• 2022年8月3日
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看護師が糖尿病看護に携わる際に押さえるべき項目|おすすめの資格も

 

糖尿病をはじめとする生活習慣病は、社会・経済・文化の発展に伴うライフスタイルの変化によって増加する病気です。糖尿病患者さんと予備軍の人数は2016年時点で推計1,000万人を突破し、糖尿病看護に携わる看護師の必要性が高まっています。
(出典:厚生労働省「平成28年「国民健康・栄養調査」の結果」

糖尿病看護に携わる看護師は専門技能が要求されるケースも多く、基礎・応用知識を自主的に学習する努力が不可欠です。当記事では、現在看護師として働いている方、これから看護師を目指す方に向けて、糖尿病看護の概要を詳しく紹介します。

糖尿病とは?

糖尿病とは、インスリンの不足や作用低下が原因で、慢性的に血糖濃度が上昇する病気です。糖尿病が進行すると糖が尿にあふれ出して甘い匂いがすることから、「糖尿病」と呼ばれます。

インスリンとは、膵臓のβ細胞で作られるホルモンです。インスリンは血糖を低下させる働きを担っており、不足したり作用低下した場合はさまざまなトラブルが起こります。

令和元年に実施された厚生労働省の調査によると、男性の19.7%・女性の10.8%は糖尿病の疑いがある方です。男性・女性ともに年齢が上がるほど、糖尿病リスクが高まります。
(出典:厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査結果の概要」

糖尿病の種類と原因

糖尿病は1型糖尿病・2型糖尿病のいずれかに分類されます。1型糖尿病・2型糖尿病の症状・原因・特徴は下記の通りです。

  1型糖尿病 2型糖尿病
症状 血糖濃度が上昇する
原因 自己免疫疾患などによりβ細胞が破壊されて、インスリンの分泌量が不足すること 生活習慣の影響や遺伝的な影響によりインスリンの分泌量が不足したり、作用が低下したりすること
特徴
  • 若年層に起こりやすい
  • 急激に症状が現れて、糖尿病と診断されることも多い
  • 体型に関係なく発症する
  • 中高年以上に起こりやすい
  • 症状がすぐに現れないことも多く、知らないうちに進行しやすい
  • 肥満の患者さんが多い

(出典:国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター「糖尿病とは」

1型糖尿病・2型糖尿病のほかには、妊娠中に発見される「妊娠糖尿病」などがあります。糖尿病治療を進める際は種類ごとの病態をふまえて、適切な対処を決めることが大切です。

なお、多くの場合で「糖尿病」は2型糖尿病を意味します。当記事における「糖尿病」も、「2型糖尿病」を意味していると考えてください。

糖尿病の患者さんに見られる症状

糖尿病の患者さんが自身の症状に気付いたときには、すでに病状が進行しているケースも少なくありません。下記は、糖尿病の患者さんに見られる主な症状です。

  • 異常に喉が渇く
  • よく水を飲む
  • トイレに行く頻度が多い
  • 全身の倦怠感が常にある
  • 体重が減少する
  • 異常な空腹感がある

糖尿病が進行している場合には上記のほか、手のしびれ・皮膚のかゆみ・目のかすみなどが見られることもあります。小さな傷が治りにくかったり、化膿しやすかったりすることも、糖尿病の患者さんに見られる症状の1つです。

糖尿病の合併症

糖尿病の合併症には、急性合併症と慢性合併症の2種類があります。それぞれの詳細は以下の通りです。

・急性合併症

急性合併症とは、インスリンの作用低下が原因で急激に起こる合併症です。たとえば、浸透圧高血糖状態や糖尿病性ケトアシドーシスが急性合併症にあたります。

浸透圧高血糖状態とは、極度な血糖濃度の上昇と脱水によって意識障害を引き起こす合併症です。糖尿病性ケトアシドーシスとは、血糖の代わりに脂肪がエネルギー源として使用され、血液中にケトン体が増加する合併症にあたります。

・慢性合併症

慢性合併症とは、血糖濃度の上昇した状態が長期間継続することで起こる合併症です。慢性合併症の代表例は下記の通りです。

  • 糖尿病性神経障害
  • 糖尿病性網膜症
  • 糖尿病性腎症
  • 動脈硬化(脳卒中、心臓病)

糖尿病性神経障害とは、手足の神経に異常が生じて、痛みやしびれなどが起こる合併症です。糖尿病性網膜症とは網膜にある細い血管が徐々に傷つけられて、目のかすみなどが起こる合併症にあたります。糖尿病性網膜症が進行すると急激な視力低下や網膜剥離を起こす可能性があるため、定期的に眼底検査を実施して早期に発見することが必要です。

糖尿病性腎症は腎臓にある細い血管が徐々に傷つけられ、機能低下を起こす合併症にあたります。糖尿病性腎症が進行すると、透析療法や移植を検討しなければならないケースもあることから、早期発見に努めましょう。

動脈硬化には糖尿病のほか、高血圧・脂質異常症・肥満などが関係します。糖尿病にほかの因子が加わると動脈硬化のリスクが高まるため、血圧やコレステロールなどの管理が欠かせません。
(出典:糖尿病合併症について|一般社団法人日本糖尿病学会)

看護師が糖尿病看護に携わるうえで押さえるべき項目4つ!

看護師が糖尿病看護に携わるうえで押さえるべき項目4つ!

糖尿病治療の目標は、健康な方と変わらない日常生活の実現・寿命の確保を図ることです。治療の目標を達成するためには患者さんに寄り添い、糖尿病看護を支える看護師の尽力が欠かせません。

以下では、入院病棟・外来などで糖尿病看護に携わる看護師が押さえるべき基礎知識を紹介します。

基本の観察項目

糖尿病看護に携わる看護師は血糖コントロール指標の推移・足の状態などを観察し、よりよい治療を支援します。

・血糖コントロール指標の推移

糖尿病の重症度を判断するために血糖値・HbA1cを測定し、数値の推移を観察します。HbA1cとは、血液中の糖化ヘモグロビン量を把握する数値です。検査前1〜2か月の血糖濃度が高ければ、HbA1cの値は上昇します。

・足の状態

足の状態を観察し、皮膚や爪に異常がないか確認します。下記の症状が見られる場合は「糖尿病足病変」の疑いがあるため、早急な対処が必要です。

  • 傷、水泡、潰瘍
  • かかとのひび割れ
  • 皮膚の乾燥、変色
  • 爪の変形
  • 爪周囲の炎症 など

また、糖尿病看護に携わる看護師は患者さんの様子を随時観察し、目立った症状が出ていないか確認する必要があります。糖尿病によって起こる症状は患者さんごとに異なるため、行動や言動をよく観察し、よりよい治療につながるヒントを探りましょう。

すでに治療を開始している患者さんに対しては、「指導内容を適切に実践できているか」の観察も必要です。たとえば、食事指導を行った患者さんに対しては、1日あたりの摂取エネルギー量や朝食・昼食・夕食の内容を観察します。運動指導を行った患者さんに対しては、運動頻度・時間・方法の観察が必要です。
(出典:糖尿病合併症について|一般社団法人日本糖尿病学会
糖尿病患者さん 足チェックシート)

糖尿病の治療方法

糖尿病の治療は、主に食事療法・運動療法・薬物療法を組み合わせて行います。各治療法の概要は以下の通りです。

・食事療法

食事療法とは、一人ひとりの身体活動量や身長・体重に応じて適正なエネルギー量を決定し、栄養バランスの取れた食事を規則正しく取るように指導することです。食事療法は糖尿病治療を進める患者さんにとって必須のケアです。

食事療法をスムーズに進めるためには、患者さんに治療の必要性を理解してもらう必要があります。糖尿病看護に携わる看護師は医師や管理栄養士とも連携し、患者さんの理解を促す支援が必要です。

・運動療法

運動療法とは、有酸素運動・レジスタンス運動による血糖コントロールを図る治療法です。レジスタンス運動とは腕立て伏せやスクワットなど、筋肉に繰り返し負荷をかけるエクササイズのことです。

運動療法における有酸素運動の頻度は、極力毎日・少なくとも週3〜5回が目安となります。運動時間は1回あたり20〜60分で、1週間の合計を150分以上に調整することが推奨されます。

有酸素運動と合わせて行うレジスタンス運動は、週2〜3回が目安です。ただし、虚血性心疾患などの合併症患者にはレジスタンス運動が推奨されないことを考慮しましょう。
(出典:厚生労働省「糖尿病を改善するための運動」

・薬物療法

薬物療法とは、経口血糖降下薬・インスリン注射・GLP-1受容体作動薬などを使用する治療です。薬物療法は通常、食事療法や運動療法で十分な血糖コントロールを行えない場合に選択されます。

経口血糖降下薬とは、インスリンの分泌促進や、作用低下を改善するための薬です。経口血糖降下薬にはさまざまな種類があり、患者さんに合わせて1〜2剤以上を使用します。GLP-1受容体作動薬とは、インスリンの分泌を促進してグルカゴン(血糖を上昇するホルモン)分泌を抑制し、血糖コントロールを図る注射薬です。

糖尿病の指導

糖尿病治療を効果的に進めるためには、食事療法・運動療法・薬物療法を中心とした患者さんのセルフケアが必要です。糖尿病看護に携わる看護師は患者さんが適切にセルフケアできる状況を生み出すために、必要と考えられる指導を行います。

糖尿病看護の指導内容は、患者さんの理解度や治療の進行状況によってさまざまです。たとえば、知識不足が原因で十分にセルフケアできない患者さんに対しては、疾病の病態・合併症・必要な治療などを指導します。薬物療法を開始する段階の患者さんに対しては、薬剤効果などを解説する「服薬指導」が必要となるでしょう。

糖尿病の療養生活は長期にわたることも多く、安心して治療を続けるためには看護師の適切な働きかけが重要です。下記は、糖尿病看護の指導を行う際に看護師が意識すべきポイントです。

  • 患者さんの気持ちに寄り添い、信頼関係を構築する
  • 患者さんに合わせて、指導内容を調整する

高齢者のなかには認知能力が低下しており、糖尿病に関する複雑な説明の理解が難しく感じられる方もいます。糖尿病治療を効果的に進めるためには、あえて最低限の内容のみを指導する工夫も必要です。

糖尿病看護認定看護師とは?

糖尿病看護認定看護師とは?

糖尿病看護のエキスパートとして、糖尿病看護認定看護師という資格があります。糖尿病看護認定看護師は、高度専門化しつつある医療の現場に対応できる人材を育成する目的から、日本看護協会が運営する「認定看護師資格」の1つです。

糖尿病認定看護師になるためには、看護師免許取得後5年以上の実務経験(うち、3年以上は糖尿病看護の実務経験が必要)を経て、所定の教育機関で学習する必要があります。教育機関の修了後に認定審査を受けて合格すると、糖尿病認定看護師を取得できます。
(出典:日本看護協会「専門看護師・認定看護師・認定看護管理者」

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糖尿病看護認定看護師の3つの役割

糖尿病看護認定看護師は、患者さんやご家族によりよい看護を提供する目的で糖尿病看護の専門性を発揮し、看護の質向上に努めています。医療現場における糖尿病看護認定看護師の役割は、以下の3つです。

・フットケア

糖尿病看護認定看護師は糖尿病足病変について患者さんに説明し、セルフケアを支援します。セルフケアの実践状況を定期的にチェックし、糖尿病足病変の予防に努めることも求められます。

・血糖パターンマネジメント

血糖パターンマネジメントとは、患者さんが自己測定した血糖コントロール指標の数値を論理的・系統的に分析し、治療に反映させることです。患者さんの心理状態や仕事の状況などもふまえたうえで血糖パターンを把握し、効果的な治療につなげます。

・糖尿病ケアシステム立案

糖尿病の診断、治療、予防をスムーズに進めるためには、かかりつけ病院・専門病院・薬局・自治体などによる地域連携が重要です。糖尿病看護認定看護師には地域の糖尿病ケアシステム構築に貢献し、患者さんの生活の質向上を助けることが求められます。

また、認知症看護認定看護師は病院内において、糖尿病に関するスタッフ教育業務を担当することもある立場です。ほかの医療スタッフに専門知識や技能を共有することにより、病院として質の高いサービスが提供できる体制を整えます。

糖尿病看護に携わりたい場合は「糖尿病療養指導士」の取得もおすすめ!

糖尿病看護に携わりたい場合は「糖尿病療養指導士」の取得もおすすめ!

糖尿病看護に関する専門知識を習得するためには、糖尿病療養指導士を取得する方法もあります。糖尿病療養指導士とは、療養生活において重要な意味を持つセルフケアについて、患者さんに指導する看護師です。糖尿病療養指導士を取得すると、看護師は療養指導の専門家であることを証明できます。

糖尿病療養指導士を取得するためには、日本糖尿病療養指導士認定試験への合格が必要です。下記は、日本糖尿病療養指導士認定試験を受験するための主な条件です。

  • 看護師免許、管理栄養士免許、薬剤師免許、臨床検査技師免許、理学療法士免許のいずれかを取得している方
  • 所定の条件を満たす病院などで過去10年以内に2年以上かつ通算1,000時間以上、糖尿病患者さんの療養指導を担当した方

(出典:一般社団法人日本糖尿病療養指導士認定機構「CDEJ(日本糖尿病療養指導士)とは」
(出典:一般社団法人日本糖尿病療養指導士認定機構「受験資格」

糖尿病療養指導士を取得するまでの流れ

糖尿病療養指導士を取得したい場合は、日本糖尿病療養指導士認定機構の指定する受験者用講習会を受講し、認定試験に合格する必要があります。受験者用講習会の受講から糖尿病療養指導士取得までの流れは、以下の通りです。

1 受験者用講習会を受講する
日本糖尿病療養指導士認定試験の受験希望者を対象とした、eラーニング形式の講習会を受講します。

2 認定試験に申込む
講習会の受講後に郵送される認定試験の受験申請書類を期間内に提出し、認定試験に申込みます。受験申請する際に提出する「糖尿病療養指導自験例の記録」の評価も合否判定を左右します。

3 認定試験を受験する
毎年3月上旬に開催される日本糖尿病療養指導士認定試験を受験します。

4 試験結果が郵送される
試験結果は郵送で受験者全員に送付されます。試験に合格した方は、自動的に糖尿病療養指導士として認定される(資格を取得できる)仕組みです。

糖尿病療養指導士の資格を維持するためには、5年ごとの更新が必要です。認定期間中に所定の研修単位を取得し、糖尿病患者さんに対する療養指導を実施したうえで更新手続きを行いましょう。
(出典:一般社団法人日本糖尿病療養指導士認定機構「CDEJになるには」

まとめ

糖尿病とは、遺伝的な要因・生活習慣の問題などが原因でインスリンの不足や作用低下が起こり、血糖濃度が上昇する病気です。糖尿病看護に携わる看護師は患者さんの問題を明確化したうえで看護計画を記載し、治療中の観察・指導を担当します。患者さんへ適切に働きかけ、意欲的なセルフケアに取り組んでもらうことも重要な役割です。

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※当記事は2022年7月時点の情報をもとに作成しています

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