プレパレーションとは? 小児医療における目的や段階・具体例を解説
  • 2024年8月24日
  • 2024年8月22日

プレパレーションとは? 小児医療における目的や段階・具体例を解説

 

プレパレーションは小児医療において、子どもが病院での検査や治療、入院などを受ける際に心理的な負担を軽減するための重要なプロセスです。子どもが医療行為に対する不安や恐怖を感じることなく、前向きに治療を受けられるようにするためには、適切な情報提供とサポートが欠かせません。

この記事では、プレパレーションの目的やディストラクションとの違い、5つの段階、および看護師が子どもにできるプレパレーションの例を解説します。小児医療に携わっている看護師さんは、ぜひこの記事を参考にしてください。

小児医療におけるプレパレーションとは?

小児医療・小児看護におけるプレパレーションとは、子どもが病院で検査や治療を受ける、または入院をする際に行う説明やサポートのことです。子どもが抱く医療行為に対する心理的混乱や恐怖心を最小限に抑えるために、対処能力を引き出すような関わりをします。

プレパレーションの実施は子どもの認知発達に応じた方法で行うことが大切です。たとえば、絵本やぬいぐるみなどを使用し、子どもと親が治療に対して前向きに頑張れるようにサポートしていきます。子どもが「頑張って乗り越えた」と達成感を得られるような関わりを実践することで、子どもの自己肯定感の向上と健やかな成長発達につながると考えられています。

プレパレーションの目的や意義

プレパレーションの意義は、子どもが医療行為に対して感じる不安や恐怖を軽減し、医療体験を前向きに捉えられるようにすることです。主に以下の3つがプレパレーションの大きな目的であり、重要ポイントでもあります。

  • 子どもに対して正確な情報を伝え、病気や入院、検査、治療、処置などに対する理解を助けること
  • 子どもが自分の気持ちを表現し、病気などに向き合い、乗り越える力を高めること
  • 医療者と信頼関係を築くこと

(出典:日本小児保健協会「小児保健研究 68巻2号 『プレパレーションの5段階について』」

子どもは大人と違い、言葉だけの説明では十分に理解できないため、適切な方法で正しい情報を伝えることが必要です。治療の必要性や処置の方法について、子どもにも分かるように説明すれば、子どもは安心感を持って医療行為に臨めます。

また、子どもが不安や恐怖を感じた時、気持ちや感情を自由に表現できる環境を作ることで、心理的な負担の軽減を目指します。

医療者と信頼関係を構築するのも、プレパレーションの大きな目的の1つです。信頼や安心感を築きながら、子どもの対処能力を高められるようなサポートを行います。

プレパレーションとディストラクションの違い

ディストラクションはプレパレーションの一環であり、おもちゃや声かけ、遊びなどを利用して子どもが医療処置に感じる痛みや不安を軽くする手法です。

プレパレーションとディストラクションの違いは、子どもが抱く苦痛やストレスに対するアプローチの方法にあります。

プレパレーション:医療行為について分かりやすく説明して心理的負担を最小限に抑える

ディストラクション:医療処置から気をそらせることで不安を軽減する

また、有効な対象者にも違いがあります。プレパレーションは説明が理解できる子どもに効果的ですが、ディストラクションは3歳未満の乳幼児に対して有効な手法だといわれています。

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プレパレーションの5段階

プレパレーションの5段階

プレパレーションを行う際は、単なる医療行為の説明をしているだけでは子どもにとっては逆効果になることもあります。大切なのは、子どもやその両親を情緒面でもサポートすることです。ガイドラインにも、以下のように記されています。

①子どもと両親の双方がプレパレーション過程に加わるべきである。

②情報は子どもの認知能力に合わせて提供されるべきである。

③子どもが経験すると思われる感覚に力点がおかれるべきである。

④子どもと両親はプレパレーション過程全体を通じて自分の情動を表出するように励まされるべきである。

⑤この過程は、プレパレーションを行う人と家族との信頼関係の発展をもたらすべきである。

⑥子どもと両親は入院中に、緊張の強いあらゆる時点で、そうした信頼をおいている人から支援を受けるべきである。

(引用:沖縄県立看護大学「これからプレパレーションを始める方への学習 基礎編」

プレパレーションにはケア環境の工夫はもちろん、実施者の関わり方が重要です。以前は、プレパレーションというと処置前の説明のみを指していましたが、現在は入院前から退院後も継続的に行うものとされています。

以下では、看護師の皆さんが行うプレパレーションについて、「医療を受ける子どもへのかかわり方」のパンフレットに基づきポイントを解説します。
(出典:沖縄県立看護大学「医療を受ける子どもへのかかわり方」

病院に来る前

第1段階である「病院に来る前」は、子どもや子どもを取り巻く状況をヒアリングし、知る過程です。具体的には、以下の項目について情報収集します。

  • 子どもの年齢
  • 発達段階
  • 過去の医療体験
  • 親との関係
  • コミュニケーションの方法
  • 親の理解度
  • 処置に対する親の気持ち
  • 好きなキャラクターや興味のある遊び
  • 活動性や活動意欲 など

外来スタッフと病棟スタッフが同一のプレパレーションツールを準備するなどして、連携を取ることがポイントとなります。親がどのように子どもに説明しているか情報を得たうえで、子どもと関わる工夫をしましょう。

入院・処置のオリエンテーション

第2段階の「入院・処置のオリエンテーション」では、来院後の子どもの表情や身体状況を観察しながら、入院や処置に関するオリエンテーションを実施します。

また、プレパレーションの計画を立てるのもこの段階です。子どもの性格や認知発達に合わせて、説明方法や説明時期、使用するプレパレーションツールについて考えます。保護者から情報を得つつ、子どもの遊ぶ様子から身体状況、心理状況、発達状況をアセスメントしましょう。

プレパレーション・真実に基づく説明

第3段階の「プレパレーション・真実に基づく説明」では、事実をもとにおもちゃや実物を用いて病気や治療に関する説明を行います。子どもの理解を深めるために、簡単で具体的な言葉を用い、家庭での遊びや視聴覚教材を取り入れることが重要です。子どもに協力してほしいことや、やっても大丈夫な行動についても分かりやすく伝えます。

おもちゃを使って説明する際は、病院が用意したものを使用するのが望ましいでしょう。子どもが持参したおもちゃを使うと、普段遊んでいるおもちゃに針が刺さる場面や、麻酔で眠るところが印象に残ります。結果として、自分自身がつらい思いをしているのと同じように感じ、かえって恐怖心が強くなる可能性があるため注意が必要です。

説明中には、検査や処置でどのようなことを行うかだけでなく、子どもに「チクッと痛いよ」「冷たいかな? 」などと声掛けすることで、子どもの気持ちを引き出します。

ディストラクション

第4段階の「ディストラクション」とは、処置中の子どもの痛みや緊張を和らげるために、医療行為から別のものへ注意をそらし、子どもの不安や恐怖を軽減して痛みを少しでも感じにくくすることをいいます。

具体的には、紙芝居を読む、音楽をかける、ビデオを見せる、一緒に数を数えるなどして子どもの注意をそらします。家族に付き添ってもらい、抱っこや絵本の朗読を頼むのもよい方法です。

子どもが「痛い」「嫌だ」と言ったときは否定せず、頑張っていると伝えて応援する姿勢を取りましょう。具体的に言葉にしたり、目に見える形にしたりして頑張りを承認することで、子どもの満足感や達成感を高めることにつながります。

効果的に痛みや緊張を緩和するには、子どもの発達年齢や身体状況を十分に考慮することが大切です。

処置後・退院後の遊び

第5段階の「処置後・退院後の遊び」では、実際の検査や処置が終わった後に、子どもの頑張りを褒めることが大切です。ごほうびシールや修了証書などを贈ることで、子どもの努力を認め、次の課題へとつなげられます。親に対しても子どもの頑張りを褒めるように伝えましょう。

また、病院で経験した出来事を子どもがごっこ遊びで模倣することは、自分自身の気持ちを表出するのに大切な過程です。プレイセラピーの効果があるため、この段階は5段階のなかでも特に重要とされています。

実施後も子どもの反応を確認し、次回に医療を受けたときにどのように反応するかなど、長期的に確認するのもポイントです。

看護師が子どもにできるプレパレーションの具体例

看護師が子どもにできるプレパレーションの具体例

小児の看護で行われているプレパレーションには、場面ごとにさまざまな方法があります。ここでは、看護師の皆さんが実践できるプレパレーションの具体例として、3パターン紹介します。

  • 検査や採血を行うときのプレパレーション
    検査や採血が決まった際にまず行うことが、どこでどのようなことをするのか、どのような感覚がするか、子どもにしてほしいことなどの説明です。検査室や処置室を実際に見てもらう、人形や絵本を使う、医療器具を使うなどして、具体的で分かりやすい説明を心がけます。子どもにより安心してもらうために、可能であれば親に抱っこしてもらうのもよい方法です。
  • 処置中のプレパレーション
    子どもが「痛い」と言い、泣き出しても、否定をせず気持ちを受け止めてあげることが大切です。処置に対する恐怖や不安が強い場合は、ディストラクションを行います。音の出る玩具や、お気に入りのキャラクターシールを使用するほか、一緒に数を数えるなどして処置から気をそらします。すべての処置が終わった後で、「終わったよ」と声掛けし、頑張りをたっぷり褒めてあげましょう。
  • 退院するときのプレパレーション
    退院後、急に日常生活に戻るのに戸惑う子は少なくありません。まずは、入院中の頑張りを褒め、帰宅後にどのような生活をするべきか話します。また、幼稚園や保育園、学校との情報共有も大切です。看護師の皆さんから親に対して、子どもが園や学校に戻りやすくするために何をするべきなのか説明し、家族ケアも実施します。処置や入院などで長期欠席したあと、初めて登園・登校する日は保護者が付き添い、園や学校の先生に、今の状態や気をつけるべきことなどを伝えることも大切です。

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まとめ

プレパレーションは、子どもが医療行為に対して感じている不安や恐怖を軽減し、前向きに治療を受けられるようにするために大切なプロセスです。看護師は子どもの認知発達に応じた方法で適切な情報提供を行い、子どもとその家族の安心感を高めることが求められます。処置前の説明だけでなく、入院前から退院後も継続的にプレパレーションを行えば、子どもの自己肯定感の向上と健やかな成長発達につながるでしょう。

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※当記事は2024年6月時点の情報をもとに作成しています

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