• 2018年3月30日
  • 2023年12月27日

パーキンソン病による転倒の不安から運動を拒否する高齢男性

 

【問題】

Aさん(82歳、男性)は、介護付の有料老人ホームに入居している。10年前まで会社を経営していた。プロ野球や世界経済に興味があり、友人とインターネットを用いて交流するのを楽しみにしている。Parkinson〈パーキンソン〉病(Parkinsonʼs disease)で、現在Hoehn-Yahr〈ホーエン・ヤール〉の重症度分類でステージII。両側の上下肢の静止振戦や動作緩慢がみられる。食事は自分の居室に運んでもらって食べている。身の回りのことは1人でできる。1人での外出も可能だが、転倒に対する恐怖が強いため1日中室内で過ごしている。
有料老人ホームの看護師はAさんに病気の進行を予防するために運動を勧めたが、Aさんは「この病気は進行性だからいつかは動けなくなる。今、転ぶと骨折して動けなくなるかもしれない。だから運動するのは嫌だ」と言う。AさんはParkinson病に関する情報を入手しており、病状の理解ができている。薬物は自己管理できている。かかりつけ医に自分から病状の説明を求めることもある。
Aさんの転倒の不安を軽減するために看護師とAさんが一緒に実施することで、最も適切なのはどれか。

  1. 車椅子で外出する。
  2. 転倒予防教室への参加を検討する。
  3. 廃用症候群(disuse syndrome)に関する情報を収集する。
  4. 運動の効果と転倒のリスクとを比較する。

【解答】

  1. 1.Aさんは自立歩行が可能なので車椅子の必要はなく、そもそも転倒の不安を軽減することにつながりません。
  2. 2.転倒予防教室への参加は、運動することの意味を理解する機会になるとともに、転倒予防の知識を深めることができるので、不安の軽減につながると考えられます。
  3. 3.パーキンソン病が進行したとき将来的に起こりうる廃用症候群について知っておくことは必要かもしれませんが、設問の時点におけるAさんの不安を軽減することにはなりません。
  4. 4.看護師がAさんと一緒に運動の効果と転倒のリスクを比較することは、転倒予防教室に参加することと同様の意味があると考えられます。

解説

パーキンソン病は原因不明の神経変性疾患で、特定疾患(難病)に指定されており、さまざまな特徴的な症状が現れます。歩行に関する症状としては、一歩目が出にくくなる「すくみ足」、前屈みになり狭い歩幅で歩く「小刻み歩行」、歩いているうちにスピードが速くなり停止が難しくなる「突進現象」などがあるほか、全体的に動作が緩慢になり、姿勢反射も障害されるため、極めて転倒しやすくなります。

なお、Hoehn-Yahrの重症度分類はパーキンソン病の進行度を示す指標であり、ステージIIは「両側性の手足の障害があるものの姿勢保持の障害はなく、日常生活や就業に支障をきたすことはない」状態です。【状況設定問題】2017年 第106回 過去問題(午後93)、老年看護学

※本問について、厚生労働省は「複数の正解があるため、複数の選択肢を正解として採点する」と発表しました。

現場ではこうする!

外の世界への興味関心を行動につなげよう!
身体的には1人での外出も可能でありながら、パーキンソン病による転倒不安のために運動や外出を避けているばかりか、自分の居室から出ることさえしないAさん。これではパーキンソン病の進行を遅らせる期待が持てる運動の不足は明らかですし、精神衛生上も望ましくないでしょう。「プロ野球や世界経済に興味があり、友人とインターネットを用いて交流するのを楽しみにしている」というように、外の世界への興味関心は失っていないので、何とか転倒不安をやわらげて運動や外出を促したいものです。
そのためには転倒予防教室への参加も有効なのですが、その機会を待つのではなく、よりAさんの身近にいる看護師やヘルパーの日常的な働きかけで転倒不安に対処することも重要になってきます。ポイントは「転倒しにくい歩き方の指導」「環境整備」「歩行補助具や防護用具の導入」の3つです。

1.転倒しにくい歩き方の指導
パーキンソン症状の特性を踏まえ、日常生活の中で転倒しにくい歩き方を身に付けてもらいましょう。具体的には、背筋を伸ばして顎を引き、腕の振り大きく、膝を高く垂直に持ち上げるようにして大股で足を運んでいくことを強く意識しながら、「ワン・ツー・ワン・ツー」とテンポを刻んで歩いてもらうことです。踏み出した足を着地させるときは、踵から地面に下ろすことを心がけます。何となく歩いていると無意識的に転びやすい歩行になってしまうので、上記のポイントを「強く意識することを意識して」もらいましょう。

2.環境整備
Aさんは「介護付の有料老人ホームに入居している」のでバリアフリー環境は整っていると考えられますが、居室の床に物が散らかっていたり、滑りやすいスリッパや裾の長いズボンを着けていたりすると、転倒のリスクが高まります。身近にいるケアスタッフが環境整備にも気を配ることが大切です。

3.歩行補助具や防護用具の導入
歩行を助ける杖やシルバーカーを勧めることも有効です。とくに、ある程度体を預けることができるシルバーカーを使えば、スイスイ移動できるようになるパーキンソン病患者も少なくありません。また、「仮に転倒しても大丈夫」という状況を作ることも転倒不安の緩和に有効です。転倒時の衝撃を吸収する保護帽やヒッププロテクターを勧めてみましょう。

家族の協力が必要になるかもしれませんが、「いつかスタジアムでプロ野球のゲームを観戦しよう」というような目標を立て、それに向かって努力するようにAさんの気持ちを誘導できるといいですね。

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イラスト:シロシオ 「シロシオ イラスト&マンガポートフォリオサイト」

監修:医療法人鵬志会 別府病院 看護部長 行徳倫子

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