検査や治療などの医療処置を行うとき、患者さんが小さい子どもの場合は、処置を受け入れてもらうためのコミュニケーションの取り方に難しさを感じるかもしれません。しかし、どのような検査や治療を行うのかを分かりやすく伝えることは、患者の年齢に関係なくとても大切です。
この記事では、子ども達に処置を受け入れてもらうために重要なディストラクションについて紹介します。ディストラクションに関連する、プレパレーションについても解説しているため、小児看護の現場で子ども達をサポートする際の参考にしてください。
ディストラクションとは? 看護のプレパレーションの重要性
ディストラクションとは、予防接種や病気治療などの医療処置による痛みから子ども達の気をそらすために行われる、主に遊びによる支援です。小さな子どもへのディストラクションは、医療処置に対しての苦痛を減らすプレパーションの一種として有効です。ここでは、小児看護におけるプレパレーションやディストラクションについて解説します。
(出典:滋賀県立小児医療センターホームページ)
小児看護のプレパレーションとは
プレパレーションとは、病気などで検査や治療を受ける子どもに対して、発達段階に応じた説明を行い、乗り越えるための環境を整えることです。子ども達が医療行為を理解し、納得して受け入れられるようにサポートすることが、小児看護におけるプレパレーションの目的です。
医療処置を行う際、通常は医療者から患者さんに対して「インフォームドコンセント」が行われますが、15歳以下の子どもは対象になっていません。しかし、どのような検査や治療を行うかを分かりやすく伝えることは、年齢に関係なく患者さんの負担軽減と基本的な人権尊重のために重要です。
1988年5月、オランダ開催の「第1回病院の子どもヨーロッパ会議」において「病院の子ども憲章」が合意されました。「病院の子ども憲章」では、子どもが医療処置について「理解力に応じた説明を受ける権利」が明記されています。国内の病院でも「子ども憲章」が定められている場合が多く、子どもに分かりやすい説明を行うことが重要視されています。
(出典:公益社団法人日本小児保健協会「プレパレーションの5段階について」
地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪母子医療センター「子ども憲章」)
患者さんである子ども達に医療処置について理解してもらうために、看護師の皆さんには年齢や発達段階に応じた伝え方が求められます。
たとえば、患者さんが3〜7歳の子どもの場合、遊びを取り入れたリラックスできる環境の中でプレパレーションを行うのが最適と言われています。具体的には、可愛いぬいぐるみを使って、シミュレーションや見立てごっこをしながら伝える方法が有効です。また、7〜12歳頃の学童期と呼ばれる時期には、言葉でのコミュニケーション能力や想像力が発達するため、紙芝居や動画などを使って説明を行いましょう。
(出典:[子どもと親へのプレパレーションの実践普及]研究班 平成14・15年報告書別冊「プレパレーションの実践に向けて 医療を受ける子どもへのかかわり方(PDF)」)
なお、プレパレーションでは医療処置前だけではなく、来院前から帰宅後まで継続的なサポートを行うのが特徴です。プレパレーションの過程は5つに分けられ「プレパレーションの5段階」と呼ばれます。
(1)病院に来る前 | 保護者や外来スタッフが病院について、事前に説明しておく。 |
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(2)入院・処置のオリエンテーション | 来院後の子どもの表情や身体状況を観察しながら、入院のオリエンテーションを行う。 |
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(3)プレパレーション・真実に基づく説明 | ぬいぐるみなどを使い、事実に基づく説明やデモンストレーションを行う。視覚・聴覚・触覚で医療行為を理解できる場を作る。 |
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(4)処置中の気を紛らわせる遊びの介入 | 声掛けやおもちゃを使って子どもの気を紛らわせることで、検査や治療のみに集中することを防ぎ、苦痛を緩和する。 |
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(5)処置後・退院後の遊び | 検査や治療の終了後に、子どもの頑張りを評価し、自己の中で起きた事柄に向き合い消化する心理的プロセスを支援する。 |
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(出典:公益社団法人日本小児保健協会「プレパレーションの5段階について」)
小児患者へのディストラクション
プレパレーションのうち、遊びなどを通じて五感を刺激し、処置中に子どもの気を紛らわせる方法をディストラクションと呼びます。処置ではなく、別のものに子どもを集中させて、不安や痛みを軽減させます。なお、ディストラクションは言葉のコミュニケーション能力がまだあまり発達していない乳児や3歳未満の幼児に対して特に効果的です。
子どもへ医療行為を行う際には、子どもが持つ不安や恐怖を最小限にしながら、安全に素早く処置を行う必要があります。そのためには、ディストラクションを実施するスタッフと処置にあたるスタッフの連携が欠かせません。
加えて、コミュニケーションを取りながら、子どもの様子やペースに合わせて柔軟に対応することも重要なポイントです。これから起こる検査や治療などに対処するための方法について、子どもの希望を聞きながら、子ども自身が選択できるような問い掛けを行いましょう。具体的には、「検査のお部屋にはママと行く? 看護師さんと行く? 」など、選択できる問い掛けをすることで子どもに決定権が生まれ、治療を頑張れるようになります。
ディストラクションではどのようなことを行う?
小さな子どもに向けたディストラクションとしては、声掛け以外にも、おもちゃなどの媒介ツールを使う方法があります。ここではディストラクションの具体例を5つに分けて紹介します。
視覚的刺激…好きな絵本を読み聞かせる。動くおもちゃを見せる。
聴覚的刺激…音楽をかける。音が出るおもちゃで遊ぶ。
触覚的刺激…粘土などの手触りが面白いアイテムでコミュニケーションを取る。
嗅覚的刺激…アロマの良い香りでリラックスできる環境を整える。
その他…シャボン玉や風船など、思わず目で追い、触りたくなるもので遊ぶ。
スタッフである看護師の皆さんの支援だけではなく、家族などの保護者に声掛けや抱っこで参加してもらうのも効果的です。また、保護者の精神状態は子どもに大きく影響するため、保護者の心配や不安にも寄り添うことが大切です。あらかじめ保護者へプレパレーションやディストラクションの内容について丁寧に説明し、理解と協力を得ます。
さらに、何をすれば気が紛れるのかは子どもの興味や年齢により異なるため、日頃から子どもとコミュニケーションを取り、子どものことをよく知っておきましょう。
ディストラクションを行い子どもに処置するときの流れ
小児看護においては、どのような流れでディストラクションを実践するのでしょうか。採血のケースを例に挙げて、具体的なケアの流れを紹介します。
採血前 |
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採血中 |
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採血後 |
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(出典:[子どもと親へのプレパレーションの実践普及]研究班 平成14・15年報告書別冊「プレパレーションの実践に向けて 医療を受ける子どもへのかかわり方(PDF)」)
事前準備として、処置室に可愛らしい装飾を行うなど、なるべくリラックスできる環境を整えます。採血前には、どのように採血に対処するのかを子どもの希望を聞きながら考えます。ベッドに寝るのか座るのか、絵本を見るか、ボールで遊ぶかなど、子ども自身に選んでもらいましょう。採血の目的を説明するときにも、どこでどのように行うのか、どのような感覚がするのか、子どもに分かりやすく伝えるのがポイントです。
保護者が抱っこせずに採血を行う場合も、子どもが処置を乗り越えられるよう、声かけやおもちゃでサポートしましょう。ディストラクションを行う際には、子どもの表情を見ながら行うとより効果的です。
やむを得ず1回で採血が完了できなかったときは、子どもの心身の負担に配慮し、十分なケアを行います。休憩の取得や声かけ、保護者による抱っこなどを通して、子どもの自己効力感を高めてあげることが大切です。
まとめ
ディストラクションを含む、プレパレーションの過程は、子ども達が医療処置に対して抱く心理的負担や痛みを減らすための重要な支援です。保護者にもディストラクションやプレパレーションの内容を丁寧に説明し、理解と協力を得ましょう。
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※当記事は2022年7月時点の情報をもとに作成しています