• 2022年11月9日
  • 2022年11月9日

EMISとは? 広域災害救急医療情報システムの機能と課題を解説

 

看護師として活躍している方のなかには、災害医療について学んでいる方や災害医療の現場で活動することを考えている方もいるでしょう。また、災害医療への理解を深める中で、「EMIS」という言葉を見聞きすることもあるのではないでしょうか。

当記事では、災害医療の現場に不可欠なシステムである「EMIS」について、その概要と役割、開発の背景、災害時におけるEMISの機能やEMISが抱える課題を解説します。災害医療の現場でも冷静に行動できるよう、EMISに関する適切な知識を身につけましょう。

EMISとは?

EMIS(Emergency Medical Information System)とは、日本語で「広域災害救急医療情報システム」と表される、災害医療の現場に欠かせない情報システムを指します。

大規模災害発生時の死傷者を最小限に抑えるためには、被災地やその周辺地域における医療機関の稼動状況などの情報を自治体の垣根を越えて共有することが大切です。EMISは、被災地域に必要な医療・救護・看護を迅速かつ適切に提供するための情報を収集・集約・提供する目的で使用されています。
(出典:厚生労働省・広域災害救急医療情報センター「広域災害救急医療情報システム(EMIS)Emergency Medical Information System」

広域災害救急医療情報システム

なお、EMISは厚生労働省を筆頭に、47あるすべての都道府県や多くの医療機関、DMATなどの医療支援チームが主に利用しています。2018年4月時点における医療機関(病院・診療所)の登録率は93%と高く、消防本部や医師会、市区町村・保健所の登録も進んでいます。
(出典:厚生労働省「広域災害・救急医療情報システム(EMIS)概要について (株式会社 NTTデータ)」

EMISが開発された背景

EMISが開発されたきっかけは、1995年1月に発生した「阪神淡路大震災」です。大規模地震のような大きな災害の発生時には、一般的に県庁や市役所などが調整・指示を行いますが、阪神淡路大震災ではこれらの機関も大きな被害を受けました。自治体と各医療機関、医療機関どうしの情報共有がうまくいかず、医療の現場が混乱する事態に陥りました。

被災地域の医療機関・医療従事者は最適な対応をしようとしましたが、患者さんが一部の医療機関に集中するといった医療の不均衡が発生した地域も少なくありません。また、施設の倒壊やライフラインの停止、医療資源の不足など、医療体制が麻痺し満足な医療行為・看護ケアを行えない医療機関に関する情報も十分に共有できませんでした。

このように、被災地域における医療情報が錯綜したことで、本来であれば防げた可能性が高い災害死は、阪神淡路大震災では500人を超えたといわれています。
(出典:日本赤十字社 和歌山医療センター「EMISとは…?」

阪神淡路大震災の教訓から、EMISは災害発生時における都道府県・市区町村の枠を越えた迅速な医療情報共有を目的に開発されました。1996年に運用が開始されたEMISは、改良を重ねながら発展し、現在では被災地域に適切で迅速な医療提供に欠かせないシステムとなっています。
(出典:厚生労働省「広域災害・救急医療情報システム(EMIS)概要について (株式会社 NTTデータ)」

災害時のEMISの機能

災害時のEMISの機能

災害時におけるEMISの機能には、主に次の3つがあります。

◆災害時におけるEMISの3つの機能

(1)EMIS基本機能

(2)DMAT管理機能

(3)医療搬送患者管理機能

(出典:東京都福祉保健局「広域災害救急医療情報システム(EMIS)について」

ここでは、上記の3つの機能の概要や主な利用方法について解説します。各機能の役割や用途について確認し、EMISへの理解を深めましょう。

EMIS基本機能

EMIS基本機能とは、災害発生後における医療機関の被災状況や受け入れ患者の可否・受け入れ可能な患者数などの情報収集を行い、関係各所で共有するための機能です。EMIS基本機能は、主に次のような機能から構成されています。

◆EMIS基本機能の概要

機能 主な利用者 利用のしかた
緊急時入力 医療機関 「倒壊状況」「ライフライン・サプライ状況(停電・断水・医療ガスの故障停止など)」「患者受診状況」「職員状況」のように、災害発生直後の医療機関における状況を入力します。
詳細入力 医療機関 災害発生後、医療機関の稼働状況をある程度把握できたころに詳細な情報を入力します。
統合地図ビューアー 都道府県 医療機関をマッピングした地図と併せて、災害情報や医療機関の被害状況・詳細情報を確認できます。
医療機関等・支援状況モニター 全関係者 医療ニーズや支援チームの手配状況を確認できます。
(出典:厚生労働省「広域災害・救急医療情報システム(EMIS)概要について (株式会社 NTTデータ)」

DMAT管理機能

DMAT管理機能とは、DMATの派遣要請・活動状況を管理し、DMATに関する情報を関係機関各所で共有するための機能を指します。

DMAT(Disaster Medical Assistance Team)は、災害発生後の急性期に医療活動できるようトレーニングを受けた医療チームのことです。医師や看護師などの医療職や事務職員から構成されており、被災地域での迅速かつ適切な医療ケアの提供に貢献しています。
(出典:厚生労働省 DMAT事務局「DMAT」とは

■関連記事

◆DMAT管理機能の概要

機能 主な利用者 利用のしかた
DMAT登録者管理 DMAT・DMAT
事務局
DMATに所属している隊員の基本情報や資格情報、研修受講状況を登録・確認できます。
活動状況モニター 都道府県
(行政機関)
DMAT派遣要請や各チームの基本情報、活動状況、目的地・活動中の場所などの情報を確認できます。
(出典:厚生労働省「広域災害・救急医療情報システム(EMIS)概要について (株式会社 NTTデータ)」

医療搬送患者管理機能

医療搬送患者管理機能とは、医療搬送の対象となる患者さんや広域搬送を行う航空機の管理を行い、搬送先の医療機関やDMATなどと情報を共有するための機能を指します。

大規模災害が発生した場合、被災地域内では十分な医療が提供できないケースも少なくありません。重症の患者さんの場合は、被災地域外から派遣されたDMATや救護班が被災地域外の災害拠点病院などに救急搬送する必要があります。この一連の流れである「広域医療搬送」をサポートするのが、EMISの医療搬送患者管理機能です。

◆医療搬送患者管理機能の概要

機能 主な利用者 利用のしかた
医療搬送患者モニター DMAT 搬送が必要な患者さんの情報や、搬送先の医療機関情報、搬送手段の登録・管理・確認ができます。
(出典:厚生労働省「広域災害・救急医療情報システム(EMIS)概要について (株式会社 NTTデータ)」

EMISの課題

EMISの課題

EMISは1996年の運用開始以降、2016年の熊本地震や2018年の北海道胆振東部地震など、さまざまな災害発生現場で活用されてきました。EMISは災害発生時における迅速かつ適切な医療提供に大きく貢献してきましたが、活用の歴史の中で見えてきた課題もあります。

ここでは、今後改善が期待される2つの課題について解説します。課題のポイントや改善のために取り組むべきことを確認し、今後のEMIS利用や災害医療現場での活動に活かしましょう。

システム操作性についての課題

EMISが抱える課題の1つとして、「システム操作性の改善」が挙げられます。EMISは災害発生時において必要な情報を集約し整理できるメリットがある一方で、円滑な操作が難しいという声もありました。視認性やデザイン性も良好な状態とはいえないため、必要な情報をすぐに発見できないデメリットもあります。

今後はこれらの課題を解決するために、システムプログラムの見直しやインターフェース(視認性・デザイン性)の向上に対する取り組みの実施が期待されます。また、長期支援に向けた経時的な変化を確認する機能の搭載や、タブレット・スマートフォンのアプリ開発、オフライン操作を可能とする様式変更も検討されるでしょう。
(出典:厚生労働省・兵庫県災害医療センター「広域災害・救急医療情報システム(EMIS)の歴史と進歩、そして課題」

操作者の習熟度についての課題

EMISは主に災害発生時という非常時に使用されるシステムであり、平時に関しては多忙な医療職や自治体職員はほぼ利用することがありません。また、災害発生時には必ずEMISを使用するDMATですら、使用頻度は半年に1回程度といわれています。システムの複雑さの改善も重要ですが、操作者の習熟度の向上もEMIS運用の大きな課題といえるでしょう。

操作者の習熟度向上に向けた取り組みとしては、研修会の開催など十分な研修体制の構築および、より多くの機関に対するEMIS操作法の普及活動などが挙げられます。個人で練習可能な「トレーニングモード」の搭載も検討されており、看護師さんも今後はEMISの知識・スキルの習得と災害への備えが求められると考えられます。
(出典:厚生労働省・兵庫県災害医療センター「広域災害・救急医療情報システム(EMIS)の歴史と進歩、そして課題」

まとめ

EMISとは、災害発生時に被災地域の医療情報を集約し、その情報を活用して迅速かつ適切な医療を被災地域に提供するために開発された情報システムのことです。EMISにはさまざまな機能があり、1996年の運用開始以降多くの災害現場における救助活動に活用されてきました。

現在ではEMISが抱える課題の解消に向けた取り組みも行われており、今後は一般の看護師さんもEMISに関する知識・スキルを身につけることが求められると考えられます。知識・スキルを磨くために転職を検討している方は、看護業界に精通したキャリアアドバイザーが在籍する「マイナビ看護師」にぜひご相談ください。

※当記事は2022年9月時点の情報をもとに作成しています

著者プロフィール