命と向き合う看護の現場では、患者さんの死に遭遇することもあります。大切な人を亡くすことは、遺された人たちに大きな衝撃を与えます。そのような死別の悲しみを乗り越えるためのサポート方法の1つが、グリーフケアです。
今回は、グリーフケアが必要な症状や反応と、効果的なグリーフケアの流れを解説します。また、看護師の皆さんがグリーフケアを行うときに押さえておきたいポイントもご紹介しますので、ぜひ日々の看護の参考にしてくださいね。
グリーフケアとは?
グリーフケアとは、家族や友人、恋人などの大切な人との死別を経験して、深く悲しんでいる人に寄り添い、心のケアや回復の支援などを行うことを指します。グリーフとは、大切な人を亡くしたときに生じる、悲しみなどのさまざまな反応です。
(出典:日本グリーフケア協会「グリーフケアとは」)
グリーフケアに関する資格の1つに「グリーフケア・アドバイザー」があります。グリーフケア・アドバイザーはグリーフケアの知識や実践スキルを習得したスペシャリストで、認定講座を受けることで取得可能です。
(出典:日本グリーフケア協会「グリーフケア・アドバイザー」)
グリーフの状態は、健康な状態とはいえません。人は、うまく悲嘆の経過を歩めない場合、うつ病や不安障害などの精神疾患の発症や、自らを傷つける行為に至る可能性があります。そこで看護師の皆さんがグリーフケアを行うことで、遺された人たちの心の回復のサポートにつながります。
グリーフケアの実施で期待できる、家族や第三者、看護師への効果は以下の通りです。
●家族や第三者への効果
適切なグリーフケアを受けた場合、子どもや親、友人などの大切な人の死という大きな悲しみを和らげられます。また、悲嘆のプロセスを上手に歩み、死別の影響による身体的・精神的な不調を防ぐことが可能です。
(出典:厚生労働省「子どもを亡くした家族への支援の手引き」)
●看護師への効果
グリーフケアの実施によって、自身の看護を振り返り、看護師として成長できます。また、看護師間でグリーフケアの内容を共有した場合、ほかの看護師のスキルアップにもつながります。グリーフケアの経験は、ほかの患者さんへのかかわり方にも変化をもたらすでしょう。
(出典:日本看護協会「人生の最終段階における医療と倫理」)
看護師によるグリーフケアが必要な症状と反応
以下に挙げる症状や反応が表れた場合は、グリーフケアが必要です。
精神的な症状 |
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身体的な症状 |
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行動や認知などの日常生活に現れる反応 |
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単純な気分の落ち込みとの区別が難しい内容もありますが、放置した場合はPTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病を発症するリスクもあります。落ち込んでいる様子がみられたら、早めにグリーフケアを実施しましょう。
(出典:日本グリーフケア協会「グリーフケアとは」)
【看護師】効果的なグリーフケアの流れ
一般的に、グリーフケアは以下の順番で行われます。
1 | 療養生活開始時 |
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2 | 臨終時 |
3 | 看取り後 |
それぞれの過程で適切な対応を行うことで、遺族側の悲嘆の症状・反応を軽減できる可能性があります。ここでは、療養の各段階に合ったグリーフケアと、グリーフケアのやり方を解説します。
療養生活の開始時
ともに時間を過ごしてきた大切な人の死は、大きな喪失体験です。死期が近い状態で病院などの療養生活をはじめた患者さんの場合、本人や家族には、残された時間が短いことを伝えます。
ある日突然に亡くなった場合、遺された方は気持ちの整理ができず、パニック状態に陥りかねません。そのため、患者さんの死に至るまでの心身の変化を、亡くなる前からよく説明し、看取りへの不安や動揺をできるだけ少なくすることが重要です。
また、患者さんに会わせておきたい方はいないか家族に声をかけ、少しでも患者さんが元気なうちに会えるように工夫するとよいでしょう。
(出典:日本看護協会「入院直後に急死した患者の遺族への対応」)
臨終時
患者さんの死に立ち会いたいと考えているご家族は少なくありません。家族が患者さんの死に際に間に合うよう、前もって連絡をしましょう。連絡する際は家族を焦らせることなく、安全に来院してもらうよう促します。
臨終後は、家族が患者さんとできるだけ一緒に過ごせるよう配慮しましょう。カーテンを引く、個室へ移動するなどして、家族が十分に悲しめる環境を作ることが大切です。
また、可能であれば、家族にもエンゼルケアに参加してもらいましょう。エンゼルケアへの参加には、悲嘆のプロセスの段階をうまく歩める効果があります。患者さんの手足や顔の清拭など、家族が参加しやすい処置を提案してみるのもよいでしょう。
看取り後
訪問看護などの在宅医療の場合は、看取り後にグリーフケアを行います。
グリーフケアを要する場合、できれば遺族のもとへ出向き、傾聴や共感などのグリーフケアを行います。直接訪問することが難しい場合は、電話で遺族の話を聞くようにしましょう。「その後、いかがお過ごしですか」「食事は取れていますか」など、電話で少し話すだけでも、悲嘆のプロセスを歩む助けになります。
(出典:大阪医科大学看護研究雑誌 第10巻(2020年3月)「訪問看護におけるグリーフケアの現状と課題:文献検討」)
看護師がグリーフケアを行うときのポイント
看護師は、患者さんの療養生活の始まりから看取りまでの過程で継続的にかかわる存在であるため、遺族に声をかけ話を聞く場面が多くあります。
看護師がグリーフケアを行うにあたって、遺族の悲しみなどを蒸し返すような言動は、喪失からの回復を妨げるおそれがあるため厳禁です。以下では、グリーフケアを行うときに押さえておきたいポイントを2つご紹介します。
悲しみに共感・肯定をする
グリーフケアで大切なポイントは、遺された人の悲しみに共感し、悲しみを肯定することです。
身近な人が逝去したときに、悲しみを感じているにもかかわらず感情を抑え込んでしまう方は少なくありません。看護師の皆さんは、悲しみは自然な感情であることを遺族に伝え、悲しみを傾聴し、遺族の気持ちに共感・肯定しましょう。
また、遺族の悲しみに寄り添うことで後回しになりやすい、看護師さん自身の悲しみに対しても、グリーフケアは必要です。看護師という立場にあっても、悲しみを抑えることなく、感情を少しずつ受け入れましょう。
気持ちを吐き出しやすい場を作る
悲しみを乗り越えるためには、気持ちを思いきり外に出すことが必要です。悲しみだけではなく、怒りや後悔などのさまざまな感情を、ありのままに吐き出すのが効果的です。
気持ちを吐き出しやすい場としては、葬儀やお別れ会、遺品整理や納骨などがあります。故人の生前の思い出を語ることで、気持ちの整理がつきやすくなります。
身内や知人に気持ちを吐き出すのが難しい場合は、「死別の経験者」という同じ境遇の方が集まる会に参加するのもよいでしょう。参加者はお互いの気持ちを理解しやすいため、素直に気持ちを吐き出せるとともに、悲しみを乗り越える助けとなります。
また、故人に宛てた手紙を書くことも有効です。気持ちを表現するのが苦手な場合は、故人の写真や遺品などを手元に置くと思いを表しやすくなるでしょう。
まとめ
グリーフケアは、大切な人を亡くした悲しみを乗り越える助けとなります。グリーフケアは患者さんの死後だけではなく、療養生活の始まりや臨終の際にも行われます。看護師の皆さんは、自身の悲しみにも目を向けながら、遺族の気持ちに寄り添いましょう。
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※当記事は2022年7月時点の情報をもとに作成しています