訪問看護で働く看護師(訪問看護師)は、患者さんやご家族が思い通りの在宅療養生活を実現できるように支援する重要な人材です。訪問看護の重要性や需要が高まっている一方で、訪問看護の仕事はときに「きつい」「大変」といわれることがあります。
当記事では、訪問看護の仕事がきついといわれる理由や、きついと感じるときの対処法などを紹介します。訪問看護で働く看護師の仕事内容から、メリットとデメリットまでを把握して、当記事を職場選びの参考にしてください。
訪問看護の仕事はきつい? 大変といわれる理由7つ
訪問看護とは、疾病もしくはケガによって在宅療養が必要な方の自宅を訪問し、療養上の世話又は必要な診療の補助を行うことです。訪問看護で働く看護師は訪問看護ステーション・保険医療機関(介護保険法のみなし指定訪問看護事業所)・民間企業などに所属し、訪問看護サービスを提供します。
要介護・要支援に認定されている高齢者などに対しては、原則的に介護保険の給付により、訪問看護サービスの提供が可能です。要支援・要介護に認定されていない高齢者は医師が必要性を認めた場合、医療保険の給付による訪問看護を受けられます。
(出典:厚生労働省「訪問看護について」)
看護師は訪問看護において幅広い仕事を担当します。下記は、訪問看護で看護師が担当する仕事の代表例です。
- 体温、血圧、血糖値などの測定
- 健康状態の確認
- 在宅酸素、呼吸器の管理
- 点滴、服薬管理
- 日常生活のサポート
- リハビリテーション
- 療養生活相談対応、支援
- 療養環境の調整、支援
訪問看護では一般的な看護師と異なる仕事を担当したり、特殊な働き方が要求されたりするケースもあるため、大変さを感じることがあるでしょう。以下では、訪問看護が「きつい」「大変」といわれる理由をより具体的に紹介します。
身体的な負担が大きいため
訪問看護では、病院ほど看護に適した設備のない環境で働くことがあります。介助用の手すりのない環境で入浴介助を行ったり、段差の多い自宅で移動介助を行ったりする際は、「きつい」と感じる方が多いでしょう。
また、訪問看護はクリニックや病院での勤務とは異なり、自分自身で患者さんの自宅からほかの患者さんの自宅に移動する必要があります。悪天候の日に自転車・自動車を運転し、体力を消耗することもあるでしょう。
オンコール対応が必要なため
訪問看護の看護師は、一般的に当番制でオンコール対応を行います。オンコール対応とは、営業時間外や休日の緊急呼び出しに備えるために専用の携帯電話を持ち、自宅で待機することです。当番日には常に電話を意識する必要があり、気が休らないと感じる人もいるようです。
また、一部の訪問看護ステーションは所定の時間内に患者さんの自宅へ訪問できる体制を整える目的で、看護師の居住エリアを一定の範囲に制限します。オン・オフを明確に区別したい看護師にとっては、居住エリアの制限がストレスを感じる要素の1つになるでしょう。
1人で判断をする場面があるため
訪問看護では原則、看護師1人で患者さんの自宅に行き、必要な処置やケアを提供します。医学的な専門知識が必要な仕事を自身のみでこなすことに慣れないうちは、不安やつらさを感じるでしょう。
ただし、一部の訪問看護ステーションでは看護師に連絡用の携帯電話を支給し、責任者や同僚などに判断をあおげる体制を取っています。また、患者さんの容態が急変した際は医師の指示・判断をあおげるケースが多いため、重要な判断をすべて自身のみで担当するとは限りません。
人間関係の構築が難しいため
患者さんのなかには訪問看護を受けることに対し、嫌悪感を直接示す方もいます。看護師が訪問すると自身の部屋から出て行く患者さんに遭遇したり、身体に触れることを拒否されたりした際には、対応の難しさを感じるでしょう。
また、訪問看護をスムーズに進めるためには、ご家族との人間関係を構築することも重要です。患者さんを最初に訪問してからしばらくは対応を監視されたり、前任者と比較されたりしているように思い、気まずさを感じる可能性があります。
多職種との連携が必要になるため
訪問看護の看護師はケアマネジャー・訪問介護員などと連携し、患者さんの生活を支えます。各職種ごとに思考パターンや価値観が異なることから、意見が衝突することもあります。看護師が「よかれ」と思って行ったことをほかの職種の方から否定されると、ストレスを感じる場合もあるでしょう。
また、訪問看護では病院の医師や看護師との連携も必要です。面識のない医師や看護師とのコミュニケーションに慣れるまでは、「きつい」と感じることがあります。
しかし、多職種連携で仕事にあたれる環境だからこそ「患者さんの安全に繋がりやすい」「自身のスキルアップにも繋がる」といったメリットもあります。
訪問先の環境が過酷な場合があるため
訪問先の環境がさまざまであることも、訪問看護が大変といわれる理由の1つです。たとえば、訪問先にエアコンがないと熱中症になるリスクを感じつつ、必要な処置やケアを行います。著しく不衛生な環境の訪問先では看護師への汚染を防止するため、靴下カバーや上着を使用することもあります。
ただし、過剰な身支度によって患者さんを不快にさせると関係性が悪化するケースもあるため、一定の気遣いが必要です。場合によっては最低限の身支度で患者さんと接し、訪問後に着替える対処を取る必要もあります。
介護業務を手伝う場合があるため
訪問看護ステーションの体制によっては、看護師が介護業務を手伝うことがあります。下記は、看護師が手伝う可能性のある介護業務の例です。
- 食事の介助
- トイレへの移動介助、オムツ交換
- 体位変換
- 口腔内の清潔ケア
- 入浴介助
- 患者さんやご家族の精神的ケア
経験不足の看護師は介護業務に慣れるまでコツを掴めず、苦労することがあります。訪問看護の現場で活躍するためには、医療分野・介護分野両方の知識や技能が必要であることを理解しておきましょう。
訪問看護の仕事がきついと感じるときは何をすればいい?
訪問看護の仕事が「きつい」と感じる場合は、自身に合う対処法を探して状況を改善しましょう。主な対処法には下記の3つがあります。
- 職場に相談する
- 休日にリフレッシュを図る
- 訪問看護以外の職場を検討する
以下では、訪問看護の仕事が「きつい」と感じるときの対処法について、それぞれ詳しく解説します。
職場に相談する
身体的な負担や人間関係の悩みによって「きつい」と感じる場合は、職場に相談してみましょう。訪問看護ステーションによっては、訪問件数の調整・シフト変更などの対処を取ってもらえる可能性があります。移動に伴う身体的な負担は直行直帰スタイルに切り替えてもらうことにより、負担軽減に繋がります。
また人間関係の悩みがあった場合も、相談すると、状況に応じて訪問先を変更してもらえる可能性があります。
しかし、人員不足が深刻な職場では訪問先を変更できない場合があり、「希望が必ず通る」とはいえません。
休日にリフレッシュを図る
休日は仕事から解放されて、心身をリフレッシュすることも1つの方法です。翌日以降のエネルギーを蓄えるためにもオンとオフを明確に区別し、意識的なリフレッシュを図りましょう。リフレッシュ方法の例は下記の通りです。
- ウォーキングやジョギングで汗を流す
- マッサージで癒される
- 映画鑑賞や読書に没頭する
- 郊外までドライブする
最適なリフレッシュ方法は個人によって異なります。さまざまな選択肢のなかから自分に合うリフレッシュ方法を探し、休日に実践しましょう。
訪問看護以外の職場を検討する
対処法を実践しても状況が改善できない場合には、訪問看護以外の職場を検討してみましょう。下記は、看護師免許を活かして転職できる職場の例です。
- 病院、クリニック
- 介護施設
- 保育園、幼稚園
- 一般企業
- 献血ルーム、検診センター
しかし、看護師がやりがいを持って長く働くためには、自身の希望するキャリアプランに合う職場を探す必要があります。訪問看護の仕事に大きな魅力を感じている方の場合、ほかの職場に転職することが最善の選択肢とはいえないケースもあるでしょう。
働く訪問看護ステーションはどう選ぶ? 5つのチェックポイント
訪問看護の仕事が大変かどうかは、働く場所・環境に大きく左右されます。仕事が「きつい」と感じる状況を事前に回避するためには、働きやすい訪問看護ステーションを選ぶことが重要です。
以下では、働きやすい訪問看護ステーションを選ぶためのチェックポイントを紹介します。
オンコール対応の有無
働きやすい訪問看護ステーションを選ぶポイントとして、オンコール対応の有無をチェックすることが挙げられます。オンコール対応がない環境では、身体的な負担を軽減して働くことが可能です。
オンコール対応がある訪問看護ステーションを選ぶ場合は、頻度と手当の金額を確認しましょう。日本看護協会の調査によると、オンコール対応頻度の平均は1か月に5〜9回です。フルタイムの正職員がオンコール対応する際には、平日1,718円・休日2,696円程度の手当が支給されます。
(出典:日本看護協会「2014年訪問看護実態調査報告書」)
手当の金額が平均を超える訪問看護ステーションを選ぶと、労力に見合った見返りを得られる可能性が上がります。
1日のおおよその訪問件数
身体的な負担の少ない職場を選ぶためには、訪問件数の目安を聞くことも大切です。1日あたりの訪問件数は平均4〜6件程度であるため、4件以下であれば「負担の少ない訪問看護ステーション」と判断できます。
ただし、地方部では訪問件数が少ない代わりに移動時間が長くなることもあるため、「自身にとって何が負担か」を明確化したうえで職場を選びましょう。「移動の負担をなるべく軽減したい」と考える方は、訪問件数が多くても担当エリアの範囲が狭い訪問看護ステーションを選ぶことが一案です。
年間休日の日数
年間休日の日数には、訪問看護ステーションの経営方針が反映されます。年間休日が120日以上あれば、ワークライフバランスに考慮している職場といえます。また、「週休二日制」「完全週休二日制」などもチェックしておきましょう。
より念入りに働きやすさを見極めるためには、有休消化率の確認も重要です。年間休日の日数が多くても有給消化率が低ければ、働きやすい環境とはいえない可能性があります。
利用する患者さんの特徴
訪問看護ステーションを利用する患者さんの特徴は、施設ごとで異なります。自分自身の経験やスキルが活かせる訪問看護ステーションを選ぶと、負担を軽減できるでしょう。下記は、訪問看護ステーションごとに異なる特徴の具体例です。
- 難病や重症の患者さんが多い
- 精神疾患を持つ患者さんが多い
- 要介護度の低い高齢者が多い
- がんのターミナルケアを主に提供している
難病や重症の患者さんが多い訪問看護ステーションでは高度な看護スキルを要求されるケースも多く、看護師業務に慣れない方が「きつい」と感じるリスクがあります。就職・転職活動中の面接では担当者に患者さんの特徴を質問し、知識の習熟度とのマッチングを確認しましょう。
教育体制の充実度
訪問看護未経験の方が働く場合は、教育体制の充実度が重要です。教育体制の充実度を測るためにチェックしたい項目は下記の通りです。
- 先輩の同行訪問をどの程度の期間受けられるか
- 未経験者向けの基礎研修はあるか
- 専門資格の取得支援制度はあるか
一般的には大規模な訪問看護ステーションほど、充実した教育体制を取っている可能性が高いといえます。ただし、近年では規模を問わずに教育体制の充実に注力している職場もあるため、「小規模な訪問看護ステーションは働きにくい」とはいい切れません。
訪問看護はきついことだけじゃない! 代表的なメリットを紹介!
訪問看護の仕事は「きつい」といわれることもある一方、スキルアップにつながるなどのメリットも多くあります。訪問看護で働くキャリアを検討する際には、大変さとメリットを考慮しつつ、自分に合う仕事かどうかを判断しましょう。
以下では、訪問看護の仕事に関する5つのメリットを紹介します。
患者さんと密に関われる
訪問看護で担当する患者さんの人数は、多くても1日あたり6人程度です。病棟看護師や外来看護師と比較して担当する患者さんの人数が少ないことから、ひとり一人と密に関わって信頼関係を構築できます。
また、訪問看護は年単位でひとりの患者さんを担当することも多く、長期的な変化を見守ることが可能です。自身が関わったことで回復していく患者さんの様子を見ることは、看護師としての自信につながります。
訪問看護の現場では患者さんやご家族から感謝される機会も多いため、モチベーションを高く維持しやすいでしょう。「(看護師のおかげで)体調が改善された」などの言葉を聞けたときは、仕事の苦労が報われたように感じるのではないでしょうか。
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自分のペースで働ける
訪問看護で働く看護師は1人で行動する時間が長く、他の看護関連の職種よりも自分のペースで働きやすいことが特徴です。移動時間に余裕があればコンビニで買い物したり、ランチ休憩を取ったりすることも可能です。
また、訪問看護は患者さんの意見を尊重し、柔軟な対応が求められる仕事です。病院のルールに縛られすぎず、本当の意味で患者さんに貢献できる接し方を探せる点は訪問看護の魅力といえます。
土日祝日は休める
多くの訪問看護ステーションは土日祝日が休みであるため、一般的な会社員に近い働き方を実現でき、家族や友人との時間を確保しやすくなります。
土日祝日がオンコール当番日にあたる場合は呼び出しに備える必要があるものの、手当による金銭的な見返りを得られます。職場と相談すれば、予定のある土日祝日以外の日にオンコール当番を受けることもできるでしょう。
なお、土日祝日にオンコール当番を担当しても、電話による口頭の説明で対応できるケースがあります。そのため、実際に職場まで駆けつける可能性は低いといえます。
夜勤がない
多くの訪問看護ステーションは日中訪問中心の職場であるため、夜勤なしでも働けます。夜勤なしの職場で働くことの代表的なメリットは、下記の通りです。
- 規則正しい生活リズムを維持しやすい
- 育児と仕事を両立しやすい
- 帰宅後の時間を有効に活用しやすい
夜勤なしの職場では帰宅後に家事の時間を確保し、育児と仕事の両立を図れます。帰宅後の時間を自身のために活用すれば、専門資格の取得に向けた準備を進めることも可能です。
なお、日中訪問中心の職場であっても、月に数日、平日夜間のオンコール当番は発生します。家庭の都合で夜勤をまったくできない方は、「オンコールなし」「夜勤なし」の条件で訪問看護の求人を検索しましょう。
高収入を期待できる
訪問看護は施設介護、訪問介護に関わる仕事のなかで、高収入を期待できる仕事です。施設介護や訪問介護に関わる職場ごとの常勤看護師の給料水準は、下記の通りです。
訪問看護 | 440,368円 |
---|---|
介護老人福祉施設 | 422,652円 |
介護老人保健施設 | 448,962円 |
介護療養型医療施設 | 437,297円 |
訪問入浴介護 | 373,434円 |
訪問リハビリテーション | 437,296円 |
通所介護施設 | 354,319円 |
介護老人保健施設とは、要介護1以上の高齢者が病院から退院した後、在宅復帰を目指す際に利用する施設です。介護老人保健施設と比較して介護度が低い利用者さんを担当することが多く、夜勤なしでも働ける訪問看護は、身体的な負担を軽減しつつ高収入を得たい看護師に向いています。
まとめ
訪問看護は業務に関わる身体的な負担・人間関係や精神的な負担などを理由に、「きつい」といわれることがあります。ただし、訪問看護の仕事のきつさは、職場の選び方を工夫したり適切に対処したりすると、軽減を図ることが可能です。
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※当記事は2022年7月時点の情報をもとに作成しています