• 2021年10月26日
  • 2024年4月4日

フィジカルアセスメントとは? 手順から事例・診察ポイントまで解説

 

医療業界では、業界外の方には分からない専門用語が多く存在します。医療業界で活躍するにあたり、患者さんのサポートをきちんと行う、同じ職場のスタッフとスムーズにコミュニケーションをとるためには、各専門用語とその概要まで事細かに把握しておかなければなりません。

そこで今回は、医療業界における専門用語の1つである「フィジカルアセスメント」について、意味や基本手順、症状別のやり方、フィジカルアセスメントを行うときのポイントや注意点を交えて詳しく解説します。看護師を目指す方や医療業界で活躍したいと考える方は、ぜひ参考にしてください。

フィジカルアセスメントとは?

フィジカルアセスメントとは、問診・視診・触診・打診・聴診などの身体検査を用いて患者さんの全身の情報を収集・評価し、一人ひとりの患者さんに適した対応を判断することです。

フィジカルは「身体的」、アセスメントは「評価・査定」を意味し、「身体診査」と呼ばれることもあります。

看護師によるフィジカルアセスメントの目的

フィジカルアセスメントを行う目的は、医師・看護職の方とでやや異なります。

医師によるフィジカルアセスメントは「患者さんの身体診察・診断結果の確定」が目的で、看護師や准看護師によるフィジカルアセスメントは「患者さんの状態に適切な看護ケアの明確化・実施した看護ケアの評価」が目的となっています。

フィジカルアセスメントの手順

フィジカルアセスメントの手順

フィジカルアセスメントの手順は定められており、患者さんへの負担が少ない作業から実施することが基本です。

フィジカルアセスメントの基本的な手順
(1)問診 患者さんについての情報を得る
(2)視診 身体機能の異常について確認する
(3)触診 皮膚の状態を確認する
(4)打診 内部の状態を知る
(5)聴診 身体内部の音を確認する

なお、フィジカルアセスメントの部分によっては負担の大小が異なるため、順番が交互するケースもあります。たとえば、厚生労働省が示す「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き」では、「腹部の診察」において、以下の順番で示されています。

問診→視診→聴診→打診(叩打診)→触診

(出典:厚生労働省「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き 事例6(身体診察(研修生同士による実習):腹部)」

ここからは、問診・視診・触診・打診・聴診の順番で、各手順における詳細、および厚生労働省が提供するフィジカルアセスメントの実習例をもとにした「腹部の診察例」を紹介します。

【問診】患者さんについての情報を得る

問診とは、患者さんに下記のような情報を直接尋ねる診察法です。

  • 自覚症状
  • 既往歴
  • 家族の病歴
  • 生活歴

患者さんが伝えてくれた情報から、どのような疾患があるのか、緊急性はあるのかといった判断をします。多くの場合、上記の簡単な内容は問診票を用いて待ち時間に患者さんに記入してもらいます。

その後の直接的な会話で、主な自覚症状から適切な質問項目を考え、より詳細な患者さんの身体的健康上の情報を収集・評価することが一般的です。

【視診】身体機能の異常について確認する

視診とは、実際に患者さんの身体を目で見て、身体機能に異常をきたしていないか・症状がどのようにあらわれているかを診察する方法です。異常部分の位置や大きさ、形、色、動き、左右対称性を判断します。必要に応じて、ペンライトや内視鏡を使用することもあります。

視診で特に大切なポイントは、患者さんが記入した問診票の内容を確認して、「どこを診るべきか」を瞬時に判断することです。たとえば、呼吸困難を感じている患者さんの場合、呼吸の動きだけでなくチアノーゼの有無も即座にチェックしなければなりません。診察室に入った瞬間の顔色や意識レベル、会話中の挙動も観察しておくべき部分といえます。

下記は、厚生労働省が提供するフィジカルアセスメント例に基づく「腹部の視診例」です。

【腹部の視診で確認すべき例】

  • 腹壁の形状と皮膚の状態
  • 輪郭・形状を確認
  • 皮膚の視診(皮疹・ 着色斑・手術瘢痕・静脈怒張・皮膚線条などの有無)を確認

(出典:厚生労働省「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き 事例6(身体診察(研修生同士による実習):腹部)」

【触診】皮膚の状態を確認する

触診とは、患者さんの身体や患部に直接触れて、異常部分の位置、大きさ、硬さ、動きなどを判断する診察法です。基本的に、利き手の人差し指・中指・薬指を用いて診察しますが、患部や診察の目的に応じて使用する指を使い分けるほか、両手を使うことも特徴です。

触診の場合、診察するうえで患者さんが痛みを感じることも珍しくありません。フィジカルアセスメントの基本的な手順と同様、触診の手順も患者さんにとって負担の少ない場所、つまり痛みを感じていない部位から行うことが基本です。

【腹部の触診で確認すべき例】

  • 系統的にまんべんなく行う。浅い触診・深い触診(圧痛や腫瘤などの有無)
  • 肝・脾・腎の状態(圧痛・腫瘤・腫大などの有無)

(出典:厚生労働省「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き 事例6(身体診察(研修生同士による実習):腹部)」

【打診】内部の状態を知る

打診とは、指先や打診器を用いて患部の表面を叩き、振動により生じた音から内部の状態を判断する診察法です。主に胸部や腹部にある内部臓器の診察に用いられる方法で、異常部分の位置や大きさ、密度を判断できます。

指先を用いて打診を行う際は、利き手ではない方の中指全体を患者さんの皮膚に密着させ、その指の遠位指節間関節(第一関節)あたりを利き手の中指で軽く2回程度、素早く叩きます。鼓音が響く場合は空気が溜まっていることが多く、濁音が響く場合は臓器・水分であることが多い傾向です。

【腹部の打診で確認すべき例】

  • 腹部全体・肝臓・脾臓の打診音や各部の大きさなど
  • 叩打診による叩打痛の有無

(出典:厚生労働省「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き 事例6(身体診察(研修生同士による実習):腹部)」

【聴診】身体内部の音を確認する

聴診とは、主に聴診器を用いて患者さんの身体内部から発生する音(呼吸音・心音・血管音・腸音)を聴き取り、状態や異常音の有無を判断する診察法です。聴診器を用いた聴診のことを「間接聴診法」、患部に直接耳をつけて診察する聴診のことを「直接聴診法」といいます。

聴診器にはさまざまな種類があり、血圧の測定や呼吸器系・消化器系の聴診など、用途により使い分けることが基本です。主に血圧測定を行うことの多い看護師は、シングルサイドの聴診器を用いる傾向にあります。

【腹部の聴診で確認すべき例】

  • 腸蠕動音・腹部動脈・腹部の血管音
  • 腸蠕動音の聴取頻度や音の性状
  • 血管雑音の有無(腎動脈(両側)・腹部大動脈・総腸骨動脈(両側)で確認)
  • 振水音(腸管内ガスと水の貯留を確認)

(出典:厚生労働省「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き 事例6(身体診察(研修生同士による実習):腹部)」

フィジカルアセスメントの診察例とポイント

フィジカルアセスメントの診察例とポイント

フィジカルアセスメントは、「問診→視診→触診→打診→聴診」の流れで実施することが基本です。しかし、アセスメント部分によっては順番が交互するほか、注意深く見ておかなければならないポイントも細かに異なります。

フィジカルアセスメントの診察例とそれぞれのポイントを把握することで、実際にフィジカルアセスメントを実施する際はスムーズかつ適切な対応をとれるようになるでしょう。

ここからは、フィジカルアセスメントの部位ごとにおける診察例とポイントを詳しく説明します。
(出典:日本離床学会「フィジカルアセスメント完全攻略Book」

頭部

頭部へのフィジカルアセスメントは、頭痛を訴える患者さんに対して行うことが多いです。頭痛は客観的な医学所見に乏しく、経過観察で問題ないケース、緊急対応を要するケースの判断が難しい可能性もあるため、慎重にフィジカルアセスメントを実施しなければなりません。

患者さんが頭痛を訴えた場合、まずは問診を行い、頭痛の部位や程度、特徴的な症状、さらに出現状況・頻度を調べます。次に、視診にて患者さんの瞳孔、呼吸状態などを見て、その後頭部打撲などのケースでは触診にて痛みや腫脹がないかを確認します。

腹部

腹部へのフィジカルアセスメントは、基本的に腹痛を訴える患者さんに対して行います。腹部の場合、痛みの部位と痛みの原因となっている臓器の位置は一致しないことがあります。そのため、腹痛の起こるタイミングや痛みの性状などを患者さんから聞き出すことが大切です。

問診で患者さんから腹痛の部位や痛みの程度と性状、さらに食事や排せつの状況などを聞き出し、視診にて患者さんの体位や嘔吐症状を観察します。次に、聴診で腸蠕動音や異常音の有無を確認し、最後に打診・触診で実際に痛みが発生している部位に触れて、圧痛の増強や腫瘤の有無などを確認します。

腹部は打診・触診によって腸蠕動音が変化する可能性が高いため、上記に示した「問診→視診→聴診→打診→触診」の順序を必ず守りましょう。

胸部

胸部へのフィジカルアセスメントは、胸痛を訴える患者さんに対して行うことが多いです。基本的に問診から始まり、視診、触診、打診、聴診の順番でフィジカルアセスメントを実施します。触診や打診によって胸痛が強まる可能性もあるため、この順序を必ず守りましょう。

問診で胸痛の発生部位や痛みの程度などを聞き出して、視診で皮膚所見や動的変化などを確認し、聴診で呼吸音の減弱や心雑音の有無をチェックします。打診では肺尖部から肺底部に向かって左右交互対称に行い、肺音や濁音、過共鳴音などの有無を確認しましょう。最後に触診を行い、左右差や異常な動きがないかをしっかりと確認します。

呼吸器

呼吸器へのフィジカルアセスメントは、主に呼吸困難を訴える患者さんに対して行います。胸部へのフィジカルアセスメントと同様、触診や打診によって呼吸困難が増悪する可能性もあるため、「問診→視診→触診→打診→聴診」の順番で実施することが基本です。なお、呼吸困難の程度によっては打診・触診を行わないケースもあります。

問診では、呼吸困難の始まりや持続時間、程度などを確認します。

次に視診では呼吸回数や胸郭の動きに合わせて、口唇と指先のチアノーゼの有無もしっかりと確認し、重篤な呼吸障害がないかを探ります。

左右交互に聴診を行って呼吸音や副雑音を確認したら、打診音を確認し、触診で口腔内の変形の有無などを確認します。

循環器

循環器へのフィジカルアセスメントは、主に胸痛や不整脈だけでなく、むくみや呼吸困難を訴える患者さんに対して行います。基本的な順番は「問診視診→聴診→打診→触診」となっています。

問診では胸部症状や呼吸困難感の有無などのほかに、むくみなども確認します。聴診にて呼吸音と心音をしっかり確認したのち、脈拍数やリズムの不整、また胸郭の動きなど確認することが基本です。

運動器

運動器へのフィジカルアセスメントは、主に関節の疼痛や身体機能の低下を訴える患者さん、運動器障害が生じた患者さんに対して行います。異常の起きている部位によっても細かに異なるものの、基本的には通常の流れでフィジカルアセスメントを実施することが多いです。

運動器のフィジカルアセスメントにおいては、特に問診・視診の重要性が高くなります。問診・視診では、患者さんの痛みの有無や程度、また歩行状態や関節可動域などを確認します。

視診では判断しきれない部分があったときは、必要に応じて筋力や小脳機能の評価を取り入れるケースも少なくありません。

【症状別】フィジカルアセスメントの具体的な方法

【症状別】フィジカルアセスメントの具体的な方法

基本的に、病院を受診する患者さんのほとんどは「このあたりが痛む」「なぜか気分が悪い」といったように、自分の症状について抽象的な表現をします。そのため、医師や看護師は患者さんの声を聞きながら、適切にフィジカルアセスメントを行わなければなりません。

フィジカルアセスメントを実施する流れやポイントは、患者さんが訴える症状によって異なります。ここでは、症状別のフィジカルアセスメント例や基本手順について紹介します。

疼痛がある

一口に疼痛といっても、痛みの種類はさまざまです。痛みを放置していると全身に悪影響を及ぼすケースも少なくないため、痛みの特徴を捉えて迅速に治療・緩和しなければなりません。

痛みの種類・分類は下記の通りです。

体性痛  損傷・炎症部位に生じる痛みです。痛みが限局しており、圧痛を伴います。「疼くような痛み」や「差し込むような痛み」が一定の強さで持続し、体を動かすことで痛みが増します。
内臓痛 内臓の炎症・閉塞・圧迫・伸展を原因とした痛みです。痛みの部位が不明確であり、「締め付けられるような痛み」「鈍い痛み」を感じます。患部とは関係ない部位の痛みが生じる「関連痛」や、嘔吐などの症状を伴うケースもあります。
神経障害性疼痛 神経の損傷・圧迫を原因とする痛みです。該当する神経の支配領域に「灼熱痛」「電撃痛」「刺すような痛み」を感じます。
(出典:日本ペインクリニック学会「痛みの機序と分類」

疼痛の原因を探る際は、重症な病気から排除する考え方が基本です。痛みの部位と痛むタイミングから「内臓系由来」「骨関節系由来」のどちらであるかを判断し、痛みの性質や強さ、痛み以外の要素などから総合的に判断して原因を探究します。

痛みの強さを判断する際は、表情やナースコールの回数、呼吸回数、脈拍数などにも注目しましょう。

息苦しさがある

息苦しさは患者さんの主観的な体験であり、緊急性の高さを判断するのが困難です。開眼しない・呼びかけに反応しないなど、意識レベルが低い状態であればすぐに医師に報告して必要な処置を行わなければなりません。

患者さんに意識レベルの低下が見られず会話する余裕がある場合は、ヒアリングを行いながら息苦しさの原因を探究します。まずはバイタルサインを確認し、異常がなければさらに細部までチェックするのが基本です。

原因探究時に調べるべき項目は、下記の通りです。

  • 病歴
  • 脈のリズム
  • 血圧
  • 手足のむくみ・温度・乾燥
  • 呼吸状態
  • 経皮的動脈血酸素飽和度

循環器系疾患の既往歴や不整脈、血圧低下、むくみなどがあれば、心不全の可能性が考えられます。また、呼吸器系疾患の既往歴や黄色粘稠痰の増加、経皮的動脈血酸素飽和度の低下などがある場合は、肺炎や呼吸不全であると予想できます。

むくんでいる

むくみは皮下組織に体液が貯留しすぎている状態であり、眼瞼や手背、足背などに起こりやすいです。

患者さんがむくみを訴えたら、まずは「圧痕性テスト」を実施します。圧痕性テストは患部を指の腹で圧迫し、圧迫を解除した際の患部の状態を確認するテストです。

まずは患部を指の腹で5ミリほど押し込み、10秒程度で圧迫を解除します。圧痕を確認する際は視診のみでなく、必ず触診も実施してチェックしましょう。圧痕性テストによって患部の陥没が見られた場合、圧痕が深いほどむくみが深刻であると判断できます。

むくみの原因には心不全や腎不全などが挙げられます。病態に応じて必要な対応が異なるため、むくみの発生部位の確認や圧痕性テストなどの鑑別によって、正しく原因を探究することが必要です。
(参考: 山内豊明「フィジカルアセスメントガイドブック第2版」)

吐き気・嘔吐をしている

患者さんに吐き気・嘔吐がある場合、会話できる状態であれば下記項目についてヒアリングします。

  • 痛みはあるか
  • 息苦しさはあるか
  • 排便があるか・便の状態はどうか
  • 食事を取ったか・何を食べたか
  • 最近嘔吐はあったか
  • めまいはあるか

嘔吐は随伴する症状からある程度原因を探究することが可能です。たとえば、腹痛があれば胃炎や胃潰瘍、頭痛があればくも膜下出血や髄膜炎などが考えられます。

また、問診の精度にかかわらず、バイタルサインや意識状態も確認しましょう。

問診後は視診・触診・打診・聴診を実施します。それぞれでチェックすべき項目は下記の通りです。

視診
  • 四肢や口角の動きにおける左右差の有無
  • 腹部膨満の有無
  • 嘔吐物の色や状態
触診
  • 腹部の硬さ
  • 頸部の硬さ
打診
  • 便の詰まり
  • ガスの貯留
聴診
  • 腸蠕動音の有無(消化器系の障害を疑う場合)
  • 腹水の有無(肝疾患を疑う場合)
  • 肺の捻髪音や水泡音(肺炎を疑う場合)

嘔吐の原因となり得る疾患は数多くあるため、さまざまな角度から評価することが重要です。

けいれんしている

けいれん時は患者さんの意識がないケースがほとんどであり、発見者に患者さんの状態をヒアリングしてけいれんのタイプを見極める必要があります。チェックすべきポイントは次の通りです。

  • けいれん部位
  • けいれんの様子
  • 持続時間
  • 眼球の状態
  • 後弓反張の有無
  • 呼びかけに対する反応

けいれんの様子は「身体が引きつる」「ぴくぴく動く」「震えている」のように、多様な表現を使って正確にヒアリングする工夫が必要です。

また、初期観察では気道・呼吸・循環・意識の評価を通し、意識レベル低下による気道閉塞や、呼吸障害による低酸素血症を生じていないかを確認します。

けいれんの原因となる疾患には、頭蓋内器質的疾患や脳循環障害、代謝性疾患、感染症などのさまざまな種類があります。原因を探究する際は、血糖値測定・血液ガス分析・採血などの実施も必要です。

尿に異常がある

血尿には、見た目で確認できる「肉眼的血尿」と、見た目では通常の尿との区別がつかない「顕微鏡的血尿」の2種類があります。

肉眼的血尿は、尿が排せつされるルートで起こるトラブルを原因とするケースが多い傾向です。対して、顕微鏡的血尿は、尿が生成される段階で起こるトラブルが原因であると予想できます。

血尿が確認されたら、問診やバイタルサイン、尿検査などを通して緊急性や原因を判断します。問診時にチェックすべき項目は以下の通りです。

  • 血尿が出始めた時期
  • 血尿が出る頻度
  • 血の塊の有無
  • 思い当たる原因(膀胱炎・風邪・激しい運動など)
  • 血尿以外の症状(発熱・背中や下腹部、腰の痛み・排尿時の痛みなど)

血尿の原因には、がんや腎不全、腎盂腎炎、膀胱炎、筋肉の損傷、結石、薬剤の服用などが挙げられます。特にがんや腎不全は緊急度が高く、速やかな治療が必要です。

フィジカルアセスメントを行うときのコツ

フィジカルアセスメントを行うときのコツ

フィジカルアセスメントは、患者さんの身体上の健康状態を正しく判断する必要があるため、苦手意識を持つ看護師は多くいるでしょう。しかし、苦手意識がかえって悪循環を起こしている可能性も大いに考えられます。

フィジカルアセスメントに対して苦手意識を持っている場合は、少しのコツを把握・実践することで、意外と簡単に苦手意識を解消できる可能性も否めません。

ここからは、フィジカルアセスメントを行うときのコツを3つ解説します。

さまざまな視点からの質問を投げかける

フィジカルアセスメントに対して苦手意識を持つ原因は、「尋ねるべき質問量が少ないことによって、得られる情報量も少ないため」である可能性があります。得られる情報量が少ないということは「判断に値する情報がない」ともいえ、その自信のなさから結果的に苦手意識につながるのかもしれません。

フィジカルアセスメントを行うときは、発症したときの状況や影響する因子など、さまざまな視点からの質問を投げかけることが効果的です。下記に、背中の痛みを訴えている患者さんに対する質問例を紹介します。

フィジカルアセスメントの質問例
「背中の痛みは、いつから起こりましたか? 」「背中の痛みは、鈍痛・チクチクした痛み、どちらに近いですか? 」「痛みを感じている部分は、背中側全体ですか? それとも一部分のみですか? 」「背中の痛みがひどくなる、あるいはましになるきっかけはありますか? 」「背中の痛みとともに感じている、何か別の症状はありますか? 」

ただし、痛みを感じている患者さんに対して質問攻めをすることは、患者さんの負担増加につながります。事前に要点を絞り、患者さんが簡潔に答えられるような質問を用意しておきましょう。

「SOAP(ソープ)」を活用する

フィジカルアセスメントを行うときは、「SOAP(ソープ)」の活用も効果的です。SOAPとは、フィジカルアセスメントを行った結果を記録することで、下記4つの要素で構成されています。

要素 詳細
<S
Subject(主観的な情報)
患者さんが主に訴えている情報
<O
Object(客観的な情報)
主観的な情報以外に、看護師が診察で得た情報
<A
Assessment(アセスメント)
S(主観的情報)・O(客観的情報)をもとに分析・評価し、看護師である自身が感じた印象や意見
<P
Plan(プラン)
S(主観的情報)・O(客観的情報)・A(アセスメント)をもとにした、今後の治療方針などの計画

看護記録やアセスメントシートでは、SOAPとしてフィジカルアセスメントで得た情報を記載することにより、内容を分かりやすく整理できます。加えて、課題点に焦点をあてた適切な治療方針の判断にも大いに役立つでしょう。

フィジカルアセスメントで得た情報をもとに看護計画を立てる

フィジカルアセスメントによって得た情報は、看護計画の立案に重要な要素となり得ます。

正しい看護アセスメントを実施できれば、「隠れていた看護問題」や「問題解決に向けて求められる看護ケア」が自然と浮かび上がってくるでしょう。これらの内容を看護計画に取り入れることで、根拠に基づき患者さんに適した看護計画を立案し、実施できるようになります。

職場によって異なるフィジカルアセスメントの重要性・活用方法

職場によって異なるフィジカルアセスメントの重要性・活用方法

フィジカルアセスメントの目的は、医療機関・リハビリテーション施設・訪問看護などの職場ごとに異なります。ここでは、職場別にフィジカルアセスメントの重要性や活用方法について解説します。

医療機関におけるフィジカルアセスメント[1] 

医療機関やクリニックにおけるフィジカルアセスメントは、患者さんの身体異常を早期に発見し、根拠に基づく適切な治療・看護ケアを提供することが主な目的です。

医師によるフィジカルアセスメントは、患者さんの身体診察を通した正確な診断を目的としています。対して、看護師によるフィジカルアセスメントは、患者さんに必要な看護ケアの明確化や、ケア実施後の評価のために行います。

リハビリテーション施設におけるフィジカルアセスメント

リハビリテーション施設におけるフィジカルアセスメントの目的は、正確な診断と適切なリハビリ計画の作成です。患者さんの身体状況を正しく把握することは、予定しているリハビリを安全に行えるかどうかの判断にもつながります。

また、フィジカルアセスメントは患者さんとスタッフとのコミュニケーション手段の1つでもあります。信頼関係の構築や精神的ケアとしても役立つでしょう。

訪問看護におけるフィジカルアセスメント

訪問看護におけるフィジカルアセスメントは、利用者さんの身体状態を正確に把握し、必要なケア内容を明確化することが目的です。

訪問看護は、社会とつながりながら自分らしく生きたいと望む利用者さんを支援するサービスです。フィジカルアセスメントを通して多様な職種同士で連携を測ることで、利用者さんと家族の自立をサポートできます。
(出典:日本看護学教育学会誌「訪問看護活動におけるフィジカルアセスメント技術の実態調査」

フィジカルアセスメントで看護師に求められるスキル

フィジカルアセスメントで看護師に求められるスキル

フィジカルアセスメントを行うにあたって看護師に求められるスキルとしては、下記の3つが挙げられます。

【求められるスキルの例】

  • 患者さんの異常に瞬時に気づく能力
  • 多岐にわたる症状の専門的な知識
  • 患者さんおよびご家族への分かりやすい説明

フィジカルアセスメントにおいては、部位を問わず視診がより重要となっており、患者さんに起きている異変・異常に瞬時に気づく能力が非常に求められます。少々の変化でも気づけるように、日頃からしっかりと観察しておくことが大切です。

また、的確なフィジカルアセスメントを実施するため、そしてアセスメントの結果をスムーズに共有するためにも、専門的な医療看護知識やコミュニケーション能力が求められます。

なお、これらのスキルは、フィジカルアセスメントの実務を積み重ねることによって自ずと身についていくものでもあります。経験が少ないうちからすべてのスキルを備えている看護師はほとんどいないため、アセスメント力が身についていないことを過度に不安に思う必要はありません。

フィジカルアセスメントの知識・技術を習得するには?

フィジカルアセスメントの知識・技術を習得するには?

看護師としてフィジカルアセスメントを行うためには、専門的な知識と看護技術が必要です。

フィジカルアセスメントに必要とされる知識・技術を身につける方法はいくつかあるものの、在学中に習得するか働きながら習得するかによっても具体的な習得方法は大きく異なります。

最後に、フィジカルアセスメントの知識・技術を習得するための方法を、在学中に習得するケース・働きながら習得するケースに分けて詳しく説明します。

在学中に習得する方法

看護学生が在学中にフィジカルアセスメントの基礎知識・技術を身につける方法としては、主に「フィジカルアセスメントの科目や演習の履修」が挙げられます。

ほとんどの看護学校では、フィジカルアセスメントの概念や具体的な技術を学ぶことが可能です。演習を通して学ぶことで、看護実践に活用できるフィジカルアセスメントの能力をさらに養えるでしょう。

演習では、基本的に少人数のグループとなり、学生自身やマネキンを用いて授業で学んだ内容を実践します。教科書だけでは学べない、臨床現場で役立つさまざまな知識・技術を習得できるため、在学中は積極的に参加するとよいでしょう。

働きながら習得する方法

すでに看護師として働いている看護師がフィジカルアセスメントに関するさらなる知識・技術を習得するためには、「フィジカルアセスメントの講習会や研修への参加」が最も近道といえるでしょう。

フィジカルアセスメントの講習会や研修は、定期的に全国各地で開催されています。セミナーによっては、書籍やテキストを用いたものだけでなく、シミュレーション機能が搭載されたマネキンを用いた実習に参加できるものもあり、実践スキルもしっかりと学べます。

しかし、セミナー開催地は基本的に都市部が多く、地方に住む方にとっては参加しにくいことも難点です。地方在住でなかなか都市部のセミナーに参加できないという場合は、eラーニングを受講するのもよいでしょう。eラーニングでは、患者さんのアバターを用いたフィジカルアセスメント体験が可能です。

基礎講習はeラーニングで受講し、実習は会場で受講するという「eラーニング+講習会」の組み合わせであれば、より効率的なフィジカルアセスメントの知識・技術の習得が期待できます。

まとめ

看護用語としても知られるフィジカルアセスメントは、「患者さんの状態に適切な看護ケアの明確化・実施した看護ケアの評価」が目的であり、各項目できちんと患者さんの情報を得る必要があります。先輩看護師のフィジカルアセスメントを実際に見るなどして、徐々に知識と経験を積みましょう。

フィジカルアセスメントをきちんと学ぶためには、就職先・転職先選びも重要です。職場によっては、フィジカルアセスメントをなかなか任せられないケースもあります。医療業界でしっかり活躍したいと考えているのであれば、業界に精通したプロの転職アドバイザーがぴったりの求人を紹介する看護師転職サイト「マイナビ看護師」をぜひご利用ください。

※当記事は2024年2月時点の情報をもとに作成しています

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