終末期看護(ターミナルケア)は余命が残りわずかになった方に対し、残りの人生を穏やかに過ごすことを目的に行うケアを指します。
終末期看護と似た概念に「緩和ケア」「ホスピスケア」がありますが、それぞれの違いが分からない看護師さんも多いでしょう。
そこで当記事では、終末期看護と緩和ケア・ホスピスケアの違いや終末期での看護師の役割などを詳しく解説します。終末期看護に関心があり、知識を深めたい看護師さんはぜひ参考にしてください。
終末期看護(ターミナルケア)とは?
ターミナルケアとは、人生の終末期を迎えた方をはじめ、認知症や老衰の方などを対象に行う医療・看護・介護ケアを指します。患者さんとその家族などが抱える精神的または身体的な苦痛をできるだけ取り除き、余命を平穏に過ごしてもらうことを目的としています。
「終末期」とは、人生の最期を迎える前の期間を指します。社団法人全日本病院協会による終末期の定義は次の通りです。
【終末期の定義(1~3の3つの条件を満たす場合)】
1.医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復が期待できないと判断すること
2.患者が意識や判断力を失った場合を除き、患者・家族・医師・看護師等の関係者が納得すること
3.患者・家族・医師・看護師等の関係者が死を予測し対応を考えること
上記は1つの団体による定義であり、専門家の間でも終末期の定義の仕方は分かれています。
緩和ケア・ホスピスケアとの違い
病院や介護施設、在宅看護などの医療介護現場では、終末期看護と類似した概念である「緩和ケア」や「ホスピスケア」が行われています。ここでは、両者の違いについて解説します。
- 緩和ケア
緩和ケアは、病気を患っている患者さんやその家族が抱えるさまざまな苦痛を和らげるためのケアです。緩和ケアは終末期だけ行うわけではなく、治癒を目的とした治療も緩和ケアに含まれます。緩和ケアの定義は、世界保健機関による提唱が国際標準となっています。「生命を脅かす病気に直面している患者さんやその家族の、身体的・心理的・社会的・精神的な問題に対応することで、クオリティ・オブ・ライフ(以下、QOL)を高めるケア」という考え方です。
(出典:厚生労働省「緩和ケア」)
(出典:WHO「Palliative care」) - ホスピスケア
ホスピスケアは緩和ケアと同様に、終末期を迎えている患者さんや家族の苦痛を和らげることを目的としています。緩和ケアとの大きな違いは、治癒や延命するための治療を行わない点です。ホスピスケアは治癒を目的とした治療が終わった後に始まります。病院などの医療介護施設に限らず、患者さんが療養する場所がホスピスの現場となります。
(出典:日本ホスピス緩和ケア協会「これからのホスピス緩和ケアについて」)
終末期の苦痛
終末期の苦痛は、身体的苦痛・精神的苦痛・社会的苦痛・スピリチュアルな苦痛の4タイプに大別できます。4タイプの苦悩は相互に影響し合い、1つの痛みが別の痛みを誘発するという考え方があり、「全人的苦痛(トータルペイン)」と呼ばれています。
- 身体的苦痛
病気に起因する疼痛に加え、食欲不振・倦怠感・呼吸困難・持病などの身体症状から生じる痛みです。 - 精神的苦痛
最期が近づくことで感じる精神的な負担を指し、不安・恐怖・抑うつ・怒りなども含まれます。患者さんによってはせん妄を発症する場合もあります。 - 社会的苦痛
日常生活における社会との関わりが原因となる苦痛です。「経済的な負担が増える」「育児ができない」など、さまざまな理由から苦痛が生じます。 - スピリチュアルな苦痛
「なぜ生まれたのか」「自分だけどうして」など、人としての本質に関わる問いの答えを模索する過程で感じる苦痛です。
終末期の看護計画立案
終末期の看護計画立案においては、患者さんやその家族の価値観を尊重した具体性のある目標の設定と計画の立案が大切です。綿密に立てられた計画があってこそ、患者さんのQOL向上を含む充実した看護が可能となります。
ここでは、看護計画と終末期の看護計画立案におけるアセスメントについて詳しく解説します。
看護計画とは
看護計画とは、「看護過程」における1つの段階です。看護過程はアセスメント・看護診断・看護計画・看護の実施・看護の評価で構成されています。
看護過程ではまず、ケアの対象となる患者さんの情報を収集・整理・分析して問題を明確にするアセスメントを行い、看護診断で患者さんの問題を分類・明確化します。
看護診断で分類・明確化された問題を解決するためのプロセスが看護計画です。看護計画では、はじめに目標を設定した後、「観察計画」「援助計画」「教育計画」の3つの観点から計画を立案します。
完成した看護計画については患者さんとその家族に説明し、同意を得てから看護の実施に移行します。実施した看護に対しては評価を行い、看護計画の見直しや修正をする際に適切に活かすことが大切です。
終末期の看護計画立案におけるアセスメント
終末期における病状や精神状態は患者さんによって異なるため、個々の状況に応じた看護計画立案が必要です。
アセスメントは「主観的情報」と「客観的情報」に大別できます。以下は、両者における情報の具体例です。
主観的情報 |
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客観的情報 |
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主観的情報と客観的情報をふまえたうえで、「現状」「考えられる原因」「今後の予測」の観点からアセスメントをまとめることも可能です。
以下では、倦怠感がある患者さんを例に看護計画の立案を解説します。
現状 |
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考えられる原因 |
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今後の予測 |
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以上のアセスメントから、「今後の予測」を防ぐ目的で「軽い日常動作をする」「摂取しやすい食事にする」といった事項を看護計画に盛り込めます。
終末期における看護師の役割
終末期看護においては、医師や薬剤師、看護師などから構成される医療チームが患者さんのQOL向上に努めます。看護師さんは、医療チームの一員として「意思決定支援」「疼痛コントロール」といった直接的なケアの実践が求められます。
ここでは、終末期における看護師さんが担う役割の一部を確認しましょう。
意思決定支援
意思決定支援とは、「最期は自宅で迎えたい」「家族に負担をかけたくない」といった意思を患者さん自身が選択・決定できるようにするための支援です。
意思決定支援では、現時点における患者さんの意思のみならず、人生観・価値観・人柄などを幅広く把握することが大切です。意思決定の前に病状やケアについての理解を患者さんやその家族に深めてもらうことで、受けたい医療や残りの人生の過ごし方について話しやすい環境をつくります。
支援に関わる事項は医療チームで共有し、常に円滑なコミュニケーションを心がけることが大切です。また、看護師さんには患者さんに寄り添い、動揺や葛藤を受け止める姿勢も求められます。
(出典:一般社団法人日本クリティカルケア看護学会「救急・集中ケアにおける終末期看護プラクティスガイド」)
疼痛コントロール
疼痛コントロールとは、薬物療法・理学療法・心理療法などによって患者さんが抱えている痛みを管理することを指します。看護師さんは、疼痛コントロールのなかでも薬物療法に関わる割合が高くなります。
疼痛の主な原因は「身体の障害」「神経系のダメージ」「心因性」の3つです。身体の障害には、皮膚など表面上の痛みや関節・筋肉などの深部痛、内臓痛を含みます。薬物療法で投与する薬物は、非麻薬性・非ステロイド性・オピオイド系の鎮痛薬や漢方薬などです。
疼痛コントロールにおいて、看護師は患者さんの状態に基づいて医師と相談し、そのうえで投与やケアを判断することが求められます。
悲嘆ケア
悲嘆ケアとは、患者さんとその家族が抱える悲しみや喪失感などに対するケアです。終末期にある患者さんの状況を十分に説明し、最期をどう迎えるかなどを確認しながら、後悔のないように準備を整えます。
患者さんが亡くなった後は、患者さんの家族が表す悲しみなど、さまざまな感情を受け止めます。終末期に患者さんの家族とよい関係性を構築しておけば、患者さんの家族は看護師さんに対して悲しみや喪失感などを打ち明けやすくなるでしょう。
悲嘆ケアにおいて、看護師さんは亡くなった患者さんとその家族が静かに過ごせるように配慮することも大切です。また、可能であれば家族の皆さんに死後の処置(エンゼルケア)に加わってもらうと、悲しみのプロセスを受け入れやすくなる効果も期待できます。
(出典:一般社団法人日本クリティカルケア看護学会「救急・集中ケアにおける終末期看護プラクティスガイド」)
まとめ
終末期看護の目的は、患者さんが残りの人生を自分らしく過ごし、穏やかに最期を迎えることです。その中で、患者さんの死と向き合う家族をケアすることも看護師さんの重要な役割といえます。終末期看護では、患者さんやその家族が望む形になるよう、看護師自身が自分でできることを考え続ける姿勢が求められます。
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※当記事は2023年2月時点の情報をもとに作成しています