• 2025年7月7日
  • 2025年7月7日

起座呼吸とは? 主な症状や原因・診断・治療方法・看護のポイントを

 

起座呼吸とは、横になると呼吸が苦しくなり、上体を起こすことで呼吸が楽になる症状です。特に心不全や肺水腫などの循環器・呼吸器疾患で見られることが多く、病態の重症度を示す重要な臨床徴候の1つとされています。

当記事では、起座呼吸の定義や原因となる疾患、診断や治療の考え方、看護支援の具体的なポイントまでを解説しています。心不全の症状評価を学びたい方や、看護現場での対応に悩んでいる方、学生や新人医療職の方にも理解しやすい内容となっていますので、ぜひ参考にしてください。

■監修者
中路 幸之助(なかじ こうのすけ)

1991年に兵庫医科大学を卒業後、 兵庫医科大学、獨協医科大学を経て、1998年 医療法人協和会に所属。 2003年から現在まで、医療法人愛晋会中江病院の内視鏡治療センターで臨床に従事している。 専門分野はカプセル内視鏡・消化器内視鏡・消化器病。学会活動や論文執筆も積極的に行っており、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本消化器病学会専門医・指導医・学会評議員、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・学術評議員、日本消化管学会代議員・近畿支部幹事、日本カプセル内視鏡学会認定医・指導医・代議員を務めているほか、 米国内科学会(ACP)の上席会員(Fellow)でもある。

起座呼吸とはどのような症状?

起座呼吸とは、臥位(がい)では呼吸が苦しくなり、起座位や半座位になることで呼吸が楽になる現象です。臥位とは横になった状態を示し、仰向けは仰臥位(ぎょうがい)、うつ伏せは腹臥位(ふくがい)、横向きは側臥位(そくがい)と呼びます。

ここでは、起座呼吸で呼吸が楽になる仕組みを解説します。

起座呼吸で呼吸が楽になる仕組み

起座呼吸は、うっ血性心不全に見られる典型的な所見です。臥位になると重力の影響が減って下半身からの静脈血が心臓に多く戻るため、肺循環量が増加して肺うっ血が悪化します。その結果、肺に血液がたまり、ガス交換が妨げられて呼吸困難を引き起こします。一方、座位をとることで静脈還流が抑えられ、肺内血液量が減少し、肺うっ血の程度が軽減されるため呼吸が楽になります。
(出典:大学病院医療情報ネットワーク「起座呼吸」
(出典:J-STAGE「息切れの対処法としての休息姿勢」

座位では横隔膜が下がりやすく、肺活量も確保しやすくなることが症状緩和の一因です。起座呼吸の出現は心不全の重症度や、肺炎などを示す重要な指標であり、患者さんの病態把握や治療方針を立てるうえで重要な所見です。症状が出たらできるだけ早く病院を受診して、診察や治療を受けることが大切です。

起座呼吸が起こる主な原因

起座呼吸が起こる主な原因

起座呼吸の症状は、心不全の一種である左心不全に特徴的と思われがちですが、実際にはほかの病気でも見られる臨床的徴候の1つです。

ここでは、起座呼吸の代表的な原因について見ていきましょう。

心不全

心不全とは、心臓のポンプ機能がうまく働かなくなり、体の隅々まで十分な血液を送れなくなった状態を指します。心臓の構造的・機能的異常が原因で、代償機転が破綻し、呼吸困難、倦怠感、浮腫などの症状を引き起こす臨床症候群です。なかでも左室機能の障害が関与していることが多く、心不全の中心的な病態とされています。
(出典:日本循環器学会「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」

心不全には、急激に心臓の働きが悪化する「急性心不全」と、症状が慢性的に続く「慢性心不全」があります。心不全の代表的な症状の1つが呼吸困難です。心臓が血液をうまく送り出せないことで、上流である肺に血液が滞り、うっ血を起こすためです。特に臥位時には重力の影響が弱まり、下肢からの静脈血が一気に心臓へ戻るため、肺うっ血がさらに悪化し呼吸が一層苦しくなり、患者さんは自然と上体を起こした姿勢をとるようになります。この状態が「起座呼吸」と呼ばれ、心不全を示す重要な徴候の1つです。
(出典:公益財団法人日本心臓財団「高齢者の心不全 心不全とはなにか」

起座呼吸は、夜間に睡眠中、呼吸困難で目覚めるような「発作性夜間呼吸困難」とともに現れることも多く、心不全の進行を示すサインとして医療現場では注意深く観察されています。

心臓弁膜症

心臓弁膜症は、心臓にある逆流防止弁の開閉機能に障害が生じる病気であり、血液の流れに異常をきたすことによって、さまざまな循環器症状を引き起こします。心臓弁膜症は、弁の動きが硬くなり血液の通過が妨げられる「狭窄症」と、弁がきちんと閉じず血液が逆流する「閉鎖不全症」に大別されるのが特徴です。弁膜症は単独の弁に限らず複数の弁に同時に障害が起こることもあり、その場合は連合弁膜症と呼ばれます。
(出典:上尾中央総合病院「心臓弁膜症とは」
(出典:千葉大学大学院医学研究院 心臓血管外科学「心臓弁膜症」

弁膜症が進行すると、血液がうまく送り出せず肺に血液がたまる「肺うっ血」という状態が起こり、息切れや呼吸のしづらさといった呼吸困難の症状が現れます。横になると血液が心臓に戻りやすくなり肺うっ血が悪化するため、仰向けでは息苦しくなって上体を起こさないと呼吸ができなくなる起座呼吸が見られる場合もあるでしょう。

病状が進行すると、常に呼吸が苦しくなり、横になって眠れなくなるなど、心不全の症状が強く現れるようになります。

気管支喘息・肺炎・気管支炎

気管支喘息・肺炎・気管支炎といった呼吸器疾患でも、起座呼吸が見られることがあります。心不全とは異なり、肺血流量の増加によるうっ血ではなく、気道分泌物の貯留と喀出困難が原因と考えられています。
(出典:一般社団法人日本救急医学会「起坐呼吸」

気管支喘息は、気道に慢性的な炎症が起き、アレルギー反応などによって気道が過敏になり、狭くなる疾患です。症状には、発作的な咳や呼吸困難、喘鳴(ぜんめい)などがあり、夜間や早朝に悪化しやすい特徴があります。特に臥位では気道分泌物の排出が困難になり、呼吸がしづらくなるため、患者さんは上半身を起こした姿勢をとることがあるでしょう。

肺でガス交換を行う際には、通り道である気管・気管支を通って肺胞までに酸素が運ばれる必要があります。何らかの原因で気管に炎症が起きたものを「気管支炎」、肺胞に炎症が起きたものを「肺炎」といいます。

どちらの疾患も、咳や気道分泌物の貯留が原因で呼吸困難を伴うことがあります。臥位では症状が悪化しやすく、呼吸を改善するために起座姿勢をとる例が見られます。

また、肺炎では、重症化することで胸腔内に水や膿が貯留することもあります。肺が物理的に圧迫されることで呼吸困難が増悪するため、適切な治療が必要となります。

肺水腫

肺水腫は病名ではなく、肺に液体がたまっている状態を指します。肺のなかには肺胞という小さな袋状の構造が無数に存在し、酸素と二酸化炭素を効率よく交換する役割を果たしています。しかし、肺水腫では、何らかの原因で血液の液体成分が肺胞内に染み出し、肺で酸素を取り込む際の効率が低下する酸素の取り込みがうまくできません。

代表的な症状は呼吸困難であり、心不全によって心臓のポンプ機能が低下している方に多く見られます。横になると肺を取り囲む水分が増え、さらに呼吸困難が悪化する恐れもあります。肺水腫の症状として、自然と上体を起こして呼吸を楽にしようとする起座呼吸が見られる場合もあるでしょう。
(出典:社会福祉法人 恩賜財団 済生会「肺水腫」

起座呼吸の診断・治療

起座呼吸の診断・治療

起座呼吸が現れた場合は、心不全をはじめとした循環器疾患や呼吸器疾患、さらには生命に関わる病態の可能性もあるため、注意が必要です。

しかし、起座呼吸や息切れの原因が肺によるものか心臓によるものかを、すぐに見分けることは簡単ではありません。肺と心臓はつながりの深い臓器であり、どちらかに異常が起きるともう一方にも影響が及ぶため、現れる症状がよく似ることがあるためです。

原因を適切に判断するためには、呼吸困難を「急性」と「慢性」に分類して検討する必要があります。下記は、呼吸困難の原因診断のためのフローチャートを表にまとめたものです。

【呼吸困難の原因診断のための分類(慢性)】

慢性 労作性
  • 肺結核後遺症 ・間質性肺炎(肺線維症)
  • じん肺症 ・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  • 肥満/貧血
発作性
  • 喘息
  • 心不全(心臓喘息)

(出典:J-STAGE「呼吸困難の病態」

【呼吸困難の原因診断のための分類(急性)】

急性 胸痛(+)
  • 狭心症
  • 心筋梗塞
  • 肺梗塞
  • 解離性大動脈瘤
  • 気胸
胸痛(-)
  • 過換気症候群
  • 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)

(出典:J-STAGE「呼吸困難の病態」

慢性の呼吸困難では、労作時にのみ症状が出るのか、それとも安静時にも発作的に繰り返すのかを見分けることが重要です。慢性的な器質的変化を伴う肺疾患では、運動時に息切れを感じるものの、安静にすると改善する傾向があります。

一方、気管支喘息では夜間から早朝にかけて、発作的な咳や喘鳴が起こりやすいとされています。左心不全の場合には、左心機能の低下に伴って労作性の呼吸困難が出現し、特に就寝中など重力の影響が少なくなる時間帯に肺うっ血や肺水腫が悪化しやすく、起座呼吸を伴うことが特徴です。
(出典:J-STAGE「呼吸困難の病態」

そのほか、心不全の観察項目としては、聴診所見(Ⅲ音やⅣ音)、頸静脈怒張と浮腫、脈拍数と呼吸数などがあり、呼吸困難のリスクを推察できます。
(出典:厚生労働省「1.早期発見と早期対応のポイント」

左心不全が進行して気管支に強い浮腫が生じると、気管支喘息に似た喘鳴が聞かれることがあります。気管支喘息とは治療法が異なるため、喘鳴があるからといってすぐに喘息と判断するのは避けるべきです。

起座呼吸が見られる患者さんは、呼吸を保つために強く努力している状態のため、十分な問診が難しいことがあります。問診や診察に時間をかけすぎず、速やかに適切な処置を開始することが重要です。

起座呼吸の看護のポイント

起座呼吸の看護のポイント

呼吸困難を抱える患者さんにとって、起座位をとることは呼吸仕事量(呼吸に必要な筋活動や努力)を軽減し、安楽な呼吸を保つ手段の1つです。救急外来で呼吸困難を訴えている患者さんや、異常の徴候が見られる場合には、まず本人が最も呼吸しやすいと感じる姿勢をとってもらうことが重要です。

また、疾患ごとの病態に合わせて最適な姿勢を支援することも看護の役割です。心不全では、起座位をとることで肺への血液の流入が減り、肺うっ血の軽減につながります。気管支喘息の場合には、前かがみの姿勢をとることで呼吸補助筋や横隔膜の活動が促され、呼吸がしやすくなります。入院中は、クッションやオーバーテーブルを活用し、患者さんが自然な形で姿勢を保てるよう工夫しましょう。
(出典:日本救急看護学会セミナー委員会「救急初療看護に活かすフィジカルアセスメント」

食事や排泄の際は心臓への負担がかかりやすいため、動作のタイミングや支援の仕方にも注意を払います。退院後も呼吸困難が出現する可能性があるため、自宅での対処法や呼吸法について指導を行い、安心して生活できるよう支援することが重要です。

まとめ

起座呼吸は、臥位で悪化し座位で軽減する呼吸困難の一種であり、心不全をはじめとする重篤な疾患の徴候である場合があります。特に左心不全では肺うっ血が増悪することで呼吸が困難になり、起座位をとることで静脈還流が抑えられ症状が緩和されます。また、気管支喘息や肺水腫などの呼吸器疾患でも同様の徴候が見られることがあるため、鑑別診断が重要です。

「マイナビ看護師」では、看護業界に精通したキャリアアドバイザーが希望に沿った職場探しを丁寧にサポートします。看護師としての知識をさらに深め、キャリアアップを目指したい方は、「マイナビ看護師」へぜひご相談ください。

「横になると苦しく、座ると楽になる」という症状がある場合、「起坐呼吸(きざこきゅう)」の可能性があります。このよな場合の患者さんへの声かけ例として、「今は無理に横にならず、座った姿勢でゆっくり呼吸を整えましょう。ご自分が一番楽だと感じる体勢で大丈夫ですよ。」 「もし息苦しさが強くなったり、不安になったときは、すぐにナースコールを押してください。私たちがすぐに駆けつけますので、安心してくださいね。」 「この症状は心臓や肺の働きと関係しています。治療やケアを通して、少しでも楽に過ごせるよう、私たちがしっかりサポートします。一緒に乗り越えていきましょう。」など患者さんが不安にならないよう、やさしく、落ち着いた声で、常に寄り添う姿勢とサポート体制が整っていることを伝えることが大切です。

※当記事は2025年4月時点の情報をもとに作成しています。

著者プロフィール