• 2022年5月18日
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がん看護とは? 看護師としての役割や魅力・関連資格

 

がん専門の診療科がある医療機関には、がん看護と呼ばれる看護業務があります。看護師として働くにあたって、がん看護とはどのような業務かを知りたい人は多いのではないでしょうか。

がんは多くの人がかかる病気であり、がんの治療・療養を行う医療現場において、看護師は重要な役割を担っています。

当記事では、がん看護とは何かから、がん看護に携わる看護師の役割や魅力・向いている人、緩和ケアの内容やがん看護の関係資格まで徹底解説します。

がん看護とは?

がん看護とは?

がん看護とは、がんと診断された患者さんに看護師として寄り添い、チーム医療で行われるがんの治療や療養などをサポートする看護業務です。

治療のサポートでは、医師が行う手術療法や薬物療法などの治療を補助します。患者さんの苦痛や不安を和らげる「緩和ケア」も、がん看護における重要な業務です。

がん看護に携わる看護師は、がん患者さんの家族とも関わりを持ち、がんの治療や療養について抱えやすい不安の解消にも努めます。

そもそも「がん」とは?

がんとは、人体にできた異常な細胞が無秩序に増殖して腫瘍化し、体の正常な機能を阻害する病気です。2020年時点で、日本には約100万人のがん罹患者がいると予測されています。
(出典:公益財団法人 がん研究振興財団「がんの統計2021」

患者さんががんの症状を疑って医療機関を受診した場合、下記の流れで診療が進みます。

(1)患者さんの受診

(2)がんの検査を実施

(3)検査結果・診断の説明

検査によりがんと診断された患者さんには、治療法の説明・選択を行ったうえで、がんの治療を行います。

がんの原因

がんの原因は、男性・女性でいくつかの違いがあります。

男性の場合、がんの原因となる要素は喫煙が29.7%と最も大きく、続く感染性要因が22.8%です。対して女性の場合は感染性要因の17.5%が最も大きく、次いで喫煙が5.0%となっていました。

科学的に明らかにされているがんの原因を7つ紹介します。

・喫煙

喫煙は、肺がんをはじめとしてさまざまながんの原因となることが分かっています。喫煙した本人がたばこの煙を吸い込む能動喫煙だけではなく、他者が副流煙を吸わされる受動喫煙も、がんのリスク要因です。

・飲酒

飲酒は、口腔や食道・肝臓、乳房などの部位において、がんの原因となります。主な理由は、飲酒が免疫機能の抑制や、エストロゲン代謝に影響を及ぼすためです。また、エタノールの代謝産物であるアセトアルデヒドは、人体への発がん性があるとされています。

・食物、栄養

牛・豚・羊といった哺乳動物の肉や加工肉は、大腸がんのリスクを上げるとされる食物です。塩蔵食品についても、高濃度の塩分や、亜硝酸・ニトロソ化合物といった発がん性のある物質を含む点により、胃がんのリスクを上げるとされています。

・体格

肥満・高身長・成人後の体重増加は、内臓系や乳房のがんになるリスクを上げます。痩せすぎについても、栄養不足や抗酸化物質の不足を引き起こすことから、がんのリスクを上げる体格といえます。

・感染症

感染体が作るがん原性タンパク質による作用や、感染部位に炎症を起こして細胞の壊死・再生を繰り返させる作用により、がんのリスクは上がります。がんのリスクを上げるウイルス・細菌は、ヘリコバクター・ピロリやB型・C型肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルスなどです。

・化学物質

さまざまな化学物質が、人体への発がん性を持っていることで知られています。化学物質の曝露や吸入経路となる皮膚・鼻腔・喉頭・肺、排泄経路である尿路などが、化学物質によるがんの影響が多い部位です。

・生殖要因とホルモン

エストロゲンやアンドロゲンは、乳房・子宮体部・卵巣・前立腺におけるがんの原因です。ホルモン補充療法やがんの治療に用いられるホルモン剤・抗ホルモン剤は、一部のがんのリスクを上げるものの、他部位におけるがんのリスクは下げるとされています。
(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「がんの発生要因」

がんの治療

がんの治療では「集学的治療」が用いられるケースがあります。集学的治療とは、がんへの高い治療効果を目的として、単独ではなく複数の治療法を組み合わせる治療のことです。

対して、単独の治療法には下記の6種類が存在します。

・手術

手術は、がん細胞が増殖した悪性腫瘍や臓器の悪くなった部位をメスで取り除く治療法です。がんの種類・進行度に応じて手術の方法を検討し、患者さんの同意を得たうえで手術を行います。手術中は患者さんが痛みを感じないように麻酔を投与します。

・薬物療法

薬物療法は、がん細胞に効果がある薬を患者さんに投与する治療法です。薬物療法には化学療法・ホルモン療法・分子標的療法などの種類があり、それぞれの薬について有効性・安全性の両方を考慮したうえで治療法を選択します。

・放射線治療

放射線治療は、人工的な放射線をがん細胞に照射し、がん細胞のDNAに損傷を与えることによりがん細胞を死滅させる治療法です。放射線治療を行う際は、放射線腫瘍医・画像診断医・放射線治療専門技師など、放射線治療を専門とする医療関係者と連携して治療を進めます。

・内視鏡治療

内視鏡治療は、早期の腫瘍を切除することなどを目的として、内視鏡を口や肛門などから挿入して行う治療法です。内視鏡は細長い管状の医療機器であり、先端部には小型カメラと、処置具を出せる小さな穴があります。映像をモニターに映しながら、処置具を使用して注射や切除を行って治療する流れです。

・造血幹細胞移植

造血幹細胞移植は、完治が困難な血液がんの治療を目的として、造血幹細胞を移植する治療法です。造血幹細胞は、赤血球・白血球・血小板を作り出す細胞であり、移植によって造血機能の回復を期待できます。

・免疫療法

免疫療法は、人体に備わっている免疫本来の力を利用してがん細胞を攻撃する治療法です。免疫療法にはさまざまな種類があり、効果が証明された免疫療法は限られます。効果が証明された免疫療法の例としては、免疫チェックポイント阻害薬を使用する方法があります。

(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「集学的治療」
(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「手術(外科治療)」
(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「薬物療法」
(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「放射線治療」
(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「内視鏡治療」
(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「造血幹細胞移植」
(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「免疫療法」

がん看護に携わる看護師の役割|大切なこととは?

がん看護に携わる看護師の役割|大切なこととは?

がん看護における看護師の役割は、治療を受ける患者さんと家族への精神的な支援にあるといえます。

もちろん、医師に代表される医療関係者をサポートして、がん治療に必要となる医療を提供できるようにすることも看護師の役割です。しかし、がん治療をスムーズに進めるためには、患者さんとその家族から理解を得ることが重要です。

がんになると、患者さん本人はもちろん、家族もさまざまなストレスを抱えることになります。がん治療の経過に一喜一憂したり、治療に伴う生活スタイルの変化でイライラを募らせたりすることもあるでしょう。

患者さんとその家族が大きなストレスを抱えている状態では、がん治療に前向きな気持ちを保てません。がん看護に携わる看護師は、患者さんや家族が自分らしく前向きに生きられるようサポートすることが大切です。

がん看護の一環である緩和ケアとは?

緩和ケアとは?

緩和ケアとは、がんになった患者さんと家族が感じる苦痛や不安を和らげるケアのことです。

緩和ケアはもともと、治癒を目的とした治療が有効ではなくなった、がんの終末期にある患者さんに対して行うケアとされていました。

しかし近年では、緩和ケアは終末期に限定したケアではなくなっています。がん看護の一環である緩和ケアは、がんの診断時から治療と並行して対策することが重要、という考え方が普及しました。

がん看護の現場では、患者さんと家族が抱える問題の形に合わせたケアを行う必要があり、緩和ケアの内容はさまざまです。緩和ケアには、下記のようなものがあります。

  • 病気への不安を取り除く
  • 痛みなどの症状を取り除く
  • 日々の食事を楽しめるようにする
  • ベッドのうえで楽な姿勢をとれるようにする
  • 人とのふれあいを持ち、楽しく過ごせるようにする

など

また、緩和ケアは医師や看護師だけで行うものではありません。緩和ケアの内容に応じてさまざまな専門職が協力し、チーム体制で患者さんと家族のQOL維持・向上に努めます。
(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「緩和ケア」
(出典:がん情報みやぎ「緩和ケアについて知ろう」

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緩和ケアを提供する場所は3種類

緩和ケアを提供する場所は、主に「外来」「病棟」「自宅」の3種類です。以下では、それぞれの場所で、看護師がどのような緩和ケアを提供するかを解説します。

・外来

外来の緩和ケアでは、担当の医師・看護師が連携しながら、がんによって患者さんが感じるつらさを緩和ケアで和らげます。看護師が行う基本的な緩和ケアは、患者さんと家族からの相談を受けたり、前向きに暮らせるように生活指導をしたりなどです。

また、医療機関によっては、緩和ケアを専門とする「緩和ケア外来」を設置していることもあります。緩和ケア外来の看護師は、担当の医師・看護師と連携しながら、患者さんの身体的・精神的なつらさを和らげることに努めます。

・病棟

病棟の緩和ケアでは、がんの治療のために入院した患者さんに緩和ケアを提供します。病棟の緩和ケアにおける看護師の役割は、治療に伴う痛みを取り除いたり、入院中に心地よく過ごせる環境を整えたりすることです。

病棟の緩和ケアの中には、緩和ケア病棟で行う緩和ケアもあります。緩和ケア病棟とは、がんの終末期にある患者さんが多く入院する病棟です。緩和ケア病棟の看護師は、患者さんが感じる苦痛を和らげながら、レクリエーションや趣味の活動などを通して患者さんが自分らしく生きられるように支援します。

・自宅

自宅の緩和ケアでは、在宅療養を選択した患者さんに緩和ケアを提供します。自宅の緩和ケアにおける看護師の役割は、患者さんの自宅に訪問して、医療者・ケア提供者の2つの視点から患者さんの在宅療養を支えることです。

医療者の立場では、症状の観察を行い、担当の医師に報告を行います。医師の指示に従って医療処置を行ったり、服薬を支援したりするのも看護師の役割です。

ケア提供者の立場では、患者さんの入浴や衣類交換の介助をしたり、患者さんと家族からの相談に対応したりします。在宅療養では家族による支援が必要となるため、看護師は家族と密接にコミュニケーションを取ることが重要です。

がん看護の魅力・やりがい

がん看護の魅力・やりがい

がん看護では、患者さんのつらい様子を感じたり家族の悲しみに接したりする場面があり、一見するとつらいことが多い仕事です。しかし、がん看護にはほかの仕事にはない魅力・やりがいもあります。

がん看護の最も大きいやりがいは、がんの症状に苦しむ患者さんと家族に寄り添い、治療に向けた手助けができる点です。がん看護によって、患者さんが自分らしい生き方を維持できるようになり、明るい表情が多く見られるようになると、看護師としての大きなやりがいを感じられるでしょう。

また、患者数が多い病気であるがんについて、最新の知識や治療法を学べる点も魅力です。治療薬の管理・投与や緩和ケアに必要な知識・技術は、患者さんの治療に貢献ができ、「がん看護をしてよかった」というやりがいにつながります。

がん看護が向いている人

がん看護が向いている人

がん看護には、向き不向きがあります。ここでは、がん看護が向いている人の特徴を3つ挙げて、それぞれの理由を説明します。

・患者さんと家族に対して親身になれる人

がん看護を行ううえでは、患者さんと家族から信頼されて、がんによって感じている痛みや生活上の問題を相談してもらわなくてはなりません。患者さんと家族に対して親身な対応ができ、相手からも信頼してもらえる人は、がん看護に向いています。

・患者さんの意思を尊重できる人

がん看護では患者さんの意思決定を基に、がんの治療法や治療中の生活方法を選択します。がん看護に携わる看護師には、患者さんの気持ちを汲んで、意思を尊重できる姿勢が必要です。

・気持ちの切り替えができる人

がん看護を行う中で、患者さんや家族の悲しみと直面するシーンもあります。患者さんや家族と気持ちを共有することは大切であるものの、悲しみの気持ちをいつまでも引きずっていては、患者さんのサポートは難しいでしょう。患者さんや家族の気持ちに寄り添いながらも、気持ちを切り替えて仕事に臨める人はがん看護が向いています。

がん看護に関係する資格

がん看護に関係する資格

がん看護について学びたい看護師の人は、がん看護に関係する資格取得を目指すことがおすすめです。資格取得を通してがん看護の勉強ができ、転職で有利になる可能性もあります。

以下では、がん看護に関係する5つの資格について、それぞれの特徴や取得方法を解説します。

専門看護師

専門看護師は、特定の専門看護分野について知識・技術を深めた看護師であることを証明する資格です。専門看護分野の1つにがん看護があり、がん看護専門看護師の資格を取得することで、がん看護のスペシャリストとして認められます。

専門看護師の認定審査を申請するためには、看護系大学院で修士課程を修了し、さらに専門看護分野での3年間の実務経験を含む5年間の実務経験が条件です。条件を満たしたうえで認定審査に合格すると、専門看護師資格を取得できます。
(出典:公益社団法人 日本看護協会 「資格認定制度」

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認定看護師

認定看護師は、特定の認定看護分野について高い水準での看護が実践できることを証明する資格です。認定看護分野の中には、がん放射線療法看護・がん薬物療法看護・緩和ケア・乳がん看護など、がん看護に関わる看護分野が数多く設定されています。

認定看護師の認定審査を申請するためには、認定看護分野での3年間の実務経験を含む5年間の実務経験と、認定看護師教育機関の修了が条件です。認定審査に合格することで、認定看護師資格を取得できます。
(出典:公益社団法人 日本看護協会「資格認定制度 」

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臨床心理士

臨床心理士は、患者さんが抱える心の問題にアプローチする心理学の専門資格です。がん看護は患者さんと家族の気持ちに寄り添い、抱える問題の解消を目指す仕事であるため、臨床心理士の資格が役立ちます。がん看護に欠かせない、多種多様な価値観の尊重を学べる点も魅力です。

臨床心理士の資格審査を申請するためには、日本臨床心理士資格認定協会が認可する教育機関の修了などが条件とされています。資格審査に合格することで、臨床心理士資格を取得できます。
(出典:公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会

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医療リンパドレナージセラピスト

医療リンパドレナージセラピストは、がん患者さんに生じる可能性のあるリンパ浮腫への対応技術を習得できる資格です。医療リンパドレナージセラピストは医師の診断と指示を受けたうえで、複合的理学療法を用いたリンパ浮腫への施術や、患者さんへのセルフケア指導を行います。

医療リンパドレナージセラピストになるためには、日本医療リンパドレナージ協会が定める初級講習会と中級講習会の受講が必要です。2つの講習会を受講し、修了試験にも合格することで、医療リンパドレナージセラピスト資格を取得できます。
(出典:日本医療 リンパドレナージ協会「医療リンパドレナージセラピスト養成講習会」

認定CRC

認定CRCは、臨床研究を行う企業・医師・被験者の連携・調整や、症例データ・プロトコルの管理を行うCRC(治験コーディネーター)の認定資格です。認定CRCを取得することで、薬の臨床・治験の手順を理解し、がん医療に用いられる治療薬の知識も深められます。

認定CRCを申請するためには、認定CRCの前段階にあるジュニアCRCの資格取得と、資格取得後3年の実務経験が必要です。さらに、経験した症例の提出や、開催される指定学術集会への参加なども条件として定められています。
(出典:一般社団法人 日本癌治療学「認定CRC制度 メニュー」

まとめ

がん看護は、がん患者さんと家族に寄り添った看護を行う仕事です。がん看護に携わる看護師には、治療の補助や緩和ケアなどを通して患者さんを支え、自分らしい生き方をできるようサポートするなどのやりがいがあります。

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※当記事は2022年4月時点の情報をもとに作成しています

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