医療業界では専門用語が多く存在します。医療業界で活躍するにあたり、患者のサポートをきちんと行う、同じ職場のスタッフとスムーズにコミュニケーションをとるためには、各専門用語とその意味を知っておくことは大切です。同じ医療職である医師と看護師では養成課程が違います。そのため医師が使う専門用語がわからなかったり、その時遭遇した症状等を医師にうまく伝えられないことも多々あります。
そこで今回は、医療業界における専門用語の1つである「フィジカルアセスメント」について、意味や基本手順、部位別の観察ポイントについて詳しく解説します。医療職同士が共通の言葉で情報共有ができることは重要であるため、看護師を目指す方や医療業界で活躍したいと考える方は、ぜひ参考にしてください。
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監修者:日野原 康平(ひのはら こうへい) 島根大学医学部看護学科 卒業 島根県立大学博士前期課程高度実践者養成コース診療看護師(NP)プライマリ・ケア領域 急性期病院勤務を経て現在は医療療養型病棟に勤務。高齢患者の症状マネジメントを中心に活動している。 |
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フィジカルアセスメントとは?
フィジカルアセスメントとは、問診・視診・触診・打診・聴診などの身体検査を用いて患者の全身の情報を収集・評価し、患者の状態をできるだけ正確に把握するための技術です。
フィジカルは「身体的」、アセスメントは「評価・査定」を意味し、それらを合わせて「身体診査」と呼ばれることもあります。
看護師によるフィジカルアセスメントの目的
フィジカルアセスメントを行う目的は、医師・看護師でやや異なります。
医師によるフィジカルアセスメントは「可能な限り正確な診断を下すこと、治療経過を評価すること」等が目的で、看護師によるフィジカルアセスメントは「患者の状態に合わせた適切なケアの選択と異常の早期発見」等が目的となっています。
フィジカルアセスメントの手順

フィジカルアセスメントの手順は定められており、患者さんへの負担が少ない作業から実施することが基本です。
| フィジカルアセスメントの基本的な手順 | |
|---|---|
| (1)問診 | 患者自身と症状や病状経過についての情報を得る |
| (2)視診 | 視覚情報から異常がないかを観察する |
| (3)触診 | 患者に直接触れることで身体情報を得る |
| (4)打診 | 身体に振動をあたえて響く音から内部の状態を推察する |
| (5)聴診 | 主に聴診器を用いて身体内部の音から内部の状態を推察する |
なお、フィジカルアセスメントは症状によって患者の負担が異なるため、順番が交互するケースもあります。たとえば、厚生労働省が示す「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き」では、「腹部の診察」においては痛みを出現させる可能性があるため、以下の順番で示されています。
問診→視診→聴診→打診(叩打診)→触診
出典:厚生労働省「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き 事例6(身体診察(研修生同士による実習):腹部)」
ここからは、問診・視診・触診・打診・聴診の順番で、各手順における詳細、および厚生労働省が提供するフィジカルアセスメントの実習例をもとにした「腹部の診察例」を紹介します。
ここでは入院中の患者が担当看護師に「腹部の症状」を訴えた場合の流れをみていきます。
【問診】患者自身と症状や病状経過についての情報を得る
問診とは、患者さんに下記のような情報を直接尋ねる診察法です。
- 現在の治療内容
- 自覚症状
- 既往歴
- 家族の病歴
- 生活歴 etc
患者が訴える症状からどの臓器あるいは身体の部位に原因がありそうかを考えます。そこから部位や症状に合わせて、他に症状がないか、時間経過はどうなっているかを確認し、緊急性が高く医師に速やかに報告する必要があるか、等といった評価を行います。
この時に「こんな病気だったら嫌だな」といった緊急性が高い病気を、ある程度頭に浮かべられるかが大切になってきます。
【視診】視覚情報から異常がないかを観察する
視診とは、実際に患者の身体を目で見て、身体機能に異常をきたしていないか・症状がどのようにあらわれているかを診察する方法です。異常部分の位置や大きさ、形、色、動き、左右対称性を判断します。必要に応じて、ペンライトを使用することもあります。
視診で大切なポイントは、どのような症状であっても全身を観察することです。たとえば、呼吸困難を感じている患者の場合、呼吸の動きだけでなく指先の色が悪くなっていないか(チアノーゼの有無)等も確認します。主な症状が全身にどのような影響を与え、症状として出現するかを考えながら観察することが必要です。一見重篤感はなさそうであっても顔色や意識レベル、会話中の挙動も観察しておくべき部分ですし、時間経過でどう変わっていくかも押さえておく部分になります。
下記は、厚生労働省が提供するフィジカルアセスメント例に基づく「腹部の視診」における観察すべき項目です。
【腹部の視診で確認すべき例】
- 腹壁の形状と皮膚の状態
- 輪郭・形状を確認
- 皮膚の視診(皮疹・ 着色斑・手術瘢痕・静脈怒張・皮膚線条などの有無)を確認
出典:厚生労働省「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き 事例6(身体診察(研修生同士による実習):腹部)」
【触診】患者に直接触れることで身体情報を得る
触診とは、患者の身体に直接触れて、異常部分の位置、大きさ、硬さ、動きなどを判断する診察法です。基本的に、患部や診察の目的に応じて使用する手の使い方を変えていきます。
ここで気を付けることは、触診によって患者が痛みを感じることも珍しくないことです。そのため、触診は患者にとって負担の少ない場所、つまり症状がない部位から、だんだんと症状がある部位に近づけていきながら行うことが基本です。
【腹部の触診で確認すべき例】
- 系統的にまんべんなく行う。浅い触診・深い触診(圧痛や腫瘤などの有無)
- 肝・脾・腎の状態(圧痛・腫瘤・腫大などの有無)
出典:厚生労働省「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き 事例6(身体診察(研修生同士による実習):腹部)」
【打診】身体に振動をあたえて響く音から内部の状態を推察する
打診とは、指先を用いて患部の表面を叩き、振動により生じた音から内部の状態を判断する、あるいは打腱器を使用して主に腱を刺激した時の反応から症状を確認する診察法です。よく行われるのは胸部や腹部にある内部臓器の診察に用いられる方法で、異常部分の位置や大きさや広さ等を判断できます。
腹部に対して指先を用いて打診を行う際は、利き手ではない方の中指全体を患者の皮膚に密着させ、その指の遠位指節間関節(第一関節)あたりを利き手の中指で軽く2回程度、素早く叩きます。部位によって音が変わり、鼓音(ポンポンという音)が響く場合は空気がある場所で、濁音(鼓音ではない音)が響く場合は臓器・水分であることが多い傾向です。部位と音に関係性があるため、聴取した音から異常がないか推察することができます。
音から推察するため正確性は画像検査(超音波検査やレントゲン等)に比べ劣りますが、検査機器がない状況や使えない状況では大切な手技です。
【腹部の打診で確認すべき例】
- 腹部全体・肝臓・脾臓の打診音や各部の大きさなど
- 叩打診による叩打痛の有無
出典:厚生労働省「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き 事例6(身体診察(研修生同士による実習):腹部)」
【聴診】主に聴診器を用いて身体内部の音から内部の状態を推察する
聴診とは、主に聴診器を用いて患者の身体内部から発生する音(呼吸音・心音・血管音・腸音)を聴き取り、状態や異常音の有無を判断する診察法です。聴診器を用いた聴診のことを「間接聴診法」、患部に直接耳をつけて診察する聴診のことを「直接聴診法」といいますが、「直接聴診法」を実践する機会は滅多にありません
臓器とそれぞれが出す音の関係性を把握しておかなければいけないこと、聴診のしやすさが患者によって違うこと、異常音があってもそれが有用な情報にならない場合もある等、非常に奥が深い手技になります。様々な症例を経験することで少しずつ慣れてくるので、根気よく学びたい手技です。
また、聴性打診といって聴診器と打診を組み合わせた方法もあります。
打診と同じように画像検査機器がない、使えないといった場面で力を発揮するので、磨いていきたい手技です。
【腹部の聴診で確認すべき例】
- 腸蠕動音・腹部動脈・腹部の血管音
- 腸蠕動音の聴取頻度や音の性状
- 血管雑音の有無(腎動脈(両側)・腹部大動脈・総腸骨動脈(両側)で確認)
- 振水音(腸管内ガスと水の貯留を確認)
出典:厚生労働省「看護師の特定行為研修における実習指導(共通科目)の手引き 事例6(身体診察(研修生同士による実習):腹部)」
部位別の観察ポイント

フィジカルアセスメントの診察例とそれぞれのポイントを把握することで、実施する際はスムーズかつ適切な対応をとれるようになるでしょう。 ここからは、フィジカルアセスメントの部位ごとの観察ポイントを簡単に説明します。
出典:日本離床学会「フィジカルアセスメント完全攻略Book」
頭部
頭部へのフィジカルアセスメントは、頭部を受傷した患者に行うことが多いでしょう。頭部は脳という重要な臓器があり慎重な対応が求められます。頭の形状や出血の有無等を視診で確認し、意識状態や神経症状等を問診で確認します。触診ではより細かく形状の変化や傷、痛みの程度を確認します。経過観察で問題ないケース、緊急対応を要するケースの判断が難しい可能性もあるため、慎重にフィジカルアセスメントを実施しなければなりません。病棟内で患者が頭を受傷した場合は、状況と観察の結果を速やかに医師に報告する必要があります。
ほかには患者が頭痛を訴えた場合、まずは問診を行い、頭痛の部位や程度、特徴的な症状、さらに出現状況・頻度を調べます。次に、視診にて患者の瞳孔、呼吸状態などを見ます。頭部打撲などのケースでは触診にて痛みや腫脹がないかを確認します。頭痛はさまざまな病気で起こる症状ですので、注意深く観察する必要があることを留意しましょう。
腹部
問診で患者から腹痛の部位や痛みの程度、症状、食事や排せつの状況などを聞き出し、視診にて患者の体位や嘔吐症状を観察します。次に、聴診で腸蠕動音や異常音の有無を確認し、最後に打診・触診で実際に痛みが発生している部位に触れて、圧痛の増強や腫瘤の有無などを確認します。
腹痛は、日常的に起こる症状でもあるがゆえに油断しやすい症状です。腹痛が重篤な病気からくるものなのかを適切に評価できなければ、患者がショック状態に陥る場合も十分に考えられます。みぞおち当たりの痛みは胃ではなく心筋梗塞の痛みだったということもありますので、一つの観察結果だけでなく、複数の観察結果を組みあわせて判断することが大切です。
腹部は打診・触診によって腸蠕動音が変化する可能性が高いため、上記に示した「問診→視診→聴診→打診→触診」の順序を必ず守りましょう。
胸部
胸部へのフィジカルアセスメントは胸痛や胸の絞扼感といった胸部症状、呼吸困難感や咳といった呼吸器症状を訴える患者で行うことが多いです。基本的に問診から始まり、視診、触診、打診、聴診の順番でフィジカルアセスメントを実施します。触診や打診によって胸痛が強まる可能性もあるため、この順序を基本にしましょう。
問診で症状の発生部位や症状の程度、症状の時間経過等を聞き出して、視診で皮膚所見や動的変化などを確認し、聴診で呼吸音の減弱や心雑音の有無をチェックします。打診では肺尖部(鎖骨あたり)から肺底部(肩甲骨下あたり)に向かって左右交互対称に行い、肺音や濁音、過共鳴音などの有無を確認しましょう。最後に触診を行い、左右差や異常な動きがないかを確認します。
大切なのは異常が疑われる場合には医師にきちんと報告することです。
フィジカルアセスメントの知識・技術を習得するには?

フィジカルアセスメントの講習会や研修は、全国各地で開催されています。セミナーによっては、書籍やテキストを用いたものだけでなく、シミュレーション機能が搭載されたマネキンを用いた実習に参加できるものもあり、実践スキルもしっかりと学べます。
しかし、セミナー開催地は基本的に都市部が多く、地方に住む方にとっては参加しにくいことも難点です。地方在住の方は、eラーニングを受講するのもよいでしょう。eラーニングでは、患者のアバターを用いたフィジカルアセスメント体験が可能です。
基礎講習はeラーニングで受講し、実習は会場で受講するという「eラーニング+講習会」の組み合わせであれば、より効率的なフィジカルアセスメントの知識・技術の習得が期待できます。
まとめ
フィジカルアセスメントは日々の看護をより良いものしてくれる大切な技術です。そして、一度身に着ければ一生に渡って自分の看護力を支えてくれる力強い味方になります。
ただし漫然と仕事をしていて身につくものではなく、積極的に手を当て、耳を当てながら一人一人の患者に向き合うことが大切であり、まさに「フィジカルアセスメントは1日してならず」なのです。
一方でフィジカルアセスメントをきちんと学ぶためには、就職先・転職先選びも重要です。職場によっては、フィジカルアセスメントをなかなか学べない環境であることもあります。医療業界でしっかり活躍したいと考えているのであれば、業界に精通したプロの転職アドバイザーがぴったりの求人を紹介する看護師転職サイト「マイナビ看護師」をぜひご利用ください。
※当記事は2024年2月時点の情報をもとに作成しています
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