• 2023年3月26日
  • 2023年3月30日

【イベント】自治体保健師の魅力を大いに語ろう!厚生労働省主催「地域保健シンポジウム」レポート

 

厚生労働省は、2023年2月18日(土)、会場参加およびオンライン参加によるハイブリッド形式で地域保健シンポジウムを開催しました(会場:ベルサール東京日本橋)。

地域全体の健康を守る保健師や公衆衛生医師の魅力を発信すること、感染症危機における地域と保健所・地方衛生研究所・保健師の関わりを発信することなどを目的とし、当日はお笑い芸人の山田ルイ53世さんやキンタロー。さんが登壇した基調シンポジウムや、各自治体の保健師の皆さんによる講演、自治体保健師の就職相談などが同時開催されました。

本記事では、「自治体保健師の魅力発信」をテーマに行われた、各自治体の保健師の皆さんによる講演・パネルディスカッションの内容をダイジェストでご紹介します。

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講演①「自治体保健師の1日」

1本目の講演は、自治体で働く行政保健師の仕事内容を紹介するもの。宮崎県都城保健所と名古屋市中川保健センターの新任期保健師2名が登壇しました。

保健所も保健センターの地域保健法に基づく機関ですが、前者は広域的かつ専門的な保健サービスを提供する機関(都道府県、指定都市、中核市、特別区などに設置)、後者は地域住民に身近な保健サービスを提供する機関(多くの市町村に設置)という違いがあります。

宮崎県都城保健所の新任期保健師によれば、宮崎県では業務分担制が取られ、保健所の主な業務には「感染症」「難病対策」「介護保険」「歯科保健」「精神保健」「自殺対策」「母子保健」「健康危機管理」の8つがあり、地域の健康課題に対応する役割が求められています。

宮崎県都城保健所の新任期保健師の担当である母子保健に関しては、保健所は小児慢性特定疾病や特定不妊治療、思いがけない妊娠総合相談支援等のよりハイリスクな方が対象になり、市町村や関係機関と連携し広域的な取組を行っているということです。

名古屋市中川保健センターの新任期保健師によれば、名古屋市には保健所と保健センターの機能を併せ持った政令指定都市型保健所が設置され、保健師は地区担当制(小学校区ごとに担当保健師を置く)で業務に当たっています。あらゆる年代や健康レベルの人を丸ごと受け持ち、「子育て環境の充実」「子ども・青少年の健全教育」「健康でいきいきと暮らせるまちづくり」というビジョンの下、地域全体の健康を守る責任とやりがいを感じながら働いているということです。
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講演②「自治体保健師のキャリア形成の仕方」

2本目の講演は、自治体で働く行政保健師のキャリア形成に焦点を合わせたもの。新潟県長岡地域振興局と神戸市健康局から、管理期・統括保健師が2名登壇し、それぞれの職場の教育体制と自身のキャリアの歩みについて紹介しました。

いずれの自治体も保健師の教育体制が整っており、プリセプターと共に学ぶOJTはもちろん、さまざまな全体研修・個別研修がキャリアプランの随所に織り込まれ、年数を重ねるにつれて階段を昇るように必要なスキルを獲得し、到達目標をクリアできるようになっています。また、日本地域看護学会や日本公衆衛生看護学会などの学会や外部研修への参加にもサポートが受けられるということです。

行政保健師には異動が付き物であり、新潟県長岡地域振興局の管理期保健師も本庁と地域を行ったり来たりしながら、現在までに8つの保健所での勤務を経験したとのこと。「異動先で試行錯誤している中で、『こんな取り組みを待っていたんだ』と言っていただいた地元関係者の声にうれしさがこみ上げます」と、地域に根差した活動のやりがいを語りました。

行政保健師はたくさんの法定業務をこなさなければならないため、職員の自主性に基づく活動が難しいというイメージがあるかもしれません。しかし、神戸市健康局の管理期保健師は「自分で資料を集め、対象に応じたさまざまな取り組みにチャレンジできた」ということで、生活にウォーキングを適切に取り入れるための健康教育などに取り組んだそうです。また、「職位が上がると幹部と直接話す機会が増え、市民の健康対策としてやりたいことを実現できる可能性が高まる」との実感も語りました。
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講演③「各地域の保健師の魅力」

3本目の講演は、特色豊かな自治体(山口県、北海道、埼玉県、福島県)の行政保健師の皆さんから、それぞれの地域特性を踏まえた保健活動の実際を報告するもの。

周防大島町の管理期保健師は、食生活における減塩(「ちょび塩」)の必要性を地域住民へ啓蒙し、それが産官学民を巻き込んで住民主体の活動へ発展していったことを報告しました。

北海道保健福祉部地域医療推進局の管理期保健師は、北海道という広大な土地をカバーする保健活動の中で、地域特性の幅が大きいこと、それが多様な健康課題につながっていることを実感したと報告しました。

松伏町保健センターの管理期保健師は、小規模な町では町民との距離が近く、「顔の見える関係性」を築きながら保健活動を展開することの重要性を指摘しました。

また、同じく小規模な町で働く大熊町役場いわき出張所の新任期保健師は、健診結果から運動習慣のない人や身体活動の低い人が全年齢で半数以上に及んだことから体操教室を企画・実施したことを報告し、「町民から指名してもらえる保健師になることが目標」と語りました。
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パネルディスカッション「多様な保健師の働き方とつながり」

本プログラムの最後を飾るパネルディスカッションでは4人のパネリストが登壇し、保健師の多様な働き方と保健師同士のつながり(サポート、支え合い)について意見が交わされました。

【コーディネーター】

松本珠実さん(大阪市健康局健康推進部保健主幹/全国保健師長会会長)

【パネリスト】
・北海道保健福祉部地域医療推進局の中堅期保健師
・神戸市健康局の管理期保健師
・宮崎県都城保健所の新任期保健師
・周防大島町の管理期保健師

口々に語られたのは、愛着を持って地域へ入り込み、個人だけでなく地域全体を健康にしていく仕事のやりがい、醍醐味でした。キャリアを積んだ行政保健師は自治体の保健政策の立案に関わることもありますが、この場合もキャリアの過程で地道に取り組んできた家庭訪問などから人々の生活を知っていることが基盤となります。人々の生活を知り、そこから全体を考えるという順番が大切で、その逆はありません。

また、保健師は一生続けられる仕事であり、ライフ(出産・子育てなどのライフイベントのみならず、一人の生活者として暮らす中での実感など)がワークに生きるおもしろさがあるという指摘も印象的でした。
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今後、保健師を目指す皆様へ

聴衆の中には行政保健師をめざす学生も多かったということですが、本プログラムを通して、どの自治体も保健師の現任教育について熱い思いでさまざまな工夫をしていること、一人ひとりの保健師がやりがいを持っていきいきと働いていることがよく分かったのではないでしょうか。

取材・文/ナレッジリング(中澤仁美)

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