トリアージとは、傷病者の重症度・緊急度の評価手法です。救急医療の知識や決断力が求められるため、トリアージ実施者には医師や経験豊富な看護師がふさわしいとされています。しかし、トリアージの具体的な内容や、手法の使い分けについて知らない人もいるのではないでしょうか。 当記事では、トリアージの概要や歴史、JTAS法とSTART法の使い分けやそれぞれの手法について詳しく説明します。看護師として万が一の事態にも対応できるよう、トリアージに関する知識を深めましょう。
トリアージとは?
トリアージとは、傷病者の重症度・緊急度によって、治療や搬送の優先順位を振り分けることです。
災害直後は重症者と軽症者が混在しており、選別されないまま救護所や病院に傷病者が集まると、現場が混乱します。トリアージを決定すると、助かる見込みのある人に対して効率よく処置を行えるため、結果として最大多数の命を救うことが可能です。トリアージでは、ときに傷病者の命に関わる判断を下すことから、非常に重大な責任を伴います。
なお、トリアージは災害現場だけでなく、救急外来や小児科において診察の順番を決める際にも用いられています。
トリアージの意義
トリアージの目的は、医薬品や医療従事者などの医療資源が不足している状況下で、できる限り多くの人を効率よく助けることです。
トリアージでは、軽症者や予後不良者に対する処置は後回しとなり、優先度の高い傷病者から治療にあたります。特に、災害におけるトリアージは、適切な医療が提供されていれば救命できた可能性がある「避けられた災害死(PDD)」を防ぐための活動といえます。
治療を必要とする人のうち、重症患者と中等症患者を区別することが、トリアージの原則です。しかし、トリアージの原則は実施する場所や状況によって異なり、目的に応じて手法を使い分けなければなりません。また、傷病者の状態は時間とともに変化するため、現場や搬送時、医療機関でもトリアージを繰り返し行う必要があります。
トリアージの起源
トリアージ(triage)は、フランス語で「選別する」という意味の「trier」に由来しています。トリアージは1700年代の羊毛工業において品質の悪い羊毛を間引くために使われていた言葉でしたが、のちに医療分野に導入されました。
トリアージはナポレオン時代のフランスで軍医によって開発され、1801年にフランス軍で初めて正式採用されています。戦陣医療におけるトリアージの目的は、負傷した兵士の中から軽傷である人を優先的に治療し、再び戦場へ復帰させることでした。当時のフランス軍は、トリアージを導入したことにより死傷者の減少に成功しています。その後、1900年代に入り、アメリカの救急外来でトリアージが使用されるようになりました。
日本におけるトリアージの歴史
日本では1960年代頃からトリアージが徐々に導入され、事故現場などで活用されていました。トリアージが全国的に広まったきっかけは、1995年の阪神・淡路大震災です。阪神・淡路大震災では、現場でトリアージがほとんど行われないまま被災者が病院に殺到しました。治療優先度や搬送基準も明確ではなかったため、もし災害現場や病院でトリアージを適切に実施していれば、約500人の命を救えた可能性があると報告されています。
阪神・淡路大震災でトリアージの重要性が指摘されたことから、1996年にトリアージで用いられる「トリアージタッグ」の標準が公表されました。現在では各医療機関や消防局などでトリアージ訓練が実施されるようになり、適切な救護活動のための取り組みが行われています。
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トリアージの分類
トリアージには、さまざまな手法があり、トリアージを行う場所や時間によっても、複数の種類に分類できます。たとえば時間にもとづいて分類した場合の種類として、一次トリアージや二次トリアージなどがあげられます。
場所と時間、それぞれにもとづいたトリアージの分類を紹介します。
場所による分類
トリアージは災害現場で負傷者を対象としたもののみならず、日常の病棟においても行われることがあります。病棟で行われる場合は、院内トリアージと呼ばれます。
院内トリアージを行う理由は、患者さんの症状を見極めて、適切な順番で処置を行うためです。多数の患者さんが来院したとき、命に関わるほど重症の方を選別して優先的に処置する必要があります。
あらかじめ院内トリアージで処置する患者さんの優先順位を決めておくことで、スムーズな現場対応が可能になります。
院内トリアージは、主に下記の4種類があげられます。
- 病院前トリアージ
- 転送・広域医療搬送トリアージ
- 手術トリアージ
- 入院トリアージ
病院前トリアージは、救急医療にて患者さんの受け入れを行うか、ゾーニングしている場合はどのゾーンに入れるかを判断するために行います。受け入れた後も、患者さんの症状や医療提供態勢の変化によっては転送・広域医療搬送トリアージが必要です。転送・広域医療搬送トリアージでは、転送する患者さんの順番が決められます。
手術スタッフや手術室、検査設備など医療資源に制限がある場合、緊急性の高い患者さんを優先的に対応するために行われる処置が、手術トリアージです。患者数が多く、対応が間に合わないと判断されたときは、転送・広域医療搬送トリアージが行われます。
入院が決定した患者さんに対して行われる処置が、入院トリアージです。ベッドが足りないときなど、場合によっては搬送された方のみならず、以前から入院していた患者さんも含めて入院や転送が判断されます。
時間による分類
時間を軸に分類すると、一次トリアージと二次トリアージの2種類に分けられます。それぞれの特徴は、下記の通りです。
一次トリアージ |
---|
最初に行われる一次トリアージは、スピードが重視されます。緊急性の高い赤色判定の患者さんを抽出することが目的であるため、1人あたり30秒以内が目安です。日本では、主にSTART法が用いられます。 |
二次トリアージ |
---|
一次トリアージで大まかに分けられた患者さんを、生理的および解剖学的な観点からこまかく分類することが二次トリアージの目的です。一般的にPTA法が用いられます。 |
一次トリアージと二次トリアージが行われる理由は、患者さんが適切な処置を受けられるよう、効率的かつできる限り正確に分類するためです。瞬時に判断する一次トリアージでは見逃しやすい患者さんの細かな症状を二次トリアージで確認することにより、優先度の誤認を防ぎます。
医療施設で行うトリアージ「JTAS法」とは?
JTAS法とは、救急外来などで患者の緊急度を割り当て、待ち時間や診察の順番を決定することです。JTASとは「日本版緊急度判定支援システム」のことであり、院内トリアージでは患者に問診を行ったうえでJTASにより緊急性を判断します。なお、JTAS法は救急看護経験の豊富なトリアージナースと呼ばれる看護師によって行われます。
JTAS法が用いられる主な場面は、救急外来や救急救命病棟、夜間診療などです。救急外来では重症者が徒歩で来院することもあり、救急車で搬送される人が必ずしも重症であるとは限りません。したがって、来院手段に関わらず、すべての患者に対して院内トリアージを行う必要があります。
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JTAS法の緊急度判定レベル
JTASでは、成人の判定項目は17カテゴリー・165症状に分けられています。トリアージナースは、患者の主訴やバイタルサインから、緊急度を5段階で判定します。
以下の表は、JTASの緊急度判定レベルです。
緊急度判定レベル (カラー) |
診察の必要性 | 症状の特徴例 | 再評価の目安 |
---|---|---|---|
レベル1 蘇生 (Blue) |
直ちに診察・治療が必要 | 心停止・重症外傷・痙攣持続・高度な意識障害など | 治療の継続 |
レベル2 緊急 (Red) |
10分以内に診察が必要 | 心原性胸痛・激しい頭痛や腹痛・自傷行為など | 15分ごと |
レベル3 準緊急 (Yellow) |
30分以内に診察が必要 | 症状のない高血圧・痙攣後の状態(意識は回復)など | 30分ごと |
レベル4 低緊急 (Green) |
1時間以内に診察が必要 | 尿路感染症・縫合を必要とする創傷(止血済み)など | 1時間ごと |
レベル5 非緊急 (White) |
2時間以内に診察が必要 | 軽度のアレルギー症状、軽度の外傷など | 2時間ごと |
JTASは、あくまでも判断を支援するものです。トリアージナースには、高度な観察力やアセスメント力、コミュニケーション能力などが必要となります。
JTAS法の実践方法
JTASはアプリで発売されており、ダウンロードしてスマートフォンやタブレットで使用することが可能です。以下では、JTASアプリの使い方を簡単に説明します。
(1)アプリを立ち上げ、患者の年齢(15歳未満・15歳以上)を選びます。
(2)症状リスト画面上部で、カテゴリーを選択します。
(3)表示されたカテゴリーの症状の中から、該当する項目を選びます。
(4)患者の容態について当てはまる項目を選ぶと、緊急度が表示されます。
JTASを使用する際は、患者の主訴や来院に至るまでの経緯を考慮しつつ、総合的に判断します。また、小児トリアージを行う場合、子どもは自分の症状を伝えにくく、症状が急激に変化する可能性もあるため注意が必要です。
JTAS法の成立経緯
JTASは、カナダで10年以上の運用歴を持つカナダ救急患者緊急度判定支援システム「CTAS」の日本版です。カナダではCTASをインターネット上で公開しており、一般市民が自分の状態を把握するために利用できます。
日本では、日本臨床救急医学会と日本救急看護学会が、救急医療体制やトリアージナースについて議論を行っていた中で、CTASに注目が集まりました。2007年に両委員会を結ぶ合同委員会を設置後、2009年にカナダ救急医学会へ代表団を派遣し、JTAS開発における契約を結びます。その後、日本臨床救急医学会によるJTAS検討委員会がCTAS翻訳版の刊行などを進め、2012年6月にJTAS2012が公開されました。
JTAS法の診療報酬
2012年度の診療報酬改定により、全年齢を対象とした「院内トリアージ実施料」が新設されました。初診時は、院内トリアージの診療報酬300点を加算することが可能です。
なお、2023年3月時点では新型コロナウイルスの感染が拡大しており、再診の範囲内でコロナ感染症の疑いがある人が医療機関を受診することも考えられます。このようなケースを診療報酬の面から支援するため、厚生労働省により「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取り扱い」が規定されています。
規定においては、新型コロナウイルス感染症の疑いがある患者に院内トリアージを行った場合、院内トリアージ実施料を算定可能です。
(出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の診療報酬上の取扱いについて」)
災害発生地で行うトリアージ「START法」とは?
START法とは、大規模災害発生時において、多数の傷病者に対して素早くトリアージを行う方法です。災害時には、現場で行われる一次トリアージと、搬送まで待機する救護所で行う二次トリアージがあります。START法は一次トリアージで用いられる手法で、少ない救助者が多数の傷病者に対応できるよう判定基準が簡素化されていることが特徴です。
START法は、医師や救急救命士のほか、トリアージ経験の豊富な看護師や救急隊員が実施します。なお、トリアージ(Triage)は災害医療活動において、治療(Treatment)、搬送(Transport)とともに3Tと呼ばれています。
色で分けるSTART法の4カテゴリー
START法では、傷病者を4つのカテゴリーに分類します。以下は、START法におけるトリアージの4カテゴリーの概要をまとめた表です。
優先順位 | 識別色 | 分類 | 傷病の状態 | 具体的な症例 |
---|---|---|---|---|
第1順位 (I) |
赤 | 最優先治療群 (重症群) |
生命の危険性が高く、直ちに治療が必要 | 気道閉塞、意識障害、開放性気胸、多発骨折、大量の外出血、ショック症状、クラッシュシンドロームなど |
第2順位 (II) |
黄 | 待機的治療群 (中等症群) |
基本的にはバイタルが安定しており、2~3時間治療が遅れても生命に危険は及ばない状態 | 大骨折、脊髄損傷、中等度熱傷、意識のある頭部外傷など |
第3順位 (III) |
緑 | 保留群 (軽症群) |
軽症で専門的な治療が必要ない状態 | 小骨折、脱臼、打撲、捻挫、擦過傷、軽度熱傷など |
第4順位 (0) |
黒 | 不処置群 (死亡群、無呼吸群) |
死亡もしくは心肺蘇生を施しても救命の可能性がない状態 | 無呼吸、窒息、心肺停止状態など |
赤タッグは命に危険が及んでいるため、最も治療・搬送が優先されます。黄タッグは症状が急変しやすく、定期的にトリアージを行うことが大切です。緑タッグは最も割合が高くなるケースが多く、救護所外で医療スタッフによる消毒などの応急処置を受けます。
また、災害時要援護者である乳幼児・妊婦・高齢者・外国人などは、一次トリアージにおいて黄タッグに該当します。
(出典:トリアージ 東京都福祉保健局)
START法の実践方法
START法では、歩行・呼吸・循環(脈拍)・意識の順に確認を行い、1人あたり30秒程度で迅速に判断します。以下は、START法の分類における手順です。
生理学的評価 | 患者の状態 | 結果 |
---|---|---|
(1)歩行 | 歩行できる | 緑 |
1人で歩行できない | 呼吸の確認へ | |
(2)呼吸 | 呼吸がなく、気道確保できない | 黒 |
呼吸がなく、気道確保できる | 赤 | |
呼吸があり、1分間に9回以下もしくは30回以上 | 赤 | |
呼吸があり、1分間に10~29回未満 | 循環の確認へ | |
(3)循環 | 脈拍が1分間に50回以下または120回以上 | 赤 |
脈拍に問題がない | 意識の確認へ | |
CRT(毛細血管再充満時間)2秒以上 | 赤 | |
CRT2秒以下 | 意識の確認へ | |
(4)意識 | 簡単な指示に従える | 黄 |
簡単な指示に従えない | 赤 |
START法では、歩行ができる方はすべて緑タッグとなります。歩行ができない方に対しては呼吸の確認を行い、気道を確保したうえで異常がある場合は赤タッグと判断します。
循環におけるCRTの確認では、中指の爪を5秒間押して赤みが戻るまでの時間を計ります。意識の確認では「手を握ってください」などの簡単な指示を行い、反応があるかを確認しましょう。
トリアージタッグの書き方
START法では、トリアージタッグと呼ばれる識別票に判定結果を記載し、傷病者に装着します。トリアージタッグは、簡易的なカルテとして使用することも可能です。
以下は、トリアージタッグの項目と、記載する内容をまとめた表です。
項目 | 記載内容 |
---|---|
No. | トリアージ実施場所ごとに通し番号をつける。最初に記載した番号は変更しない。 |
氏名/年齢/住所/性別/電話 | 氏名はカタカナで記入し、性別を○で囲む。わからない場合は「不詳」「推定○歳」など可能な範囲で記入する。 |
トリアージ実施月日・時刻 | トリアージ実施日と時刻を記入する。 |
トリアージ実施者氏名 | トリアージ実施者の氏名をフルネームで記入する。医師が死亡確認を行った場合は、死亡確認医師として名前を記入する。 |
トリアージ実施場所 | トリアージを行った場所について具体的に記入する。 |
トリアージ実施機関 | トリアージ実施者が所属する機関名を記入し、右の「医師/救急救命士/その他」のうち、該当する職種を選び○で囲む。 |
傷病名 | 医師が傷病名もしくは死因について記載する。看護師などが記載する場合は「骨折」「出血」などと記載する。 |
トリアージ区分 | 該当区分を○で囲み、下部のもぎり部分において該当区分が一番下になるように切り取る。容態の変化に伴い区分変更を行う場合は、トリアージ区分変更者の氏名・変更時間を記入し、以下の対応を行う。
【症状の重症化による区分変更】 【症状の軽症化による区分変更】 |
特記事項 | 処置内容や留意事項について記載する。 |
人体図 | 負傷箇所を示し、状態を記載する。 |
なお、トリアージタッグは3枚綴りとなっており、1枚目が災害現場用、2枚目は搬送機関用、3枚目は収容医療機関用です。
トリアージタッグ記載上の注意点
トリアージタッグは複写となっているため、記入時は黒色の油性ボールペンを使用し、強い筆圧で書いてください。現場でのトリアージを迅速に行うため、トリアージ実施者氏名や実施場所についてはあらかじめ記入しておきます。
トリアージタッグは、できるだけ上部に詰めて記入しましょう。誤記を訂正する場合は二重線で消し、追記の場合は同一欄に書き加えるとともに記載者名と記載時間を記載します。また、多職種間で情報共有が行えるように、トリアージタッグには難しい専門用語を使用せず、分かりやすく簡潔に記載することがポイントです。
トリアージタッグの付け方
トリアージタッグは、右手首にタッグのゴム輪を二重にして装着します。損傷や切断により右手首に付けることが不可能な場合は、「左手首→右足首→左足首→首」の順で装着してください。
衣服や靴は脱げることがあるため、トリアージタッグは必ず素肌に装着します。また、負傷部分にトリアージタッグを付けると、治療の妨げや傷が悪化する可能性があるため、傷病者の状態に影響が出ない箇所に装着しましょう。
JTAS法・START法以外のトリアージ
トリアージにはさまざまな方法があり、状況や目的により柔軟に使い分ける必要があります。以下では、トリアージの手法であるPAT法とSALT法について、それぞれ詳しく紹介します。
PAT法
PAT法は主に二次トリアージで使用され、より精密に患者さんの状態を評価していく方法です。第1段階で意識や呼吸などの生理学的評価を行い、第2段階で外傷や症状に関する解剖学的評価を行います。必要に応じて、第3段階の受傷機転、第4段階で災害時要援護者への配慮が加わることもあります。
PAT法は、Physiological and Anatomical Triageの頭文字をとった略称で、生理的および解剖学的に行うトリアージのことを意味します。
第1段階では、初期評価として下記の症状がないか確認します。
第1段階 | 生理学的評価(初期評価) |
---|---|
意識 | JCS(Japan Coma Sacle)で2桁以上の点数 |
呼吸 | 10回/分未満 または 30回/分以上 |
脈拍 | 50回/分未満 または 120回/分以上 |
血圧 | 収縮期血圧が90mmHg未満 または 200mmHg以上 |
SpO2 | 90%未満 |
そのほか | ショック症状や低体温(35度以下) |
JCSで2桁以上の点数とは、刺激をしている間は目を開けるか否かの違いをさします。刺激を与えたときのみ目を開けるか、もしくは何をしても目を開けない場合は赤色の判定です。
ショック症状は血圧が低下しているため、手足の冷感や冷や汗、頻脈などの症状があらわれます。
次に、第2評価で解剖学的に全身観察を行います。確認が必要な症状は、下記の通りです。
第2段階 | 解剖学的評価(全身観察) |
---|---|
|
第1段階もしくは上記いずれかの症状がある場合は、赤色と判定します。ただし、心肺停止となっている患者さんは、黒色の判定です。
第1段階や第2段階で赤色の判定とならなかった患者さんに対して、第3段階で受傷機転の確認を行います。どのような要因で受傷したのか確認して、下記いずれかに該当する場合は黄色以上で判定します。
第3段階 | 受傷機転 |
---|---|
|
受傷機転の段階で圧挫症候群すなわちクラッシュシンドロームの可能性がある場合は、赤色の判定です。
第4段階では、災害時要援護者の有無を判断します。災害時要援護者に該当する患者さんは、下記の通りです。
第4段階 | 災害時要援護者 |
---|---|
|
上記のいずれかに該当する患者さんの場合は、必要性を考慮してトリアージの区分を1段階上げることも検討します。慢性基礎疾患は、心・呼吸器疾患、糖尿病、肝硬変、透析、出血素因などです。
(出典:東京都福祉保健局「トリアージ・ハンドブック」)
PAT法によるトリアージは、外傷診察に関する知識や技術が求められるため、医師や看護師が主体となって行われます。
ただし、一次トリアージの後に二次トリアージを行わないケースもあります。現場の状況によっては、救護所や病院前など場所ごとに一次トリアージを繰り返す、二次トリアージを現場で行うなど、臨機応変な対応が必要です。
SALT法
アメリカで発表されたSALT法は、一次トリアージで使用される手法です。SALT法では、まず「動けず生命の危機がある人」「動作ができる人」「歩ける人」の3つに分け、救命処置を行った後に最終的な評価を行います。SALT法の評価は赤・黄・緑・黒・灰の5段階で、「灰」には医療資源があれば助かる見込みのある人が分類されます。
SALT法は4つのプロセスから成っており、それぞれの頭文字をとった略称で知られています。SALT法を構成するプロセスは、下記の4つです。
- Sort:ソート(順番付け)
- Assess:評価
- Lifesaving intervention:救命処置
- Treatment and/or transport:治療および/または輸送
ソートの段階で、「動けず生命の危機がある人」「動作ができる人」「歩ける人」の3つを見分けます。
たとえば拡声器で安全な場所への誘導を行ったとき、自発的に移動できる軽傷者は「歩ける人」です。歩けないものの「手か足を振って知らせてください」などの声かけに反応した患者さんは、「動作ができる人」に分類されます。声かけに対して移動も反応もしなかった患者さんは「動けず生命の危機がある人」として、優先的に処置を受ける必要があると判断されます。
SALT法の特徴は、患者さんの評価と救命処置がセットで行われることです。「はい」「いいえ」の簡易的な質問で患者さんを評価して、危険な状態にある場合は早急に救命処置を行います。
SALT法では、患者さんの緊急性や処置による救命の可能性で赤色、黄色、灰色のいずれかに分類します。
灰色に分類される患者さんは、症状に関する質問の多くで「いいえ」に該当し、現場のリソースが不足した状況下では生存する可能性が低い状態です。優先度は、赤色と判断された患者さんの次に該当します。
再トリアージとは?
一次トリアージの後に、患者さんの症状が変化することがあります。適切に処置するために患者さんの変化を見逃さないようにする取り組みが、再トリアージです。
再トリアージは二次トリアージのことで、日本では主にPAT法が用いられています。スピード感が求められる一次トリアージと異なり、二次トリアージとして導入されるPAT法は多角的に行われます。
PAT法は意識や呼吸、脈拍などを具体的な指標で判断するうえ、優先度が求められる特定の症状も確認する方法です。アンダートリアージやオーバートリアージを回避する予防策としても重要視されています。
アンダートリアージとオーバートリアージ
アンダートリアージとオーバートリアージは、適切な基準とは異なる判断をすることです。患者さんの症状に対して実際よりも低い判断を行った場合はアンダートリアージ、高く判断したときはオーバートリアージと呼びます。
アンダートリアージもオーバートリアージも、人命に関わる問題へ発展するおそれがあります。たとえばアンダートリアージが発生すると、優先して治療を行っていれば本来助かっていた患者さんの生命を危機にさらしかねません。オーバートリアージを行った場合、より優先度の高い患者さんを後回しにすることになり、防げた死が発生する可能性が考えられます。
アンダートリアージやオーバートリアージを防ぐためには、トリアージスキルの向上が必要です。症状の有無のみならず、前述のPAT法で用いられる4つの段階を参考に受傷機転や災害時要援護者など、複数の指標から多角的に判断しましょう。
最初のトリアージ時に安定しているように見えても、時間経過とともに容態が急変する可能性もあります。症状の変化を考慮して、判断の精度を高める方法として再トリアージも大切です。
コロナ禍における発熱トリアージとは
2019年12月初旬に中国の武漢市で第1例目の感染者が報告されて以降、日本でも新型コロナウイルスの感染が拡大しており、医療機関に発熱患者が殺到しました。各医療機関では、さらなる感染拡大および院内感染を防ぐために、発熱トリアージを実施しています。
発熱トリアージの方法は医療機関によってさまざまです。以下では、発熱トリアージの方法の一例を紹介します。
(1)院内に入る前に検温および問診を実施する
(2)37.5℃以上の発熱がある場合は、仮設テント等で対応する
医療機関によっては、一般外来と発熱外来の時間を分けて対応しているところもあります。
まとめ
トリアージとは、傷病者の重症度・緊急度によって、処置にあたる優先順位を振り分けることです。
「JTAS法」は救急外来などの院内トリアージで使用される手法であり、患者の待ち時間や診察の順番を決めます。「START法」は、多数の傷病者を緊急度に応じて4カテゴリーに分類し、治療・搬送の優先順位を迅速に決める手法です。なお、トリアージの手法にはPAT法やSALT法なども存在し、コロナ禍における近年では発熱トリアージも行われています。
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※当記事は2023年3月時点の情報をもとに作成しています