアウト」と題して寄稿。「バーンアウトの予防には、個人の努力ではなく、環境要因、特に職場内でのサポートが重要」と訴えています。ぜひ、参考にしてください。

緩和ケアは、患者の治療初期から終末期までの過程に関わり、そのQOLを支えるやりがいのある仕事である。しかし一方で、患者や家族の苦しみや悲しみに関わる機会も多く、それらに対する共感性疲労や情緒的エネルギーの消耗によって、バーンアウトに陥る医療者も少なくない。ある報告によれば、緩和ケア医の40〜60%にバーンアウトが見られると報告されており、これは集中治療医や産科医など、バーンアウトの比率が高いとされている領域と大差がない。

バーンアウトの主たる症状は情緒的消耗感、脱人格化、個人的達成感の低下と言われる。つまり、対人的な高ストレス環境にあることでその情緒的エネルギーを枯渇させ、これまで深い思いやりと人間性をもって仕事に当たっていた人が、急に患者や家族の悪口を言ったり、仕事内容が紋切型に変化する。そして仕事の質の低下はそのまま、自己評価も含めた達成感の低下につながり、それは自己否定に結び付き、最終的には「職場から去る」ことへ行きついてしまう。

ここまで読んで頂いてわかると思うが、バーンアウトの過程は高ストレスに対して自らの心を守るための仕組みである。よって、単に激励したり、報酬を増やしたりすることがバーンアウトを防ぐことにはならない。

特に、緩和ケアの領域では「役割ストレス」があることが指摘されている。これは「職業上期待されている役割と、実際に実行している仕事内容のギャップ」による役割葛藤から生じるとされており、医学的に正しいこと=緩和ケアの現場での正解とならないことが多い(例えば経口飲水できなければ輸液する、は終末期で正しいと言える場合と言えない場合がある)。現場では、この役割葛藤が頻繁に発生する。この役割葛藤を解消するためには、職場内で「今回の件では何ができて、何ができなかったのか」を気軽に話し合える機会が多くあることが重要である(正しいか間違っていたか、ではなく)。

バーンアウトの予防には、個人の努力ではなく、環境要因、特に職場内でのサポートが重要であり、緩和ケアなど情緒的エネルギーの消耗が高い領域を中心に全職場で取り組んでいくべき課題である。

西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[緩和ケア]


出典:Web医事新報