診療サービスの1つに、病気や障害などにより通院が困難な方向けの訪問診療があります。訪問診療は医師とともに患者さんの自宅または入居施設へ向かうため、病院やクリニックで勤務する場合と比べて情報の共有がスムーズに行える点が魅力です。
当記事では、訪問診療の診療内容や対象者、診療の流れといった基本情報から、訪問診療の現状と将来、訪問診療における看護師の役割、仕事内容までを詳しく解説します。訪問診療施設で働くメリット・デメリットや取得しておくとよい資格などもまとめているので、訪問診療施設に興味がある看護師さんはぜひお役立てください。
訪問診療とは? 基本情報を紹介
訪問診療とは、医師や看護師が患者さんの自宅や入居施設へ足を運んで診療する、訪問医療サービスです。
医師や看護師は、患者さん本人だけでなくご家族や関係医療機関とも連携して健康のサポートをします。
(出典:地方創生「往診・訪問診療とは」)
(出典:日本訪問診療機構「訪問診療と往診の違い」)
ここでは、訪問診療の内容や診療の流れについて詳しく解説します。
診療内容
訪問診療の内容は、患者さんの診察・治療・健康管理の3つです。
訪問診療の診療内容は次の通りです。
- 血圧や体温の測定
- 採血
- 検尿
- 薬の処方
- 療養上の相談や指導
- 床ずれの処置など
(出典:京都大原記念病院グループ「訪問診療とは?定義や利用するメリットについて」)
訪問診療は、患者さんの状態やニーズに合わせて月に1~2回のペースで行います。診療内容は、患者さんの健康管理が中心です。
病棟や往診のように緊急性のある対応はほとんどありません。ただし、訪問診療の患者さんの具合が急に悪くなった場合は、要請に応じて往診することもあります。
対象者
訪問診療は、在宅療養生活をしている方で外来通院が困難な方が対象です。希望すれば誰でも利用できるというわけではありません。また、利用にはさまざまな手続きが必要です。
訪問診療の対象となる方の具体例は、下記の通りです。
- 病気や障害などで通院の負担が大きい
- 退院後は自宅で療養したい
- 自宅での医療ケアが必要である
- 終末期は自宅で療養したい など
(出典:京都大原記念病院グループ「訪問診療とは?定義や利用するメリットについて」)
訪問診療は、通院の負担が大きい方や一緒に暮らしているご家族にとって、メリットが大きい医療サービスといえます。
訪問診療の流れ
一般的な訪問診療の流れは、以下の通りです。
1 | 診療についての説明 |
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患者さんやご家族に対して、診療サービス内容や医療費負担額など訪問診療について詳しく説明します。患者さんに合った診療計画を立てられるように、希望や不安要素などのヒアリングもします。 |
2 | 診療の申し込み |
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患者さんから必要書類を提出してもらい、診療の申し込み手続きをします。患者さんの情報を把握するために、「診療情報提供書」「薬剤情報」などが必要です。 |
3 | 診療の開始 |
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担当医師と看護師は、診療計画に沿って診療を開始します。 |
訪問診療の開始後は、定期的に患者さんのフォローをします。患者さんの状態を確認しつつ、診療計画や訪問回数を見直すことも大切です。
訪問診療と往診の違い
訪問診療と往診は、次のように定義されています。
往診・訪問診療は、医療上の必要性により、在宅に赴いて診療する必要がある場合に実施するもの。
往診・訪問診療は、貴重な医療資源をより多く必要とし、外来よりも診療報酬が高く設定されており、医療上の必要性にかかわらず安易に実施されることのないよう、その実施にあたっては、一定の要件が定められている。
(引用:地方創生「往診・訪問診療とは」)
往診は患者さんからの要請を受けて診療するのに対して、訪問診療は定期的かつ計画的に診療するという違いがあります。
また、訪問診療と似た言葉に「在宅看護」「訪問看護」があります。
在宅看護は、慢性的な病気の方や症状が安定している方を家族が中心となってケアすることです。一方の訪問看護は、看護師などのスタッフが中心となって患者さんの介護度に応じたケアをします。
在宅看護と訪問看護の詳細な違いについては、下記の記事にまとめています。
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訪問診療の現状と将来
訪問診療を必要とする患者さんの多くは、75歳以上の高齢者です。高齢者の占める割合が増加する日本において、訪問診療ニーズは今後さらに増加することが見込まれています。
一方、訪問診療に対応する医療機関の数は、診療所全体のうち約20%、病院全体のうち約30%です。
(出典:厚生労働省「在宅医療の現状について」)
訪問診療の重要性を考え、国は都道府県が確保すべき機能を「在宅医療の体制構築に係る指針」として提示しています。 訪問診療の提供体制に求められる医療機能は、次の4つです。
- 退院支援
- 日常の療養支援
- 急変時の対応
- 看取り
(出典:厚生労働省「在宅医療の現状について」)
訪問診療は患者さんの急変時に対応できるように、24時間連絡を受ける医師や看護師の配置が必要です。各地域の訪問看護の体制を整えるためには、医師または看護師の十分な確保が求められます。
訪問診療における看護師の役割
訪問診療に携わる看護師には、患者さんのケアやサポートをスムーズに進めるための体制づくりも求められます。
訪問診療における看護師の役割は、下記の通りです。
- 医師の補助
- 患者さんやご家族への対応
- 患者さんやご家族の心理的サポート
- 地域や他職種との連携と調整
(出典:医療法人社団 御波会 あかり在宅クリニック「【看護部】訪問診療・同行看護師の役割」)
看護師は、患者さんやご家族、医師や多職種のスタッフとの連携を取るパイプ役でもあります。ケアや医療サポートから各所との連携まで、看護師の役割は多岐にわたります。
訪問診療における看護師の仕事内容
訪問診療で働く看護師は、重要な役割を担う欠かせない存在です。責任が大きい仕事ではありますが、非常にやりがいのある仕事です。
ここでは、訪問診療での看護師の仕事内容を詳しく解説します。就職や転職を希望する方は、ぜひ参考にしてください。
訪問診療の準備
看護師は訪問診療を滞りなく進めるために、まず事前準備をします。事前準備の内容は、下記の通りです。
- スケジュール管理
- カンファレンスへの参加
- 診療計画やカルテの確認
- 医療機器や薬などの用意
実際に患者さんの自宅や入居施設へ向かう前に、患者さんの体調変化や検査結果を確認します。患者さんに適切なケアや処置ができるよう、使用する物品に不足がないかしっかり確認しましょう。
訪問診療に関わる外部や他職種への連絡・調整
訪問診療には、外部施設や他職種との連携が欠かせません。看護師は訪問診療を行うにあたり、それぞれの担当者への連絡や打ち合わせにも対応します。
訪問診療に関わる外部施設や他職種は、下記の通りです。
- ケアマネジャー
- リハビリ専門職
- 薬剤師
- ヘルパー
- 市区町村役場など
患者さんやご家族をサポートするためには、まず訪問診療の関係者同士が信頼関係を築く必要があります。申し送り事項は関係者に正しく伝え、情報を共有することが大切です。
バイタル測定と医療行為・診療介助
看護師は、患者さんのバイタル測定や診療介助をします。また、医師の指示のもと医療行為をする場合もあります。
医療行為・診療介助の具体例は、下記の通りです。
- 症状の確認
- 注射や点滴
- カテーテルの交換
- 胃瘻(いろう)の交換
- 疼痛のケア
- 創傷処置などの指導
病院やクリニックの看護師は、診療介助が中心になることがほとんどです。一方、訪問診療では、病気や障害を抱える患者さんが自宅で過ごすために必要な療養上のケアが中心になります。
訪問診療は、診療や療養上のケアができる時間が限られています。看護師は必要な医療行為やケアができるように、手際よく仕事をすることが大切です。
患者さんへの処方内容の確認
訪問診療は院外処方がほとんどです。医師が処方箋を発行し、看護師は処方内容を確認します。
患者さんが高齢者や薬の管理が難しい方の場合、内服を継続するための支援も必要です。たとえば、「複数ある薬を一包化する」「管理しやすいように服薬カレンダーを使用する」などの方法です。ただし薬局との連携も必要になるため、事前に薬剤師と相談することが必須です。
また、服薬について患者さんやご家族が不安や疑問を抱いている場合は、相談対応や指導をすることもあります。
患者さんの自宅または施設への送迎
患者さんの自宅や施設へ向かうとき、患者さんを送るときは車で移動します。訪問診療は看護師がドライバーを兼任するケースがほとんどです。
患者さんの自宅や施設へスムーズに向かえるように、事前に最短ルートの選択や駐車場所の確認をしておきます。天候・工事・イベントなどによって道路の混雑状況が変わるため、慣れたルートでも必ず確認しましょう。
運転免許がない場合は、専属ドライバーがいる病院やクリニックなど「運転免許不要」の求人を選ぶのも1つの方法です。
患者さんおよび家族への契約書の説明
患者さんは訪問診療を受けるにあたり、必要書類を提出して契約を結ぶ必要があります。訪問診療の契約には、「訪問診療同意書」「かかりつけ医からの診療情報提供書」「重要事項説明書」などの書類が必要です。
患者さんやご家族が「こうなるはずではなかった」「知らなかった」と後悔しないように、契約書について詳細かつ丁寧に説明しましょう。
患者さんの希望やご家族の意向などをしっかりヒアリングし、関係者が共有できるように情報をまとめます。書類の作成や提出などの事務作業も、看護師の大切な仕事です。
看護師が訪問診療施設で働くメリット・デメリット
看護師が訪問診療施設で働く場合、さまざまな魅力ややりがいがあります。一方で、ハードワークになる場合もあり、働き方に工夫が求められることも少なくありません。メリットとデメリットの両方を理解して、自分に合った働き方を目指しましょう。
ここからは、看護師が訪問診療施設で働くメリット・デメリットについて詳しく解説します。
メリット(1)医師の指示をすぐに確認できストレスを感じにくい
病院やクリニックで働く場合、看護師が医師の指示を受けてから行動するまでに時間がかかることがあります。一方の訪問診療は医師と看護師が一緒に行動するため、患者さんの状態や治療計画を共有しやすく、事前に必要な治療やケアをイメージしておくことが可能です。想定外のことが起こっても、すぐに医師に確認して対応できます。
また、訪問診療で働く看護師には、ケアマネジャーや薬剤師など多職種からの情報も集約されます。治療やケアを受け持つ患者さんに、効率よく対応できることも大きなメリットです。
メリット(2)チームで患者さんを診るため1人あたりの負担が少ない
訪問診療は、チームで患者さんを診る仕組みになっています。看護師の仕事は、医療行為・診療介助や多職種との連携と多岐にわたりますが、看護師への負担が大きくなりすぎることはありません。
1人あたりの負担が大きくなると、オーバーワークになって仕事へのやりがいや満足感をもてなくなるおそれがあります。しかし訪問診療は、医師やほかのスタッフも同行するため、お互いに協力することでそれぞれの仕事に関する負担を軽減できます。
看護師の役割や仕事をするうえでの責任はありますが、チームで行動する時間が多い分、医師やスタッフと信頼関係を築きやすいこともメリットです。
デメリット(1)訪問エリアが広い場合はスケジュールがハードになる
訪問診療は、訪問エリアによってはスケジュールがハードになりやすい傾向にあります。
保険診療が認められる訪問エリアは、訪問診療施設から16km圏内の訪問先と決められています。ただし、特殊な理由や事情がある場合に限り、16kmを超える場所でも訪問診療を行うことが可能です。
(出典:地方創生「在宅医療に係る保険適用の柔軟化」)
訪問エリアが広い訪問診療施設は、移動にも時間がかかります。悪天候やイレギュラーな対応が起きると、スケジュールがハードになりやすいです。ハードなスケジュールが続けば、体調やメンタル面の維持に支障をきたす原因になります。
訪問エリアが広くても、高齢者施設などに訪問する施設中心タイプであれば移動時間は少なくて済みます。ハードな働き方を避けたい方は、訪問エリアや訪問先のタイプをチェックして職場を選びましょう。
デメリット(2)24時間365日体制の施設ではお休みを取りにくい
訪問診療は、24時間365日体制で患者さんの対応をする場合が多いです。夜間や休日の対応(以下、オンコール)も必要になるため、お休みを取りにくいことがデメリットです。
オンコールでは、患者さんからの電話対応に加えて必要に応じて緊急往診もします。そのため「お酒を飲まない」「当番の日は予定を入れない」など、過ごし方に工夫が必要です。
ただし、オンコールは交代制で、多くの職場では夜間に起こり得るトラブルを予測して事前に対応や予防を徹底しています。オンコール対応に不安がある方は、職場の体制や取り組みを確認しておきましょう。
看護師が訪問診療施設で働くうえで求められるスキル・資格
訪問診療施設で看護師として働くには、「正看護師」または「准看護師」の資格が必須です。すでに看護師として働いている方は、新たに必須となる資格はありません。
看護師が訪問診療施設で働くうえで求められるスキルは、次の通りです。
- 看護師としての実務経験
- 豊富な専門知識
看護師としての経験がなくても訪問診療施設で働くことはできますが、3年以上の実務経験があるとより質の高い看護を患者さんに提供できます。また患者さんの急変時に迅速な対応をするためには、豊富な専門知識が必要です。
ここでは、訪問診療施設で働く看護師が取得しておきたい資格と、仕事に役立つ資格を紹介します。
取得しておきたい資格
正看護師・准看護師の資格とは別に、専門分野や特定分野における専門家として認められた看護師が取得できる資格があります。
公益社団法人日本看護協会が認定する資格は、「認定看護師」「専門看護師」の2つです。また、保健師助産師看護師法にもとづく研修制度の修了認定を受けた看護師は、「特定看護師」と呼ばれます。
それぞれの特徴と資格取得のメリットは、以下の通りです。
・認定看護師
認定看護師は、「救急看護」「皮膚・排泄ケア」「集中ケア」など19分野の知識を十分に有する看護師が認定される資格です。より質の高い看護の提供やほかの看護師への看護実践を通した指導ができます。
(出典:公益社団法人 日本看護協会「資格認定制度」)
・専門看護師
専門看護師は、「がん看護」「精神看護」「地域看護」など14分野の知識を十分に有する看護師が認定される資格です。より専門性の高い看護の提供や保健医療福祉に携わる人々との調整もスムーズに行えます。
(出典:公益社団法人 日本看護協会「資格認定制度」)
・特定看護師
特定行為研修を受講して修了認定を受けた看護師は、特定看護師と呼ばれます。特定看護師は、難易度の高い診療の補助が可能です。医師の到着を待たずに早期処置できるため、看護師だけでなく患者さんにとっても大きなメリットとなります。
(出典:公益社団法人 日本看護協会「看護師の特定行為研修制度」)
専門看護師と認定看護師の詳細は、下記の記事でも紹介しているため参考にしてください。
■関連記事
専門看護師と認定看護師の違いとは? 向いている人の特徴も解説
その他取得しておくと便利な資格
訪問診療施設で看護師として働く場合、持っていると役立つ資格がいくつかあります。以下では、「理学療法士」「作業療法士」「自動車運転免許」について解説します。
・理学療法士
理学療法士は、運動療法や物理療法などを用いて医学的リハビリテーションを行うための国家資格です。患者さんの身体の状態に合った運動のアドバイスをする場合や、訪問リハビリのサポートなどに役立ちます。
(出典:公益社団法人 日本理学療法士協会「理学療法士とは|理学療法士を知る」)
・作業療法士
作業療法士は、医学・作業・福祉・社会学・心理学に関する知識を身につけた人が取得できる国家資格です。生活や社会参加に向けた訓練をサポートするのに必要な知識を得られるため、訪問診療にも知識や経験を活かせます。
(出典:一般社団法人 日本作業療法士協会「作業療法士になるには」)
・自動車運転免許証
自動車運転免許証(以下、運転免許)は、普通車であれば18歳以上から取得が可能です。訪問診療を行う病院やクリニックによっては、看護師が医師の送迎も担当することがあるため、運転免許があると採用に有利となる場合があります。
(出典:JAF クルマ何でも質問箱「運転免許を取得する方法は?教習所に通う必要があるのですか?」)
以上3つの資格は、患者さんに寄り添ってケアするために役立つ資格です。訪問診療に必須というわけではありませんが、看護師としてのスキルアップには大いに役立ちます。
まとめ
訪問診療とは、医師や看護師が患者さんの自宅や入居する施設で診療するサービスのことです。患者さんやご家族、その他医療機関の関係者と連携して、患者さんの健康のサポートをします。
訪問診療施設で働く看護師の仕事内容は、患者さんの診察・治療・健康管理です。高齢化率が高まる日本において、医師とともに患者さんのケアを行う看護師のニーズが高まっています。
訪問診療施設での勤務を希望する看護師さんは、看護業界に精通したキャリアアドバイザーによる転職サポートを提供するマイナビ看護師にぜひご相談ください。通常の来社面談に加えて、電話やメール、Webツールを利用した遠隔サポートを実施しております。
※当記事は2023年3月時点の情報をもとに作成しています