【識者の眼】「新型コロナが炙り出したもの」垣添忠生

ナースぷらす 編集部からのコメント

今回の日本医事新報『識者の眼』は、日本対がん協会の垣添忠生会長が「新型コロナが炙り出したもの」というテーマで、今年初頭から猛威を振るい、その蔓延が人間の生命を脅かすだけでなく、人間社会に突きつけた「新型コロナウイルスの根源的な問い」について記しています。

そこには医療問題だけでなく、経済格差が浮き彫りとなってきます。そして垣添会長が最も深刻な問題として挙げているのが「コロナによって生じている差別」です。

そこに日本社会が抱える独特な気質、問題点が集約されていると指摘する垣添会長は「車はハンドルにゆとりや遊びがあって、初めて制御可能になるのだ」と新型コロナによって窮屈化する一方の日本社会に警鐘を鳴らします。

新型コロナウイルスの蔓延がわが国に突き付けた根源的な問いは数多い。

まず経済格差。フリーランス、非正規職員、シングルマザー、学生や留学生等多くの人々が職を失い、生存の危機すら覚えている。

オンライン授業を受ける側のICT環境の違いによるオンライン格差、テレワークの進展が浮かび上がらせた男女格差や就労環境問題。給付金の支給に際しては、国のデジタル化の遅れも際立った。

さらに、がんや持病のある健康弱者は、手術の延期や通院の制限など十分な医療を受けられなかった。お見舞いのハードルも高くなった。そして医療機関の経営も大きなダメージを受けた。

どれも深刻な問題(課題)だろう。だが、私が最も見過ごせないのは、コロナによって生じている差別である。医療従事者の子どもが託児所で受け入れを断わられたり、感染者に対するバッシング、コロナ狩りや自粛警察など、差別の問題は顕著だ。

この夏の猛暑の中でもマスクを強要する社会の重苦しさは、単にマスクの物理的な問題だけではなかろう。過度に同調を求める圧力、強い者に忖度してしまう精神風土、均一社会を良しとする国家観、人間観まで関わってくる。

新型コロナウイルスに感染したことを自己責任と考える人の割合が、日本は11.5%で、米英の10倍以上という大阪大教授らの調査もある。感染者を出した大学などは謝罪する。

こうした風潮の背後には、本質的な問いがあるはずだ。企業で中間管理職が尖った人材や異論を排し、そのために新しい発想が生まれない、といったことにまで繋がっていくのではないか。

それは女性管理職の比率が先進国の中で極端に少ない国であることや、性的マイノリティーや障害者の排除といったdiversityの否定にも繋がってしまう。

かつてのソニーやホンダのような革新性や独創性は、夢のまた夢になってしまった。

生権力という言葉がある。人間の「生」に介入することで集団を効率的に管理、統治する権力を指す。

こうした緊急事態では、一方で冷めた眼で、こうした権力行使にも目配りが必要である。生き延びること以外の価値を持たない社会になってしまって良いはずはない。

車はハンドルにゆとりや遊びがあって、初めて制御可能になるのだ。

垣添忠生(日本対がん協会会長)[新型コロナウイルス]

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