出産を控えている女性のなかには、産休中に収入がないことを不安に思っている方もいるでしょう。基本的に産休中は給与の支払いがありませんが、「産休手当(出産手当金)」という公的なサポート制度が存在します。
この記事では、産休手当の概要や受け取れる人の条件、申請方法を解説しています。また、支給金額の計算方法や受給期間についてもまとめているので、産休に入る前に確認して不安を解消しておきましょう。
産休手当(出産手当金)とは
産休手当とは、健康保険に加入している女性が産休を取得する際に、加入している健康保険組合から受け取れる手当のことです。正式名称を「出産手当金」といいます。
労働基準法第65条において、「使用者は、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合には、その者を就業させてはならない」「企業は産後8週間を経過しない女性は就業させてはいけない」と定められています。
産休中は企業に給与の支払い義務がなく、多くの女性は無給となります。そのため、お金の不安を抱えずに安心して産休が取れるよう、産休手当が設けられました。出産で仕事を休む女性にとって、産休手当は非常に心強い経済的サポートです。
参照元:
e-Gov法令検索「労働基準法」
全国健康保険協会「出産で会社を休んだとき」
出産育児一時金との違い
出産育児一時金とは、日本の公的医療保険制度の被保険者および被扶養者で、妊娠4ヶ月(85日)以上の方が出産した場合に支給される一時金です。出産育児一時金の支給額は、以下のとおりです。
産科医療補償制度に加入している医療機関などで妊娠週数22週以降に出産した場合 | 1児につき50万円 |
---|---|
産科医療補償制度に未加入の医療機関などで出産した場合 | 1児につき48.8万円 |
産科医療補償制度に加入している医療機関などで妊娠週数22週未満で出産した場合 |
2023年4月より支給額が引き上げられ、子ども1人につき50万円が支給されるようになりました。産科医療補償制度に未加入の医療機関などで出産した場合や、産科医療補償制度に加入している医療機関などで週数22週未満で出産した場合の支給額は48.8万円です。
産休手当は賃金によって支給額が異なりますが、出産育児一時金は一律に支給されます。
■関連記事
産休・育休はいつから取れる? 制度の概要ともらえる手当について解説
産休手当が支給される対象者
産休手当は、以下の3つの条件を満たしている人に支給されます。
- 会社の健康保険に加入している(被保険者)
- 妊娠4ヶ月(85日)以降に出産している
- 出産のために休業している
1.会社の健康保険に加入している(被保険者)
産休手当を受け取る条件の1つは、本人が会社の健康保険に加入している被保険者であることです。正社員でなくても、以下のいずれかの条件を満たす方は社会保険(健康保険)の加入対象です。
- フルタイムで働いている方
- 週の所定労働時間および月の所定労働日数がフルタイムの4分の3以上の方
- 従業員数101人以上の企業で働く、以下のすべてを満たす方
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがある(フルタイムで働く方と同様)
- 学生ではない
パートやアルバイトであっても、会社の健康保険に加入していれば産休手当が支給されます。
2.妊娠4ヶ月(85日)以降に出産している
産休手当が支給されるのは、妊娠4ヶ月(85日)以降に出産している方です。妊娠4ヶ月以上であれば、早産や死産・流産、人工妊娠中絶の場合も対象に含まれます。
3.出産のために休業している
産休手当は、原則として出産のために産前・産後休暇を取得している人が対象です。産休中に給与の支払いがあった場合でも、産休手当の日額より少なければ産休手当と給与の差額が支給されます。
産休手当はいつ入る?金額はどれくらい?
産休手当は申請してすぐに支給されるのではなく、一定期間後に給与に応じた金額が振り込まれます。
以下では、産休手当の支給日や金額の計算方法について解説します。「いつ入るのか」「いくら支給されるのか」を知っておきましょう。
産休手当の支給日
健康保険協会や健保組合の各機関によって異なりますが、産休手当の支給は主に申請から1~2ヶ月が経過してからです。指定口座に振り込まれます。申請内容に不備があると、上記の支給日よりも後ろ倒しになるため注意が必要です。
産休手当の支給が決まったら、申請から2~3週間後に「給付金支給決定通知書」が届くので、対象者の名前や期間、金額などを確認しましょう。
産休手当の計算方法
産休手当の給付金額は、以下の計算式で算出できます。
たとえば、標準報酬月額の平均額が30万円の場合、支給される産休手当の総額は以下のとおりです。
6,667円 ×(産前休暇42日 + 産後休暇56日)= 65万3,366円
なお、産休手当の支給対象となるのは、出産日(出産が予定日より後になった場合は、出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの範囲で、給与が支給されなかった期間です。
■関連記事
出産手当金の計算方法は? 対象期間や申請の際のポイントも
産休手当の申請方法
産休手当は産後57日以降の産休明けに、産前休業・産後休業の分をまとめて申請するのが一般的です。ただし、産休に入る前から準備をしておいたほうが手続きはスムーズに進みます。
申請の流れを確認して、産休手当をスムーズに受け取りましょう。
1.申請書を準備する
産休に入る前に、勤務先の企業や加入している健康保険組合などから、「健康保険出産手当金支給申請書」を入手します。全国健康保険協会に加入している方の場合、申請書は全国健康保険協会のホームページから印刷可能です(健保組合の方は各健保組合に確認)。
2.本人記入欄を書く
申請書を手元に準備したら、被保険者証の記号・番号や生年月日、氏名、電話番号、住所、振込先指定口座など、被保険者記入欄を書きます。
記入漏れや記入ミスがあった場合は受理されないため、記入後にしっかりと確認しておきましょう。
3.担当医や助産師に記入してもらう
入院の際に医療機関に申請書類を提出し、担当医や助産師に医師・助産師記入欄を書いてもらいます。医療機関によっては文書料が必要です。文書料の有無や金額は、申請書類の提出時に確認しましょう。
4.書類を提出する
申請書の記入が完了したら、勤務先に提出しましょう。勤務先の担当者が事業主記入欄を書いたうえで、加入している健康保険組合または協会けんぽに郵送します。
5.産休手当が振り込まれる
申請書類が受理されると、産休手当が支給されます。産休手当の申請から入金までは1〜2ヶ月ほどかかります。
■関連記事
出産手当金の申請から入金までの流れは?早く受け取る方法も解説
退職後でも条件を満たせば産休手当を受け取れる
以下2つの条件を満たしていれば、退職後も引き続き産休手当を受け取れます。
- 退職日まで継続して1年以上健康保険に加入している
- 退職時点で出産手当金の支給条件を満たしている
なお、退職日に出勤していた場合は継続給付を受ける条件を満たさないため、退職日の翌日以降の出産手当金は受け取れません。
産休手当に関する疑問
産休に入るにあたって、「自分が産休手当の支給対象になるのか」「いつからいつまで手当を受け取れるのか」といった点が心配になる方も多いでしょう。
以下では、産休手当に関するよくある疑問について解説しています。疑問を解消して、安心して産休に入りましょう。
産休手当の対象期間は?
産休手当の対象となるのは、出産予定日以前の42日(多胎妊娠の場合は98日)から、出産日の翌日以降56日までの範囲内で、会社を休んで給与の支払いがなかった期間です。
出産予定日より遅れて出産した場合は、出産予定日以前の42日+出産予定日から遅れた出産日までの日数+産後56日が対象期間となります。たとえば、実際の出産が予定より5日遅れた場合、その5日分も含めて支給されます。
扶養内のパートも産休手当を受け取れる?
扶養内パートの方の場合、自身で会社の健康保険に加入しているわけではないため、産休手当は受け取れません。
産休手当が受け取れるのは、夫の扶養に入っておらず、会社の健康保険に加入しているパートの方です。
産休手当が支給されない人とは?
以下の条件に1つでも該当すると、産休手当は支給されません。
- 国民健康保険の加入者である
- 家族の健康保険の扶養に入っている
- 健康保険を任意継続している(健康保険法第104条による継続給付の要件を満たしている者は除く)
- 休職期間中に出産手当金以上の給与を受け取っている
- 休業した日から申請までが2年を超えている
出産を控えている方は、上記に該当しないかしっかりと確認しておきましょう。
■関連記事
出産手当金がもらえない場合もある? 適用条件や期間を解説
まとめ
産休期間中は原則として給与の支払いがありませんが、産休手当(出産手当金)が支給されます。支給要件や申請方法、支給額、受給期間などを確認し、安心して産休に入れるようにしておきましょう。
子育てをしながら看護職として活躍し続けるには、妊娠・出産や育児に理解のある職場を選ぶことが大切です。子育てしやすい職場への転職を考えている方は、キャリアアドバイザーのサポートを受けられる「マイナビ看護師」にぜひご相談ください。