• 2022年9月5日
  • 2024年2月26日

産休手当はいつ・どれくらい入る? 条件・申請方法・計算方法を解説

 

出産を控えている女性のなかには、産休中に収入がないことを不安に思っている方もいるでしょう。基本的に産休中は給与の支払いがありませんが、「産休手当(出産手当金)」という公的なサポート制度が存在します。

この記事では、産休手当の概要や受け取れる人の条件、申請方法を解説し、支給金額の計算方法や受給期間についてもまとめています。この記事を参考にして、産休に入る前に不安を解消しておきましょう。

産休手当とは

 産休手当とは、健康保険に加入している女性が産休を取得する際に、加入している健康保険組合から受け取れる手当のことです。正式名称を「出産手当金」といいます。

労働基準法第65条において、「使用者は、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合には、その者を就業させてはならない」「企業は産後8週間を経過しない女性は就業させてはいけない」と定められています。

産休中は企業に給与の支払い義務がなく、多くの女性は無給となります。そのため、お金の不安を抱えずに安心して産休が取れるよう、産休手当が設けられました。出産で仕事を休む女性にとって、産休手当は非常に心強い経済的サポートといえるでしょう。

参照元:

e-Gov法令検索「労働基準法」

全国健康保険協会「出産で会社を休んだとき」

出産育児一時金との違い

出産育児一時金とは、日本の公的医療保険制度の被保険者および被扶養者で、妊娠4ヵ月(85日)以上の方が出産した場合に支給される一時金です。出産育児一時金の支給額は、以下の通りとなります。

【出産育児一時金の金額】

産科医療補償制度に加入している医療機関などで妊娠週数22週以降に出産した場合 1児につき50万円
産科医療補償制度に未加入の医療機関などで出産した場合 1児につき48.8万円
産科医療補償制度に加入している医療機関などで妊娠週数22週未満で出産した場合
(出典:全国健康保険協会「出産育児一時金について」

2023年4月より支給額が引き上げられ、子ども1人につき50万円が支給されるようになりました。産科医療補償制度に加入の医療機関などで週数22週未満で出産した場合や、産科医療補償制度に未加入の医療機関などで出産した場合の支給額は、48.8万円です。

産休手当は賃金によって支給額が異なりますが、出産育児一時金は一律に支給されます。
(出典:厚生労働省「出産育児一時金の支給額・支払方法について」

■関連記事

産休・育休はいつから取れる? 制度の概要ともらえる手当について解説

産休手当が支給される条件

産休手当が支給される条件

産休手当は、3つの条件を満たしている人が受給できます。

  • 会社の健康保険に加入している(被保険者)
  • 妊娠4か月(85日)以降に出産している
  • 出産のために休業している

3つの条件について、以下で詳しく解説します。

1.会社の健康保険に加入している(被保険者)

産休手当を受け取る条件の1つは、本人が会社の健康保険に加入している被保険者であることです。正社員でなくても、以下のいずれかの条件を満たす方は社会保険(健康保険)の加入対象です。

  • フルタイムで働いている方
  • 週の所定労働時間および月の所定労働日数がフルタイムの4分の3以上の方
  • 従業員数101人以上の企業で働く、以下のすべてを満たす方
  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 月額賃金が8.8万円以上
  • 2か月を超える雇用の見込みがある(フルタイムで働く方と同様)
  • 学生ではない

パートやアルバイトの方も、会社の健康保険に加入していれば産休手当が支給されます。

2.妊娠4か月(85日)以降に出産している

産休手当を受給できるのは、妊娠4か月(85日)以降に出産している方です。妊娠4か月以上であれば、早産や死産・流産、人工妊娠中絶の場合も対象に含まれます。

3.出産のために休業している

産休手当は、原則として出産のために産前・産後休暇を取得している人が対象です。産休中に給与の支払いがあった場合でも、産休手当の日額より少なければ、産休手当と給与の差額が支給されます。

産休手当がもらえないケースもある

産休手当がもらえないケースもある

産休手当の支給対象外となるケースもあります。以下はその主な例です。

  • 国民健康保険加入者である
  • 健康保険の扶養家族として健康保険の扶養に入っている。
  • 健康保険の任意継続被保険者である(健康保険法第104条による継続給付の要件を満たしている者は除く)
  • 休職期間中に出産手当金以上の給与を受け取っている
  • 休業した日から申請までが2年を超えている

上記の条件に1つでも該当すると、産休手当の受給資格を喪失します。たとえば、自営業者やフリーランスなどで国民健康保険に加入している方、配偶者の健康保険に扶養家族として登録されている方は対象外です。

また、退職後に健康保険の任意継続制度を利用している場合も同様です。休職期間中に出産手当金以上の給与額がある場合や、申請期限を過ぎた場合も受給できません。これらの条件に該当するかどうか事前に確認し、請求期間内に申請しましょう。

■関連記事

出産手当金がもらえない場合もある? 適用条件や期間を解説

産休手当はいつ入る? 金額はどれくらい?

産休手当はいつ入る? 金額はどれくらい?

産休手当は申請してすぐに支給されるのではなく、一定期間後に給与に応じた金額が振り込まれます。

以下では産休手当の支給日や金額の計算方法について解説します。自分がいつ・いくら受給できるのか知っておきましょう。

産休手当の支給日

産休手当の支給日は、健康保険協会や健保組合の各機関によって異なりますが、申請から1~2か月後に指定口座に一括で振り込まれるケースが見られます。申請内容に不備があると、上記の支給日よりも後ろ倒しになるため注意が必要です。

産休手当の支給が決まったら、申請から2~3週間後に「給付金支給決定通知書」が届くので、対象者の名前や期間、金額などを確認しましょう。

産休手当の計算方法

産休手当の給付金額は、以下の計算式で算出できます。

【1日あたりの金額】

支給開始日の以前12か月間の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3

(※支給開始日:最初に出産手当金が支給された日のこと)

たとえば、標準報酬月額の平均額が30万円の方が産休(産前42日・産後56日)を取得した場合、支給される産休手当の総額は以下の通りです。

30万円÷30日×2/3=6,667円

6,667円×98日(産前42日・産後56日)=65万3,366円

なお、産休手当の支給対象となるのは、出産日(出産が予定日より後になった場合は、出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの範囲で、給与が支給されなかった期間です。

■関連記事

出産手当金が早く欲しい方必見! 申請するタイミングや対処法を紹介

出産予定日が変わったときの産休手当の金額

出産予定日と実際の出産日が異なった場合、産休手当の金額も変動します。

出産が予定日より遅れた場合でも、予定日から出産日までの期間は産前休業に含まれ、産休手当が支給されます。産後休業の期間については変わりません。

【標準報酬月額の平均額が30万円で、予定より10日遅い場合】

計算式 30万円÷30日×2/3×(産前42日+10日+産後56日)
給付額 6,667円×108日=約72万円

一方、予定日よりも早く生まれた場合は注意が必要です。出産手当金の申請期間は、出産日を基準に計算されます。出産手当金の支給は、期間中に給与を受け取っていない、もしくは出産手当金以下の金額であることが条件です。そのため、出産が早まった場合は出産日の6週間前までさかのぼり、出勤状況がどのようになっていたか勤務先に確認しましょう。

産休手当の申請方法

産休手当の申請方法

産休手当の申請は、産後57日以降の産休明けに産前休業・産後休業の分をまとめてするのが一般的です。ただし、産休に入る前から準備をしておいたほうが手続きはスムーズに進みます。

申請の流れを確認して、産休手当をスムーズに受け取りましょう。

1.申請書を準備する

産休に入る前に、勤務先の企業や加入している健康保険組合などから、「健康保険出産手当金支給申請書」を入手します。全国健康保険協会に加入している方の場合、申請書は全国健康保険協会のホームページで印刷も可能です。(健保組合の方は各健保組合に確認)

協会けんぽに加入している方で支給開始日以前の12か月以内で事業所に変更のあった場合は、以前の各事業所の名称、所在地、各事業所に使用されていた期間がわかる書類が必要です。
参照元:全国健康保険協会「健康保険出産手当金支給申請書」

2.本人記入欄を書く

※以下の項目は「協会けんぽ」の申請書の項目を基に記載しています

申請書を手元に準備したら、まずは1ページ目と2ページ目の被保険者記入欄を書きます。

記入項目は以下の通りです。

<1ページ目:被保険者(申請者)情報>

  • 被保険者証の記号・番号
  • 生年月日
  • 氏名
  • 郵便番号および住所
  • 電話番号

<1ページ目:振込先指定口座>

  • 金融機関名称
  • 支店名
  • 預金種別
  • 口座番号

<2ページ目:申請内容>

  • 申請期間(出産のために休んだ期間)
  • 出産前の申請か、出産後の申請か
  • 出産予定日と出産年月日
  • 出生児数または死産児数
  • 申請期間の報酬の有無

記入漏れや記入ミスがあった場合は受理されないため、記入後にしっかりと確認しておきましょう。

3.担当医に記入してもらう

入院の際に医療機関に申請書類を提出し、担当医に2ページ目の「医師・助産師による証明」欄を記入してもらいます。医療機関によっては、文書料が必要です。文書料の有無や金額は、申請書類の提出時に確認しましょう。

4.書類を提出する

被保険者本人および担当医に必要事項を記入してもらったら、勤務先に健康保険出産手当金支給申請書を提出しましょう。勤務先の担当者が申請書3ページ目の事業主記入欄を記入したうえで、加入している健康保険組合、または協会けんぽに郵送します。

5.産休手当が振り込まれる

申請書類が受理されると、産休手当が支給されます。

産休手当の申請から入金までは1〜2か月ほどかかります。

■関連記事

出産手当金を受け取るには? 対象者や申請方法を詳しく解説

産休手当を申請するタイミング

産休手当を申請するタイミング

産休手当を申請するタイミングと方法には、一括申請と分割申請の2種類があります。それぞれの違いを理解し、自分自身に合った方法を選ぶことが大切です。

一括で申請する
一括申請は、産前と産後などの支給対象期間をまとめて申請する方法です。出産後56日が経過し、その月の給与締め日を過ぎた後に申請できます。

給与の支払い状況を確認する必要があるため、申請から入金までは1〜2か月程度かかり、実際の産休手当支給開始日は出産日から3〜4か月先です。一括申請は手続きがシンプルですが、支給までの時間が長くなる点を考慮する必要があります。

分割で申請する
分割申請は、産前と産後の支給対象期間を別々に申請する方法です。分割で申請すると出産後56日を待つ必要がなく、比較的早く手当を受け取ることが可能です。しかし、申請するたびに事業主の証明を得る必要があります。

産休手当の申請は、予定日を基にして行います。出産予定日のみの医師証明で申請する場合、出産予定日までの申請が可能ですが、予定日以降の申請はできません。また、分割申請の場合、最初の申請では出産日の証明が必要なものの、2回目以降は省略できるケースもあります。分割申請は早めに支給を受けられるメリットがある反面、申請手続きが複数回必要になるデメリットに注意が必要です。

申請から支給までの期間は健康保険組合によって異なるため、事前に確認することが重要です。また、産休期間中は長い間収入がないため、生活費など経済的負担の計画も立てておきましょう。自分の状況に合わせて最適な申請方法を選んでください。
(出典:子どもが生まれたとき | こんな時に健保 | 全国健康保険協会

■関連記事

出産手当金が早く欲しい方必見! 申請するタイミングや対処法を紹介

退職後に産休手当を受け取る条件

退職後に産休手当を受け取る条件

以下3つの条件をすべて満たしていれば、退職者でも産休手当を受け取れます。

  • 継続して1年以上の被保険者期間がある
  • 退職日までに出産手当金の条件を満たしている
  • 退職日に出勤していない

まず、健康保険に加入していた期間が連続1年以上必要です。途中で転職していても、加入期間が連続していれば問題ありません。ただし、健康保険の任意継続期間は含まれない点に注意しましょう。

次に、退職日までに出産手当金を受ける条件を満たしている必要があります。退職日が出産の42日前(多胎妊娠の場合は98日前)以内に含まれているか、勤務状況を確認しましょう。出産予定日が退職日より42日以降であっても、実際の出産日から逆算して42日以内であれば請求可能です。なお、出産が予定日以降になった場合は、42日を超えていても問題なく受け取れます。

退職日に出勤していないことも条件です。退職日が有給休暇中であれば問題ありませんが、退職日に実際に労働していた場合は、その翌日からの出産手当金は受け取れません。

健康保険組合によって支給要件が異なる可能性があるため、必ず事前に確認しましょう。
(出典:子どもが生まれたとき | こんな時に健保 | 全国健康保険協会

産休手当以外の手当の内容

産休手当以外の手当の内容

出産や育児をサポートするために、国では産休手当以外にもさまざまな助成を行っています。

以下では、育児休業給付金・出生時育児休業給付金・児童手当といった、主な手当の内容について詳しく解説します。

■関連記事

育休中に給料はもらえる? 受け取れる給付金や手当について解説

育児休業給付金

育児休業給付金は、雇用保険の被保険者が育児休業を取得した際に支給される手当です。通常は子どもが1歳になるまでの期間支給されますが、パパ・ママ育休プラス制度を利用すると1歳2か月、特定の条件下では2歳まで延長されることもあります。

【主な支給条件】

  • 1歳未満の子を養育するために育児休業を取得している
  • 休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある(ない場合は賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上の)完全月が12か月以上ある
  • 一支給単位期間中の就業日数が10日以下、または就業した時間数が80時間以下である
  • 子どもが1歳6か月に達する日までの間に、その労働契約の期間が満了することが明らかでない

【支給額】

  • 育休開始~180日目まで:休業開始前賃金の67%
  • 181日目以降:休業開始前賃金の50%

支給額には上限額と下限額が設定されています。また、賃金がある場合は、賃金と給付金の合計が休業開始前賃金の80%を超えると減額の対象になります。
(出典:厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
(出典:公益財団法人 生命保険文化センター「出産や育児への公的な経済支援を知りたい」

■関連記事

育休中に給料はもらえる? 受け取れる給付金や手当について解説

出生時育児休業給付金

出生時育児休業給付金は、男性の育児参加を促進し、育児休業を取得しやすい環境を整える「産後パパ育休」のために設けられた給付金です。産後パパ育休は、男性が産後休業中の女性をサポートする「男性版産休」としても知られています。

【主な支給条件】

  • 子の出生日から起算して8週間を経過する日の翌日までの期間内に、4週間以内の期間を定めて産後パパ育休を取得した
  • 休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある(ない場合は賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上の)完全月が12か月以上ある
  • 休業期間中の就業日数が最大10日(10日を超える場合は就業した時間数が80時間)以下である
  • 子どもの出生日から数えて、8週間を経過する日の翌日から6か月を経過する日までに、その労働契約の期間が満了することが明らかでない

産後パパ育休は2回まで分割して取得できます。支給額は育児休業給付金と同様です。
(出典:厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
(出典:公益財団法人 生命保険文化センター「出産や育児への公的な経済支援を知りたい」

児童手当

児童手当は、0歳から中学校を卒業するまでの子どもを養育している人に支給される手当です。原則年3回支給され、子どもの数や年齢に応じて金額が異なります。

【主な支給条件】

  • 中学校修了前の子どもを養育している

【支給額(子ども1人あたり)】

  • 3歳未満:月額15,000円
  • 3歳~小学校卒業前:第1子・第2子は月額10,000円、第3子以降は月額15,000円
  • 中学生:月額10,000円

児童手当には所得制限が設けられており、一定の所得を超える世帯は特例給付として、子ども1人につき月額5,000円が支給されます。
(出典:公益財団法人 生命保険文化センター「出産や育児への公的な経済支援を知りたい」
(出典:千葉県庁「児童手当とは、どういう制度ですか。」

産休手当に関する疑問

産休手当に関する疑問

産休にあたって、自分が産休手当の支給対象になるのか、いつからいつまで手当を受け取れるのかといった点が心配になる方も多いでしょう。以下では、産休手当に関する疑問についてQ&A形式で回答しています。疑問を解消して、安心して産休に入りましょう。

Q.産休手当の対象期間は?

産休手当の対象となるのは、出産予定日以前の42日(多胎妊娠の場合は98日)から、出産日の翌日以降56日までの範囲内で、会社を休んで給与の支払いがなかった期間です。

出産予定日より遅れて出産した場合は、出産予定日以前の42日+出産予定日から遅れた出産日までの日数+産後56日が対象期間となります。

Q.産休手当はどこから入る?

産休手当は、勤務先で加入している健康保険から支給されます。そのため、自営業や個人事業主など、国民健康保険に加入している方には産休手当が支給されません。

Q.扶養内のパートも産休手当を受け取れる?

扶養内パートの方の場合、自身で会社の健康保険に加入しているわけではないため、産休手当は受け取れません。

産休手当が受け取れるのは、夫の扶養に入っておらず、会社の健康保険に加入しているパートの方です。

まとめ

産休期間中は原則として給与の支払いがありませんが、産休手当(出産手当金)が支給されます。支給要件や申請方法、支給額、受給期間などを確認し、安心して産休に入れるようにしておきましょう。

子育てをしながら看護職として活躍し続けるには、妊娠・出産や育児に理解のある職場を選ぶことが大切です。子育てしやすい職場への転職を考えている方は、キャリアアドバイザーのサポートを受けられる「マイナビ看護師」にぜひご相談ください。

※当記事は2023年12月時点の情報をもとに作成しています

著者プロフィール