• 2018年5月22日
  • 2023年12月27日

入院当日、自分がいる場所が分からない見当識障害をきたした高齢女性

 

【問題】

Aさん(79歳、女性)。自宅の玄関で転倒し、救急外来で第12 胸椎の圧迫骨折(compression fracture)と診断され、安静目的で入院した。
既往歴:5年前に大腿骨骨折(femoral fracture)。
現病歴:2年前にAlzheimer〈アルツハイマー〉病(Alzheimer disease)を発症。記憶障害があるが、失認、観念運動失行および失語はなし。
生活歴:要介護1。同じ敷地内に住む長男夫婦は仕事をしている。ADLは自立。

入院当日、Aさんは看護師に「ここはどこですか」と同じ質問を繰り返している。
このときの看護で最も適切なのはどれか。

  1. 体幹を抑制する。
  2. 家族に夜間の付き添いを依頼する。
  3. ナースステーションにベッドを移動する。
  4. 骨折で入院していることを繰り返し伝える。

【解答】

  1. 1. Aさんは見当識障害をきたしているだけであり、抑制の必要はありません。
  2. 2.夜間になればAさんの不安が増大することも考えられるため、家族に付き添ってもらえたら安心でしょう。しかし、仕事をしている長男夫婦に夜間付き添いを依頼するほどまでに差し迫った状況ではないと考えられます。
  3. 3.落ち着いた療養環境を整えることが大切です。
  4. 4.Aさんの不安を和らげるため、「ここがどこであるか」「なぜ、ここにいるか」を分かりやすい言葉で伝えます。同じ質問が繰り返されても、そのたびに丁寧に繰り返し説明する姿勢が大切です。

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解説

見当識障害は認知症の症状のひとつです。自分のいる場所、現在の時間、話をしている相手などについて正しい現状認識ができなくなる状態で、Aさんの場合は「場所の見当識障害」をきたしています。設問の状況は入院当日であり、自宅から見知らぬ病室へ移されるという急激な環境変化から、大きな不安やストレスを抱えています。
【状況設定問題】2017年 第106回 過去問題(午後94) ●老年看護学



現場ではこうする!

認知症のBPSDの現れ方は多様
認知症高齢者のAさんにとっては、予期せぬ転倒・骨折からの突然の入院で、慣れない生活環境や、なじみのない人間関係を強いられることになりました。それがAさんの場合では見当識障害につながっていますが、ほかにも焦燥や動揺などの不穏症状がみられたり、喚声(大きなわめき声や、うめき声)が断続的に現れたりすることもあります。すなわち、認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia;BPSD)が出やすくなってしまうのです。

BPSDは適切な対処により症状を軽減したり、悪化を押しとどめたりすることができるとされます。本問の正答のように丁寧な状況説明も適切な対処のひとつですが、ほかにもできることがあります。

落ち着ける病室環境を早期に整える
Aさんのような見当識障害の軽減・悪化予防のためには、とにかくAさんが落ち着ける環境を早期に整えることが肝心です。たとえば、周囲の騒音が少ない落ちついた病室(手術や検査での出入りが少なく、空間的にもゆったりしている)や、他人と穏やかなコミュニケーションを取るなどして適切な刺激を受けられる病室へ移す、本人が自宅で愛用していた物品(お気に入りのぬいぐるみや写真集など)をベッド周りに持ってくる、といったことが考えられます。

信頼に基づく「患者さんと看護師」の関係をいち早く構築する
前述のとおり、Aさんにとっては看護師を含む医療従事者も「なじみのない人間関係」であり、不安やストレスの原因となる可能性があります。したがって看護師は、できるだけ早くAさんとの距離を近づけるように関わり、信頼関係を結ぶことが必要でしょう。本問の正答である丁寧な状況説明は、このことにも役立つものと考えられます。

間違っても、同じ質問を繰り返すAさんをたしなめたり、ましてや怒ったり責めたりしてはいけません。また、Aさんのいうことを頭ごなしに否定することもNGです。いったんいうことを受け入れたうえで、本人の自尊心を傷つけないように本当のことを伝える配慮が求められます。

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イラスト:シロシオ 「シロシオ イラスト&マンガポートフォリオサイト」


監修:医療法人鵬志会 別府病院 看護部長 行徳倫子

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