• 2017年1月24日
  • 2023年12月27日

減塩食を続けられるか不安になっている成人男性

 

問題

Aさん(34歳、男性)は、運送会社で配達を担当している。6カ月前の職場の健康診断で、血圧142/90mmHgと尿蛋白2+、尿潜血2+を指摘されたが放置していた。1週前、感冒様症状の後に紅茶色の尿がみられたため内科を受診した。血清IgAが高値でIgA腎症(IgA nephropathy)が疑われ入院した。

AさんはIgA腎症と診断され、塩分1日6gの減塩食が開始された。入院前は塩辛いものが好物で外食が多かったAさんは「味が薄くて食べた気がしない。退院後も続けられるかな」と話している。

このときの対応でもっとも適切なのはどれか。

  1. 「つらいですが慣れてきます」
  2. 「最初に甘いものを食べてください」
  3. 「各食事で均等に塩分を摂取しましょう」
  4. 「酸味や香味を利用するとよいでしょう」
  5. 「市販のレトルト食品は塩分が少ないので活用するとよいです」

【解答】

  1. 1.減塩継続に不安を感じている気持ちを受け止める必要があります。
  2. 2.減塩を継続するうえでは役立たないアドバイスです。
  3. 3.むしろ、各食事で塩分のメリハリを付けるべきです。
  4. 4.減塩食に対する物足りなさを補う工夫として適切です。
  5. 5.市販のレトルト食品は塩分量が高いことが多いです。

解説

IgA腎症は指定難病(難病医療法に基づいて厚生労働大臣が指定する疾患)のひとつで、腎臓の糸球体に免疫グロブリンA(IgA)が沈着する病気です。原因は、まだ明らかになっていません。初期は無症状のため発見が難しいのですが、病態が進行すると最終的には末期腎不全に至ります。

ほかの慢性腎臓病と同じように、IgA腎症でも治療の一環として食事療法(低タンパク食、減塩食)が行われます。低タンパク食は、腎臓への負担を軽くすることが目的です。また、慢性腎臓病では腎臓のナトリウム排泄能が低下しているため、摂取する塩分量を減らして体への悪影響(とくに高血圧)を避けるようにします。※出典:【状況設定問題】2016年 第105回 過去問題(午前95)成人看護学

現場ではこうする!

食事療法に不安を感じている患者さんの場合、いかに食事療法に興味を持ち疾患の自己管理に繋げるかが重要です。食事療法の効果を求めるためには、当然ながら、その食事を継続することも大切です。そのためには、根本的な生活指導が重要となります。「何故、減塩食が必要か」、「現在に至るまでの食生活で、何が問題となっていたか」「今後も現在の食生活を続けたらどのような問題が起きるか」などを説明した上で、嗜好に関しての工夫をアドバイスするとよいでしょう。

しかし、濃い味付けの食事に慣れた、とくに若い人にとっては、減塩食はいかにも物たりなく感じられ、「食べた気がしない」との訴えがあることもしばしばです。減塩の継続に不安を感じているAさんには、IgA腎症では減塩する必要があることを再認識してもらえるよう関わるとともに、できるだけ減塩が苦にならないようなレシピや調理上の工夫を指導していくことが望ましいでしょう。

減塩食の物足りなさを補う工夫とは?

日本人は世界的に見ても塩辛い味を好むといわれており、味噌汁や漬物といった伝統食も多くの塩分を含んでいます。長く培われてきた味の好みを変えるのは大変なことです。

塩分を減らしても美味しく感じる工夫として、「香り」や「うまみ」を最大限に活用することが挙げられます。かつお節や昆布、煮干しなどの出汁、きのこ類やトマトなどうまみが強い食品を使うことで満足感を得られるでしょう。山椒やわさびといった香辛料や柑橘類、ごま油など香りのよい油を使うことも、減塩につながります。

また、どの料理もまんべんなく減塩するのではなく、「しっかりした味付けの主菜と薄味の副菜」というように、味にメリハリをつけた献立にすることも効果的です。1食または1日の食事をトータルに考えて減塩を達成します。

食事中の習慣が塩分の取りすぎにつながることもあります。たとえば、「うどんのおつゆを飲み干す」「味を確かめる前に醤油をかける」「ご飯と比べておかずを多く食べる」「毎食必ず味噌汁やスープを飲む」といったことがないよう指導しましょう。

監修:医療法人鵬志会 別府病院 看護部長 行徳倫子

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