緊急寄稿(4)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアビガン承認に向けて(白木公康)

ナースぷらす 編集部からのコメント

新型コロナウイルス感染症に対するアビガン承認に向けて、開発者である白木公康氏(千里金蘭大学副学長,富山大学医学部名誉教授)が日本医事新報に緊急寄稿を寄せています。
白木氏は①「ウイルス増殖を11サイクル阻止して病期を2.8日短縮」、②「COVID-19に有効である薬理学的根拠」、③「帯状疱疹からCOVID-19肺炎の病態を理解する」、④「初期胚の致死および催奇形性はテロメラーゼによって生じる?」、⑤「海外の状況」、⑥「おわりに」と、全6項目にわたって、アビガンの有効性を説明しています。ぜひ、お読みください。

しらき きみやす:1977年阪大卒。2013年富山大学医学部学科長,2019年4月から現職。専門は臨床ウイルス学。新型コロナウイルス感染症の治療薬の候補に挙がっている抗インフルエンザウイルス薬ファビピラビル(商品名:アビガン)を開発


■1. ウイルス増殖を11サイクル阻止して病期を2.8日短縮

富士フイルム富山化学株式会社は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)肺炎患者の症状(体温,酸素飽和度,胸部画像)の軽快かつウイルスの陰性化までの時間を主要評価項目として,抗インフルエンザウイルス薬アビガン(一般名ファビピラビル)投与の有効性と安全性をランダム化プラセボ対照単盲検比較試験で検討した1)

主要評価項目の中央値は,ファビピラビル群11.9日,プラセボ群14.7日で,ファビピラビルは有意の短縮を認めた。平均的なCOVID-19は帯状疱疹と同様に,5~6日のウイルス増殖と約2週間のウイルスに対する細胞性免疫応答による炎症があり,罹病期間が約3週間の疾患である。そのうち2.8日の短縮は免疫応答期間の短縮ではなく,ウイルス増殖期間の短縮であり,11回分のウイルス増殖サイクルを阻止したことを意味する(図1)。したがって,ファビピラビルは,帯状疱疹の治療に使用される抗ヘルペス薬並みに有効であると思われる。

■2. COVID-19に有効である薬理学的根拠

既存薬は,服薬時の血中薬剤濃度〔最高濃度(Cmax)や最低濃度(トラフ濃度)〕などの薬効解析に必要な情報が既にあるので,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗ウイルス活性の濃度が分かれば,治療効果の判断ができる。すなわち,抗ウイルス活性を示す濃度が服薬時の血中最低濃度以下であれば,1日中薬剤の血中濃度は薬効を示す濃度を確保していることになるので,COVID-19に対する有効性が期待できる。

中国はCOVID-19に対して,国を挙げて対策に取り組んだ。まず,7万以上の薬物または化合物のコンピューターシミュレーションと酵素活性試験を通じて,5000の薬物候補を選択した。従来のコロナウイルスに対して細胞レベルでテストし,約100の薬物を選択し,最終的に,抗マラリア薬クロロキン,抗インフルエンザ薬ファビピラビル,エボラ出血熱に使用されたレムデシビルの3剤に絞った2)

Wangらは,標準的抗RNAウイルス薬リバビリン3)を抗SARS-CoV-2活性の陽性対照として,抗SARS-CoV-2活性の測定を行った。ファビピラビルのインフルエンザ治療量服用時の血中濃度は240~380μMなので,10~400μMで活性を測定したところ,EC50が61.88μMであった(図2)。そのため,インフルエンザの投与量でCOVID-19の治療に有効なファビピラビルの血中濃度が1日中維持できると推測して,中国で臨床試験が実施された。

一方,我が国の国立感染症研究所は抗SARS-CoV-2活性について,ファビピラビル等の競合作用のある核酸誘導体では標準的なプラック減少法を用いず,薬効発現に100~1000倍濃度が必要な増殖抑制法を用い,ファビピラビルのインフルエンザ治療量服用時の血中最低濃度240μMにも満たない64μMまでしか測定していない4)。この結果によって,わが国では「ファビピラビルが新型コロナウイルスに有効でない」という間違った情報が流布されたことは残念である。

ちなみに,Wangらの報告2)によると,クロロキンのEC50が1.13μMで,300mg投与の最高血中濃度は1.47μM5)となり,関節リウマチ治療量の500mgの投与で,COVID-19に有効な可能性があるとした。この情報に基づき,世界各地で,COVID-19に対してクロロキンが使用された。血中動態を参考として,候補薬を見出した点で影響の大きな論文であると思う。

■3. 帯状疱疹からCOVID-19肺炎の病態を理解する

インフルエンザウイルス,水痘帯状疱疹ウイルス,単純ヘルペスウイルスなど急性ウイルス感染症を起こすウイルスに感染すると,感染細胞は細胞培養では死滅するが,生体内では死滅せず,ウイルス核酸や蛋白を発現しながら,見掛け上正常な細胞に変化していく。たとえば麻疹の感染細胞は抗体の存在により,抗原発現を停止して正常細胞化するが,抗体を抜くと再びウイルス抗原が発現してくる6)。私たちは水痘帯状疱疹ウイルス感染細胞が中和抗体の処理により,後根神経節に潜伏感染した神経細胞の抗原発現に限定され,ウイルス蛋白発現を失って,見掛け上,正常細胞になることを報告した7)

このように抗体が感染細胞の性状を変化させる現象は“抗原変調”として知られている。単純ヘルペスウイルスは,皮膚病変の回復後にその部位に多形滲出性紅斑を発症させることがあるが,その皮膚には単純ヘルペスウイルスのDNAが検出される8)。生体内では感染細胞の集団は死滅せず,感染が終息しても見かけ上正常細胞として生き続ける。つまり,単純ヘルペスウイルス感染細胞の死滅によって皮膚欠損を生じるのではない。水痘や帯状疱疹でも,強い炎症を伴わない限り,ウイルス感染細胞の死滅によって皮膚欠損や瘢痕形成が生じることはない。

COVID-19肺炎は,SARS-CoV-2感染細胞に強い炎症所見を示し,回復後に組織構築はほぼ保たれているものの,強い炎症に伴う線維化や瘢痕化という後遺症を残すことがある。また,SARS-CoV-2は,約6時間で,1サイクルの増殖を終えて感染が広がるが,ここで感染細胞は死滅せずに,後述する帯状疱疹のように,細胞性免疫応答によって,最終的に正常細胞化すると思われる。感染細胞がウイルス抗原の発現を続けるため,細胞性免疫応答による炎症と,さらにRNAウイルスとしてToll様受容体を介してサイトカインを産生して生じる炎症が長期に続く。こうしてCOVID-19肺炎が発症する。

私は日本医事新報No.5006(2020年4月4日号)に,ウイルス感染症は大きく2つ(インフルエンザ型と水痘型)に分かれ,抗ウイルス薬による効果は異なることを記載した。このうちインフルエンザは,上気道に感染して上気道でサイトカインが産生されて症状を呈する。抗ウイルス薬を投与するとウイルス感染は拡大しないが,既に感染して,ウイルスRNA合成を終えた細胞は残存し,サイトカイン放出が減少する1~2日後までインフルエンザ症状が残り,ウイルスも検出される。

一方,水痘は潜伏期が約2週間で,ウイルスに対する細胞性免疫応答が紅斑,水疱,膿疱を発症させる。細胞性免疫応答の時間経過については,ツベルクリン反応や漆かぶれの経過が参考になる。抗原と接触後,5~6時間から発赤が始まり,48~72時間に炎症のピークが来て1週間続く。抗原との1回の接触のみで発赤腫脹は1週間続く。通常の帯状疱疹では,水痘帯状疱疹ウイルス感染細胞に対する細胞性免疫応答により炎症が誘導され,紅斑・水疱が形成され,皮疹の発赤消失までに約3週間の経過をたどる。COVID-19肺炎も,SARS-CoV-2感染細胞に対する細胞性免疫応答により炎症・すりガラス陰影等の炎症像を呈する。すりガラス陰影等が帯状疱疹での炎症像・発赤に相当すると考え,帯状疱疹の抗ウイルス薬の効果と治癒過程を参考にすると,COVID-19に対するファビピラビルの効果とCOVID-19肺炎の治癒過程の理解ができる。

図3は感染細胞の集団を示している。周辺の細胞は感染して早期であるので,抗ウイルス薬に感受性が良くウイルス増殖は停止する9)。4~5時間ほどするとウイルス核酸が合成されているので,抗ウイルス薬は効きにくくなり,10時間以降は抗ウイルス薬が効かないだけでなく,死滅せずにウイルス産生を続けて細胞性免疫を刺激し続ける。

図4のように,帯状疱疹では,抗ウイルス薬治療開始後も3~5日は細胞性免疫応答による局所病変の悪化を認め,新生皮疹は4日まで生じる。この症例では,抗ウイルス薬投与開始後に新生皮疹はなく,水疱形成に進展していないので著効である。漆かぶれの様に一度細胞性免疫応答が始まってしまうと,紅斑の中心部の発赤や腫脹が3~5日間増強するように,抗ウイルス薬では既存の感染細胞に対する炎症の増強を止めることができない。このように,帯状疱疹はウイルス増殖が関与する期間と,生存する感染細胞に対する細胞性免疫応答による炎症の期間があり,皮疹の発赤消失までの期間は約3週間となる。

図4の帯状疱疹の治療経過を見て,抗ウイルス薬投与を開始しても発疹の発赤や腫脹などは増悪しているので,抗ウイルス薬が効いていないと感じる人がいても当然と思う。しかし,個々の病変の炎症悪化は抗ウイルス薬の影響ではなく,感染細胞に対する細胞性免疫応答による炎症であることを理解すると,COVID-19肺炎に対するファビピラビルの効果が理解できる。

すなわち,ファビピラビル治療を始めてから,3~5日の経過を経て改善が認められ始める。投与直後は「即効性がない」「有効性がない」と感じるかもしれないが,これが細胞性免疫応答によって生じた疾患に対する抗ウイルス薬の効果の現れ方であり,この炎症の改善には,漆かぶれにも有効なデキサメタゾンのような抗炎症薬のほうが有効であることは理にかなっている。実際,皮膚科の先生方は,抗ヘルペス薬の効果指標を炎症の改善ではなく,新生皮疹の早期停止や水疱を形成しないなどの軽症化としている。

つまり,COVID-19肺炎にファビピラビルを使用するとウイルスに著効でも,炎症には即効性は期待できないことと,治療を開始しても数日の炎症像の悪化は避けがたいと理解していただくことが必要と思われる。また,感染して10時間以降の細胞ではウイルスRNA生産を終えているので,RNA合成阻害薬であるファビピラビルは有効ではない。ファビピラビルは,このような細胞群の周囲にあるRNA合成前の細胞にのみ有効で,感染の広がりを止めるだけである。したがって,ファビピラビルは早期に使用して,大きな炎症(肺炎)を起こさせないようにしないと3週間の罹病期間は短縮できない。

■4. 初期胚の致死および催奇形性はテロメラーゼによって生じる?

ファビピラビルが抗インフルエンザ薬として開発される中で,初期胚の致死および催奇形性があることが判明したので,ファビピラビルの初期胚の致死および催奇形性や精巣障害について抗ウイルス薬の中での程度の比較を富山化学(当時)にお願いした。審議結果報告書10)にあるように,胎児障害はRNA依存性RNA合成酵素阻害薬のリバビリンにも認められていた。ファビピラビルの初期胚の致死および催奇形性のメカニズムが不明であったので,成人に使用した場合にどのような副作用として現れるかが懸念された。この点に関して,テロメラーゼが関与することが推測され,禁忌が妊婦に限られる可能性が明らかになってきた11)

テロメアは染色体の末端にある繰り返し配列で,染色体の保護と,寿命に関係するとされている。DNA複製の際に,ラギング鎖は50~150塩基短くなり,分裂を繰り返す中で,テロメアがなくなると寿命がくるとする仮説がある。そのため,受精卵から初期胚までの間に,テロメラーゼによってテロメアを十分な長さに延長・回復する必要がある。テロメラーゼの持つ逆転写酵素はテロメアRNA要素を鋳型としてテロメアを延長していく。

さらに,テロメラーゼはRNA合成酵素活性を有しRNAも合成して,RNA干渉によって,受精卵から初期胚の遺伝子発現の調節を行っている12)。この過程にファビピラビルが存在すると,テロメラーゼに間違って取り込まれ,遺伝子発現調節が障害され,初期胚の致死および催奇形性に影響する可能性が考えられる。したがって,ファビピラビルによる初期胚の致死および催奇形性への影響は避けられず,リバビリンを含めたRNA依存性RNA合成酵素阻害薬の宿命と思われる。

テロメラーゼの発現細胞は,受精卵から初期胚と,幹細胞,癌細胞である。癌細胞でテロメラーゼは発現しているが,これによる障害は考えにくい。

ファビピラビルの精巣障害についてはマウスやラットでは認められたが,ウサギやサルでは認められなかった。また,米国でのインフルエンザの臨床試験では,ファビピラビル群57名とプラセボ群55名について,精子やホルモンについて検討したが,両群に差異を認めず,ヒトの精子精巣への障害は認められなかった10)

リバビリンは慢性C型肝炎治療中に精子障害を認め,血中半減期が12日なので,その15倍の約半年の避妊が求められている3),13)〜15)。わが国ではこれまで慢性C型肝炎患者50万人に大きな副作用もなく,胎児への障害などなくリバビリンが使用された。ファビピラビルの半減期は6~8時間だが,精子への影響ではなく,精液に残存したファビピラビルが受精卵に影響することを避けるために,インフルエンザでは1週間の避妊が求められた。

藤田医科大学によるファビピラビルの観察研究の中間報告では,COVID-19患者2970例のファビピラビル使用による副作用が報告された16)。インフルエンザでも認められた尿酸値の上昇が524例(17.6%),肝機能障害が240例(8.1%)に認められた。

中国・武漢での臨床試験では,尿酸値の上昇のほか,ファビピラビル群とアルビドール群の両群で肝機能障害を認めた。COVID-19に肝臓機能障害合併症が認められているので,肝機能障害はファビピラビル特異的とは判断されていない17)

ファビピラビルの副作用のうち,初期胚の致死および催奇形性はリバビリンを含むRNA依存性RNA合成酵素阻害薬の宿命であるので,妊婦や妊娠を予定する方には禁忌である。それ以外の注意事項はインフルエンザとは異なり,COVID-19では,COVID-19肺炎の治験を考慮したものになると思われるので,今後,承認条件を確認していただきたい。

■5. 海外の状況

海外では複数の国が独自にファビピラビルの生産を始めている。中国,ロシア,インドでは国外に供給しており,エジプト,トルコ,バングラデシュなども自国で生産を始めるという情報がある。

先日,インドのファビピラビル製造会社から,Web講演を依頼され,10月15日に,本稿とほぼ同じ内容の講演を行った。当日は私の講演,インドでCOVID-19診療に関わる医師2名の講演に続いて,パネルディスカッションが行われた。主催者によるとWeb講演には6500名の医師が参加したそうで,ファビピラビルに対する高い関心が窺えた。帯状疱疹の病態を踏まえたCOVID-19の説明は,ファビピラビルの効果を考える上で分かりやすいという感想が多かった。私は日本医事新報No.5004(2020年3月21日号)にCOVID-19肺炎の後遺症について記載し,当初よりその発生を懸念していた。Web講演の聴衆からは,COVID-19肺炎の後遺症に関する質問も多く出された。ステロイド投与期間,再燃との鑑別,細菌合併症等の質問に対してインドの医師が回答していたが,その中で,「ファビピラビルは軽症肺炎にしか使えない」という発言があった。そのため,私は「重症細菌性肺炎を起こす場合に,上気道炎から気管支炎,気管支肺炎と進行する中で,いつから治療を始めますか?」と質問した上で,「臨床試験で確認が必要ではあるが,個人的な意見としては,肺炎になる前にファビピラビルで治療することが良いと思う」との考えを述べた。

■6. おわりに

急性ウイルス性疾患の治療においては,抗ウイルス薬の治療開始時期は,水痘では24時間以内,インフルエンザでは48時間以内,帯状疱疹では72時間以内というように,早期に薬剤投与による治療が開始されている。この点を考慮すると,COVID-19は,発症3~5日後までに治療を開始して,肺炎や神経系・循環器系合併症を防ぎ,後遺症を残さない治療が理想であるように思う。現在,カナダでは暴露後感染予防(NCT04448119),米国スタンフォード大では発症早期患者の外来での治療(NCT04346628)など,多くの国でファビピラビルの臨床試験が行われているので,それらの結果によってファビピラビルの適切な使用法が定着していくものと思われる。

【文献】

1)富士フイルム富山化学株式会社ニュースリリース. 新型コロナウイルス感染症患者を対象とした国内臨床第Ⅲ相試験にて主要評価項目を達成. 2020年9月23日
2)Wang M, et al:Cell Res. 2020;30(3):269-71.
3)Ohashi H, et al:bioRxiv. [https://doi.org/10.1101/2020.04.14.039925.]
4)Karunajeewa HA, et al:Antimicrob Agents Chemother. 2010;54(3):1186-92.
5)Karunajeewa HA, et al:Antimicrob Agents Chemother. 2010;54(3):1186-92.
6)Joseph BS, et al:J Exp Med. 1975;142(4):864-76.
7)Shiraki K, et al:J Virol. 2011;85(16):8172-80.
8)Miura S, et al:J Invest Dermatol. 1992;98(1):68-72.
9) Shiraki K, et al:Antiviral Res. 2020;180:104829.
10)厚生労働省医薬食品局審査管理課. 審議結果報告書(アビガン錠200mg). 2014年3月4日
11)Machitani M, et al:Cancer Sci. 17 August 2020. [https://doi.org/10.1111/cas.14618]
12)Maida Y, et al:Nature. 2009;461(7261):230-5.
13)Sinclair SM, et al:Drug Saf. 2017;40(12):1205-18.
14)Hofer H, et al:J Hepatol. 2010;52(6):812-6.
15)Pecou S, et al:Fertil Steril. 2009;91(3):933. e17-22.
16)藤田医科大学ファビピラビル観察研究事務局. 中間報告(第2報)(2020年6月26日現在).
17)Chen C, et al:medRxiV. [https://doi.org/10.1101/2020.03.17.20037432]

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