看護実践能力を高めるためには、リフレクションが効果的です。リフレクションは看護教育だけでなく、マネジメントや臨床現場における継続教育にも役立ちます。看護学生、新人看護師、中堅看護師、看護管理者など、各段階でリフレクション学習を取り入れることで、経験学習ができる看護師へと成長できるでしょう。
当記事では、リフレクションの概要や活用場面、リフレクションが重要視される理由、看護研修リフレクションの実践方法を詳しく解説します。加えて、ファシリテーターがフィードバックを行う際の注意点やリフレクション研修を効果的に行うためのポイント、具体的な手法も紹介するため、看護におけるリフレクション全般の知識を得たい看護師さんはぜひご覧ください。
リフレクションとは?
リフレクションとは、自分の経験を振り返り、行動や思考を見つめ直して改善へつなげていくプロセスのことです。リフレクション(reflection)を直訳すると、「反射、反響、反映、投影、影響、内省」といった意味になります。
経験学習としてのリフレクションの概念は、アメリカの教育哲学者ジョン・デューイと、ドナルド・ショーンの理論を基盤として形成されました。現在では、さまざまな業界の人材育成の手段としてリフレクションが用いられています。
リフレクションと反省の違い
リフレクションの目的は、自分の経験を客観的に振り返り、新たな気づきを得て改善へつなげることです。自分の行動や発言を冷静に見つめ直し、理想とのギャップをどのように埋めるべきか、次回にどう活かすかなどを検討します。
反省とは、何か問題が生じたときに、同じミスを避けるための対策を考える際に用いられる言葉です。リフレクションと比較すると、反省は主観的であり、感情が介入しやすい傾向にあります。
たとえば、情報共有に問題があった場合、反省では変えることのできない過去に対して責任の所在が追求されます。リフレクションでは、伝達の正確性を保つためにICTの導入などが検討されるでしょう。リフレクションは反省よりも、建設的で前向きなアクションであるといえます。
リフレクションとフィードバックの違い
フィードバック(feedback)を直訳すると、「反応、意見」といった意味になります。フィードバックの目的は、自分の行動に対して、他者から意見をもらうことです。
リフレクションでは、自分もしくはグループでの経験を当人たちが振り返るため、第三者からの意見を必要としません。リフレクションとフィードバックでは、評価する相手が異なります。
リフレクションのフレームワーク
リフレクションを効果的に実践するためには、フレームワークを活用します。下記に、リフレクションを行う際の代表的な3つの手法を解説します。
KPT Keep(できていることを続ける) Problem(問題点を見つける) Try(改善に挑戦する) |
改善に向けた取り組みを、効率よく実施する際に効果的な手法。よい点と問題点を明確にし、改善策の計画を練る。失敗の活かし方を具体的に考えられることがメリット。 |
---|---|
KDA Keep(継続すべきこと) Discard(今後は破棄すること) Add(追加して行うこと) |
継続すべきことと、やめるべきことを明確にし、新たな挑戦を検討する手法。必要なものを整理することで、キャパオーバーによる非効率化を防ぎ、理想像に近づくための選択ができる。個人での振り返りにおすすめ。 |
YWT Y:やったこと W:わかったこと T:次にやること |
経験から得た気づきを整理し、次の計画を立てる手法。日本で開発されたフレームワークで、個人・チーム問わず活用できる。シンプルな手法で、スピード感のあるリフレクションができることが特徴。 |
実施する目的や状況に応じてふさわしいフレームワークを選ぶことで、よりリフレクションの効果が感じられるでしょう。
業務・院内研修におけるリフレクションの活用場面

リフレクションは、看護業務や院内研修において取り入れられますが、具体的にどのような場面で活用すべきか分からない看護師さんも多くいるでしょう。
下記は、業務・院内研修におけるリフレクションの主な活用場面です。
- 患者さんの質問に対して、どのように答えたらよいか分からなかったとき
- 患者さんのとった行動に理解ができなかったとき
- 患者さんとの距離が近づいた、または遠のいたことの要因が気になったとき
- 患者さんとの会話中、明らかに表情が曇り、違和感を覚えたとき
- 新人看護師に指導するなかで、新たな課題に直面したとき
- 自身がチーム内での新たな役割を果たしたとき
具体例のように、業務中は「気がかりな場面」でリフレクションを実施することが基本です。気がかりな場面においてリフレクションを活用すれば、新たな学びを得られるだけでなく、次回にどのように活かすかの発見にもつながります。
また、院内研修においては、「新たな経験によって不安や戸惑いが生じた際」にリフレクションが取り入れられます。新たな経験を積むタイミングでリフレクションを活用することで、どのような点に不安を抱えているかを振り返り、上手に学びへと変えられます。
看護現場でリフレクションが重要視される理由

看護では、専門的な知識・技術をただ実施するのではなく、患者さんや状況に応じた判断が求められます。自分の経験や考察が必要となる看護現場では、思考や価値観を整理し、看護観の形成及び発展のため、冷静に自分自身を見つめ直すリフレクションが重要です。
ここでは、看護現場においてリフレクションの重要性が高いとされている3つの理由を解説します。
業務の効率化や円滑化につながる
リフレクションによって、自分もしくはチームの課題が明らかとなり、適切な対策を取れるため業務効率化が期待できます。多忙で瞬間的な判断が求められる看護現場では、自分の言動が適切であったかがうやむやになることも少なくありません。リフレクションを行えば、自分の言動について振り返りができ、看護ケアの質をより向上させられます。
また、看護体制やチームの状況をフラットな視点で見つめ直せるため、看護師間のコミュニケーションがスムーズになり、連携強化にもつながるでしょう。
スタッフの自立心を培える
自分が行った言動を自分自身で評価するリフレクションは、看護師の自立心を引き出すために役立ちます。ミーティングやカンファレンスなどで指摘がなされても、看護師自身が正しく受け止めて次に活かせるかという点については、疑問が残る部分もあるでしょう。
しかし、リフレクションでは自分で改善策を導き出すため、自身が納得したうえで自主的に次のステップへ進めます。一人ひとりの看護師が主体性を持つためには、適切なリフレクションが欠かせません。
リーダーシップを持つ人材を育成できる
リフレクションによる自己アセスメントが進むと、客観的思考とマネジメント能力、目標決定能力といったリーダーシップに欠かせない能力が養われます。リフレクションを行う看護師は高い実践能力を備えているので、ほかの看護師や患者さんからの信頼も厚く、リーダーとしてふさわしい人材に成長します。
また、人材育成を行ううえでも、リフレクションが大いに役立ちます。看護部長や看護師長が率先してリフレクションを行うことで、看護師一人ひとりに対する理解が深まり、より強い組織へと成長できるでしょう。
リフレクションで個々の看護職が得られるメリット

リフレクションを通じて看護師は多くのことを学び、成長できます。
実際にリフレクションを導入したことによる、学生の関心事象の変化を調べた論文では、下記のような示唆がされています。
- リフレクションの導入後には、学生の関心が看護の現象へと向かうことを促進する効果があることが示唆された
- 関心を自己にとどめることなく、患者を理解しようとする姿勢や関心へとつながったと考えられる
(出典:J-STAGE「看護学実習におけるリフレクション導入の効果」)
ここでは、リフレクションで得られるメリットについて5つ紹介します。
自分の看護の内容を見直して成長できる
「看護実践のリフレクションに関する国内文献の検討」によれば、リフレクションによって生じた看護職者自身の内面的変化として、「自己成長・自己実現した」「看護実践への自信を深める」「仕事のやりがいやケアの糧につながる」といった効果を期待できる文献が複数ある、と記載されています。
リフレクションによって、自身の看護内容を見直せるだけでなく、自分の経験に対して自分がひとりよがりな解釈をしていないか、患者さんと向き合えているかどうか、といった点を実践者自身が再確認できるでしょう。
また、看護実践を振り返り、熟考するリフレクションを通じて、看護実践の意味付けが生じます。その結果、看護への関心・意欲の高まりや、自信が湧くなど、看護職者自身の内面的変化が生じることが分かっています。
(出典:千葉大学「看護実践のリフレクションに関する国内文献の検討」)
よいところを褒められる機会になりモチベーションが上がる
自分の行動について、ほかの看護師に褒められる機会を持てるのもリフレクションのメリットです。自分の行動が誰かのためになっていることを実感でき、モチベーションが上がりやすくなるでしょう。
たとえば、「リフレクションによる中堅看護師の自律の芽生えに関する実践的検討」という論文では、下記のように示されています。
- 中堅看護師は、日頃行っている看護実践について、自身の看護実践の成果を認めることが少ない傾向にある
- ほかのメンバーと会話を通じて、リフレクションを深めていくうちに、「自分が提供した看護の意味や価値にも気付くことができた」「先輩看護師としての自覚や自信を改めて感じた・看護に対して前向きになることができた」という声が上がった
(出典:J-STAGE「リフレクションによる中堅看護師の自律の芽生えに関する実践的検討」)
メタ認知を身に付けられる
リフレクションによって、「メタ認知」の能力を身に付けられます。メタ認知とは、自分自身の行動を客観的に捉えること・把握することです。メタ認知を身に付けることで、患者さんの優先順位付けや診療順の調整、手順の管理といった業務を円滑に行えるようになるでしょう。
たとえば「看護におけるリフレクションとメタ認知の考察」という論文では、下記のように調査結果が示されています。
- リフレクションの目的の1つは、メタ認知を高め個人の実践への理解を向上させること
- 看護師が常に実践している患者さんへの初期評価・看護診断・看護計画・看護介入・看護成果・再評価は、高次レベルにおいて認知されている。つまり、リフレクションという行動を支えているものが、メタ認知となる
- メタ認知スキルが推進されることにより、リフレクションの力も推進される相互作用が、多くの文献で示唆されている
(出典:聖徳大学「看護におけるリフレクションとメタ認知の考察」)
患者さんとのコミュニケーション能力が向上する
リフレクションによって、自分が患者さんとどのように向き合っているかを見直せるため、コミュニケーション能力が向上しやすくなります。
患者さんとの距離感に悩む看護師・看護学生は少なくないでしょう。認知症や精神疾患のために、意思疎通がしにくい場面もあります。リフレクションを通じて「患者さんよりも自分の思いや立場を優先している自分」「患者さんとともに喜びを感じられる自分」といった気づきを得られるので、患者さんとのコミュニケーション能力向上にも期待できます。
(出典:J-STAGE「臨地実習のリフレクションから導かれた看護学生の 気づきと批判的思考態度に関する研究」)
仕事の辛さや悩みを共有して前向きになれる
リフレクションの場では自分を振り返り、悩んでいることや困っていることを周囲に伝えられます。自分だけで辛さや悩みを抱え込まずに共有でき、前向きに看護活動ができるようになるでしょう。
たとえば、「リフレクションを含めた倫理研修が精神科看護師の道徳的感受性、倫理的行動、ストレスに及ぼす効果についてのパイロットスタディ」という論文では、下記のように示されています。
- リフレクションを含めた倫理研修によって、道徳的感受性のなかの道徳的強さ(患者の立場から、行為を正当化できる勇気や物事に立ち向かう能力)が高まった
- リフレクションを用いたことでほかのスタッフへの感情表出や、困難なことの共有ができ、受容を得られた
- 結果的に、自身の感情を肯定的に受け止めることができ、それが自己効力感を高め、ストレスも低下したと考えられる
(出典:J-STAGE「リフレクションを含めた倫理研修が精神科看護師の道徳的感受性、倫理的行動、ストレスに及ぼす効果についてのパイロットスタディ」)
看護研修におけるリフレクションの実践方法

看護研修では、複数人によるグループでのリフレクションを実施します。看護リフレクション研修の大まかな流れは、下記の通りです。
(1 )役割の確認・環境整備
(2)アイスブレイク
(3)リフレクションの実施(グループワーク)
(4)感想の発表
看護研修のリフレクションでは、各項目で時間配分を決めておき、限られた時間内で最後まで円滑に進むようにしてください。リフレクション研修が長時間にわたる場合は、適宜休憩時間を設けるなどして、看護師が集中できる環境を整えるとよいでしょう。
リフレクションの話題では、いつもとは異なる行動や困った場面など、心に引っかかった出来事を取り上げます。下記は、リフレクションの話題として適した状況例です。
- 患者さんが無断で外出していたので、声をかけて部屋に戻した
- 自分の説明によって、患者さんを不快にさせた
- 患者さんが不安になっている状況で、声をかけられなかった
- いつも無口な患者さんが、笑顔であいさつをしてくれるようになった
ここでは、看護研修におけるリフレクションの実践方法や考え方について、ステップごとに解説します。
研修の準備
研修を始める前に、各参加者にリフレクションを行う場面について、文章にまとめてもらいます。5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)を意識し、具体的に言語化してもらいましょう。事前に経験談を集め、グループワークで使用する資料を作成しておくこともポイントです。
また、机を円形に並べるなど、参加者同士が顔を見ながら話しやすい状況を作りましょう。必要に応じて、飲み物の準備などもしておきます。
研修冒頭のアイスブレイク
グループワークに入る前に、参加者が話しやすい雰囲気を作るため、アイスブレイクの時間を設けましょう。アイスブレイクによって参加者の緊張がやわらげば、グループワーク中の積極的な発言が期待できます。
アイスブレイクの手段としては、自己紹介やゲーム、テーマに沿った近況報告などがあります。自己紹介だけだと単調になりやすいため、簡単なお題と組み合わせる、質問を問いかけるといった対話方法を取るとよいでしょう。アイスブレイクでは、看護師全員が参加できる内容を選び、長引かないよう5~10分程度と時間を決めて取り組むこともポイントです。
グループワーク
参加者の経験が記載された資料をもとに、グループワークを始めます。各参加者は自分の経験について語り、そのときの感情や、自分がそう思った理由などについて語ります。患者さんの行動の背景や、周囲の状況について述べても構いません。
また、よかった点や改善したいと思う点についても考察します。誰かが話している間はほかの参加者は傾聴し、参加者間での質問や討論は避けましょう。1人あたりの持ち時間を決めて、参加者全員が公平に話せるようにしてください。
感想の発表
参加者全員が経験について語り終えたら、感想を発表します。リフレクションを行って感じたことや、ほかの看護師の話を聞いて実感したことについて語り合いましょう。
グループでのリフレクションは、1人で行うものとは全く異なる体験です。リフレクションへの理解が深まり、参加者同士の交流のきっかけにもなります。お互いの看護観を共有するためにも、自分の思ったことを率直に発言してもらいましょう。
■関連記事
リフレクションにおけるファシリテーターの役割

リフレクションを円滑に進めるためには、全体を取りまとめる「ファシリテーター」の配置が基本となります。ファシリテーターとは進行役のことで、参加者の発言や気づきを支援するためのサポートを行う存在です。
下記に、リフレクションにおけるファシリテーターの役割をまとめます。
- 参加者が話しやすい雰囲気を作る
- 参加者の感情や発言を掘り下げ、気づきを促す
- 設定時間に沿ってリフレクションを進行させる
ファシリテーターには、看護リフレクションの意図と目的を理解しており、リフレクションについて十分な経験を持つ方がふさわしいでしょう。
ファシリテーターがフィードバックを行う際の注意点

ファシリテーターは、リフレクション研修を行ううえで重要な役割を果たします。看護リフレクションを効果的に実施できるかについては、ファシリテーターの能力が大きく関わるといっても過言ではありません。特に、ファシリテーターがリフレクション研修の参加者にフィードバックを行う際は、いくつかの注意点をおさえておく必要があります。
ここからは、ファシリテーターがフィードバックを行う際の注意点を8つ説明します。
時間を守る
時間厳守は、リフレクション研修のファシリテーターだけでなく、社会人として基本のルールです。参加者がリフレクションを公平に行えるようにするためにも、タイマーなどを用いてしっかりと時間を守るようにしましょう。
時間をきちんと設定し、かつ守るという姿勢は、新人看護師にとってもよい影響を与えます。参加者がリフレクションを公平に行えるようタイマーを活用してきちんと時間を守るという旨は、あらかじめ伝えておくとよいでしょう。
人格ではなく行動をフィードバックする
リフレクションは、参加者本人の性格や人格を否定するものではなく、誰かに責任を問うものでもありません。そのため、人格ではなく行動のフィードバックを行うことにフォーカスしましょう。
ファシリテーターはあくまでもサポーターであり、指導者ではありません。人格のフィードバックは、参加者にとって批判や忠告といった印象を強く受けることとなります。起きた問題を次回に活かすためには、「誰が問題だったか」ではなく「何をどうすべきか」といった行動の視点を持つようにしましょう。
行動の変化などの事実に注目する
看護リフレクションを行う際は、参加者や話に登場する人物ではなく、行動の変化や起こった事実に注目しましょう。
たとえば、「患者さんが急に怒りだしたので、怖くなって退出した」という事実がある場合、事柄に注目すると「驚いてとっさの対応をとった」となります。しかし、人に注目すると「患者さんの気持ちに寄り添わなかったことは、看護師として不適切だ」となり、参加者への批判になりかねません。批判は人間関係の悪化や不必要な自己否定につながるため、リフレクションによる効果が薄まります。
リフレクションを行う際は事実のみを解釈し、物事の良し悪しを判断することは避けましょう。
問題点を指摘しない
リフレクション研修では「人ではなく事実のみに注目するべき」とされているように、誰に問題があったかは重要ではありません。そのため、問題点や弱点を指摘することは避けましょう。
前向きなフィードバックは、自分の強みに気付くヒントとなるだけでなく、弱みを改善しようと考えられる心の余裕も生まれます。ここで問題点を指摘すると、参加者の自尊心を傷つけ、モチベーションを大きく低下させるおそれもあります。「問題点を指摘しないポジティブフィードバック」を重視して、本人の気づきを促すことがポイントです。
アドバイスは避ける
ファシリテーターは、新人看護師たちにフィードバックを行うなかで、自身の得た経験から何らかの指導やアドバイスをしたくなるシーンも多々あるでしょう。しかし、リフレクション研修は参加者自身による気づきが大切です。
そのため、アドバイスは避け、「人それぞれ答えは異なる」「その人が感じ、考えた結果が答えとなる」など、相手を信頼する姿勢でフィードバックを行うようにしましょう。
根底にある意思を掘り下げる
フィードバックの際は、事実へ注目するだけでなく感情も含めて聞き、根底にある意思を掘り下げることも重要です。根底にある意思を掘り下げることで、参加者が自分でも理解できていなかった意思や価値観を知れるきっかけにもなります。結果として、より効果的なフィードバックを実施できるようになるでしょう。
不明点は質問する
参加者の発言に対して不明点が生じた際は、しっかり質問することが大切です。理解できないまま話を進めるということは不誠実な対応であり、相手に不信感を与えかねません。
また、不明点を質問する際は言葉選びにも注意が必要です。「誰でも分かるように説明して」といった聞き方は相手に威圧感を与えかねないため、どこがどう分からなかったのか、「自分はこのように解釈しているが、この解釈で問題はないか」など具体的に伝えるようにしましょう。
参加者を思いやる
リフレクションは、参加者のさまざまな感情が呼び起こされるものです。人によっては大きな精神的負担を感じる可能性もあるため、参加者の態度や表情の変化を観察しながら進めるようにしましょう。
ネガティブな思考への陥りが見られる参加者には声をかけるなど、思いやりを持った行動を取ることが大切です。
リフレクション研修を効果的に行うためのポイント

リフレクション研修の効果を高めるためには、看護師一人ひとりの意識や意欲を大切にする必要があります。限られた時間を有意義に使うためにも、リフレクションの効果を最大限に引き出しましょう。
ここでは、看護におけるリフレクション研修のポイントを、4つ紹介します。
強制せず自発的な参加を促す
リフレクションでは、自分の看護経験や、偽りのない感情を他者に話すため、参加者が精神的負担を感じることもあります。また、日々の看護業務に問題がないと感じている場合は、リフレクションの意義が理解できず、貴重な時間を無駄にするでしょう。
リフレクションは継続して行うことも大切であり、一度研修に参加したからといって効果が得られるものではありません。また、不本意な参加では、リフレクションに対して悪い印象を抱くおそれもあります。したがって、リフレクション研修への参加は強制せず、看護師の自発的な参加を待つことが大切です。
失敗も成功もバランスよく振り返る
リフレクションでは、失敗だけに目を向けず、よかったことやできたことについても振り返ることが大切です。責任感が必要な看護業務では、できないことに意識が向きやすいため、落ち込む看護師さんも多いでしょう。しかし、「患者さんの本心を聞けた」「患者さんの要望にできる限り応えた」といった成功談も語るなかで、看護師としての自分の強みに気づけます。
リフレクションの最大の目的は、弱点を改善してさらなる強みへ昇華させ、自己成長へつなげることです。失敗と成功をバランスよく振り返ることで自己肯定感を維持し、実力を備えた魅力的な看護師を目指しましょう。
リフレクションの環境を整える
リフレクションにおいては、「参加者が何でも話しやすい雰囲気」を作ってあげることが大切です。参加者が話しやすい環境を作るためには、「テーブルやイスの配置をグループ間で少し離す」「まずは簡単な自己紹介から始める」など、場の雰囲気がやわらぐような工夫を取り入れましょう。
また、あらかじめ参加者に研修の目的や注意事項などのルールを伝え、何を話せばよいかを示しておくこともポイントです。
実施者がより知識を深める取り組みを行う
リフレクションは未だ広く浸透しておらず、実施している医療施設はごくわずかです。したがって、実施者に知識がないケースも少なくありません。リフレクションをより効果的なものにするためには、セミナー・グループワーク・研修への参加など、実施者が知識を深められるような取り組みを行うことも大切です。
セミナー・グループワーク・研修に参加することで、ほかの参加者との交流も図れて、より効率的に知識や実践スキルを得られるでしょう。
リフレクションに役立つプロセスレコード

プロセスレコードとは、看護師と患者さんとの会話内容や、患者さんとの出来事・反応・行動・思いなどを記録したものです。リフレクションを行う際には、日々プロセスレコードを記録しておくことで、振り返りがしやすくなります。
プロセスレコードの書き方
プロセスレコードの様式にはさまざまなものがありますが、以下のような項目に分けて書くと整理しやすいでしょう。
- 患者さんの情報
- 患者さんの言動や行動
- 自分(看護師)が感じたこと
- 自分(看護師)の言動や行動
- 分析・考察
プロセスレコードの記入例とリフレクションのやり方
プロセスレコードを使ってリフレクションする場合の例を、鹿児島大学医学部保健学科の論文をもとに紹介します。プロセスレコードの項目なども同論文に順じて記載しています。
【プロセスレコードの記入例】
場面の説明 | 訪問看護師が気管切開部からの吸引後、痰が多いときは電話をくださいと言われた場面 | ||
---|---|---|---|
問題提起 | 電動ベッドのリモコン操作や携帯電話をかけられるのに自分では痰吸引は行わないのかなと思った。 | ||
対象(A)の言動・状況 | 私(B)はどう感じ、どう考えたか | 私(B)はどう行動したか | 第三者としてAとBとの関わりを見つめ直した時、どんなことが分かるか |
1. 今困っていることは何ですか。 | |||
2. 今の時期は痰が多いこと。 | 3. 自分であるいはヘルパーでも援助してもらえば痰量が多い時期には楽になるのに。 | 4. 自分で吸引はされないのですか。 | タイムリーに吸引できたらよいと思ったことが、すぐに言葉に出てしまった。 |
5. 手が動かないからできないよと、すぐに否定されるが、表情は嫌な感じではない。 | 6. しまった、上肢は動くが指先でする細かい動作ができない、握力がないのだった。 | ||
7. キャップを外せないよね。外しやすいように大きくすればいいかもね。と冗談交じりで答えられる。 | Aさんが気分を害されなかったのに救われた。以前に痰吸引の話題が出たのかもしれない。 | ||
考察したこと | 患者は痰吸引をタイムリーにできないことに不安があるが、ヘルパーの援助をもらい自分で吸引をするよりも看護師にしてもらった方が安心すると感じている。 | ||
本看護過程全体を振り返って分かること | 看護師が訪問する時間は限られるし、痰量が多いときは頻回の吸引が必要となってくる。ヘルパーが1日4回訪問しているのであればヘルパーも痰吸引ができたら楽に過ごせるようになると考える。ヘルパー指導が課題になると思う。 |
この事例では、「対象の言動・状況をどう感じ、どう考えたのかがプロセスレコードのなかで抜け落ちていた。」という振り返りが行われています。結果的に「対象の言動を受けて考え行動するプロセスが苦手」という気づきを得られました。
プロセスレコードを使ったリフレクションによって、看護者としての自らの認識の偏向と課題について自覚しやすくなるでしょう。
リフレクションをより深めるための3つの手法

看護研修のリフレクションでは、学習モデルに沿って話を進めるケースが多く見られます。順序立てて経験を振り返ることは、物事を体系的に捉えて、客観性を持った思考を引き出すために効果的です。
ここでは、看護の現場や教育において、リフレクションをより深めるための手法を紹介します。
リフレクティブ・サイクル
リフレクティブ・サイクルは、1998年に教育学者ギブズによって提唱された学習モデルです。下記に、リフレクティブ・サイクルのモデルを示します。
(1)記述・描写 | 何が起こったのかという事実を客観的に示す |
---|---|
(2)感覚 | 自分は何を感じたのかを主観的に考える |
(3)推論 | 経験に対し、よかった点や悪かった点を振り返る |
(4)分析 | 記述・感覚・推論からなぜそうなったのか、事実の背景を分析する |
(5)評価 | 経験から得た学びや、今後の改善点について考える |
(6)行動計画 | 次に同じような状況に遭遇したとき、どのような行動を取るかを考える |
リフレクティブ・サイクルでは、段階を追って丁寧に振り返りができます。実際に看護研修のリフレクションで使用されることも多く、リフレクションが初めての方にも適切なモデルです。
ALACTモデル
ALACTモデルは、オランダの教育研究社コルトハーヘンによる学習モデルです。下記に、ALACTモデルの概要を示します。
第1局面:行為 | 起こった行動や発言の事実を表す |
---|---|
第2局面:行為の振り返り | 行為の背景にある感情や考えを具体化する |
第3局面:本質的な諸相への気づき | 感情の原因を掘り下げ、自分や相手について新たな気づきを得る |
第4局面:行為の選択肢の拡大 | 第1~3局面を踏まえて、新しい選択肢を考える |
第5局面:試み | 第4局面で考案した選択肢を実行に移す |
ALACTモデルの第2局面では、深い省察を行うために、自分と相手が「何をして」「何を思い」「何を感じ」「何をしたかったか」という質問を適宜用います。自分の思考の癖や価値観に気くために有効な学習モデルです。
デービッド・コルブの経験学習モデル
経験学習モデルとは、デービッド・コルブが提唱した学習モデルです。下記に、経験学習モデルの概要を示します。
(1)具体的経験 | 実践経験のなかでさまざまな経験を積む |
---|---|
(2)省察的観察(リフレクション) | 成功経験・失敗経験を振り返り、意味付けを行う |
(3)抽象的概念化 | 省察的観察を経て、事柄が起きた背景や解決策を整理し、独自の知見を表現する |
(4)能動的実践 | 抽象的概念化したスキームを実践し、再現性を検証する |
経験学習モデルでは、「経験・振り返り・学び・実践」の4つのサイクルを繰り返すというプロセスそのものが重要とされています。経験をし、振り返りながら学びを得るというプロセスは、看護リフレクションにおいて適切な学習モデルといえるでしょう。
まとめ
リフレクションとは、自分の経験を振り返り、新たな気づきを得て改善を促すプロセスです。看護研修におけるリフレクションでは、成功と失敗をバランスよく振り返り、学習モデルに沿って進めるなどすると、効果を高められます。
「マイナビ看護師」では、看護師のスキル・キャリアアップに役立つ情報を掲載しています。看護業界に精通したキャリアアドバイザーが転職活動もサポートするため、活躍の場を広げたい看護師さんは、ぜひ「マイナビ看護師」をご利用ください。
※当記事は2023年9月時点の情報をもとに作成しています
-
今話題のトラベルナース!短期間かつ高給与の求人が揃ってます!
-
転職先で給与アップしたい方へ★
年収500万円以上の高収入求人や応募のポイントをご紹介! -
人気の転職時期である4月に転職するメリットはたくさん!
-
働きながら綺麗になれる♪常に人気の美容クリニック求人をピックアップ!
-
企業でも看護師資格を活かして働けます!ワークライフバランス◎
-
シフト勤務の環境を変えたい方向けに、土日祝休みの求人をご紹介!
-
看護師さんの約半分は夜勤なしで勤務中!無理なく働ける夜勤なし(日勤のみ)求人をご紹介!