• 2017年2月22日
  • 2023年12月27日

施設内のインフルエンザ予防に心を砕く看護師

 

【問題】

インフルエンザが流行しているが、小規模多機能型居宅介護を行う事業所では罹患者はいない。

この事業所で看護師が行う罹患予防の対策でもっとも適切なのはどれか。

  1. 宿泊の利用を断る。
  2. 湿度を10 %以下に保つ。
  3. 利用者に手洗いを勧める。
  4. 利用者に予防的に抗インフルエンザ薬を与薬する。

【解答】

  1. 小規模多機能型居宅介護は、ショートステイを含む地域密着型サービスです。宿泊の利用を断ることは、インフルエンザ予防の最善策ではありませんし、サービスの存在意義にも関わります。
  2. 低い湿度ではインフルエンザに罹患しやすくなります。50~60%に保つことが適切です。
  3. 基本中の基本ですが、だからこそ遵守が難しいこともあります。うがいの励行、マスクの着用とともに、基本を徹底します。
  4. 予防的な抗インフルエンザ薬の投与が認められるのは一定の場合に限られます(後述)。設問の時点では、まだ事業者内に罹患者がいないので不適切です。

解説

インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる呼吸器感染症で、毎年冬季(12月~3月頃)に流行することはご存じのとおり。流行の原因となるのはA型・B型いずれかのインフルエンザウイルスですが、とくにA型は変異しやすく、毎年のように違った型が現れるため、ワクチンでの予防にも限界があります。※出典:【状況設定問題】2015年 第104回 過去問題(午前59)老年看護学

現場ではこうする!

解答は3ですが、実際にどのような手洗いの指導をしたらよいのでしょうか? 手指衛生は標準予防策の基本であり、患者さん(ここでは利用者)や医療従事者を感染から守るためのもっとも重要な方法です。

「手洗い」といっても”日常的””衛生学的””手術的”と3種類あります。設問のケースは小規模多機能型居宅介護なので、“日常的”の範囲だと言えます。下記のルールを基本として利用者に指導すると、予防対策として効果的でしょう。目的は、汚れと一過性の病原微生物の除去です。

日常的手洗いのルール

流水で濡らした手に洗剤を取って全体になじませ、10~15秒間両手をこすり、手指の表面をすべて洗います(母指周囲、指や手の背面、爪先は洗浄効果が薄いので、ていねいに洗います)。その後、流水で完全にすすぎ、乾燥させます。

なぜ冬季にインフルエンザが流行するの?

そもそも、インフルエンザを含む感染症は、なぜ冬季に流行するのでしょう。空気が乾燥する冬季はウイルスの水分が蒸発して比重が軽くなるため、空気中に漂いやすくなります。加えて、低温・低湿度の環境下では、ウイルスが空気中に長く安定して存在することが可能になります。また、免疫に関わる要因として、環境の影響で体温が下がると代謝が低下し、免疫細胞が不活発になり、病原微生物に対する抵抗力がダウンしてしまいます。さらに、低湿度によって咽喉・鼻腔・気管支の粘膜が乾いた状態では、ウイルスが体内に侵入しやすくなります。したがって、うがい・手洗いはもちろんのこと、部屋の湿度を高めることが有効な対策となります。

予防的抗インフルエンザ薬の有効性は?

感染症リスクの高い人(高齢者を含む)に対しては、インフルエンザを発症する前に、予防的に抗インフルエンザ薬(オセルタミビル、ザナミビル)を投与することもあります。ただし、むやみやたらと投与するのではなく、日本感染症学会の提言によれば「インフルエンザを発症した患者に接触した入院患者や入所者に対して」「可能であれば、インフルエンザ初発患者の発症から12~24時間以内」に投与すべしとされています。設問の状況は「インフルエンザを発症した患者に接触した」に該当しないため、予防的抗インフルエンザ薬の投与は不適切ということになります。

予防投与の期間は7~10日間で、オセルタミビルは1回1カプセル(または1日1回内服)、ザナミビルは1日1回吸入とします。シーズン前のワクチン接種があってもなくても予防投与は有効ですが、その効果は70~80%程度とされ、予防投与を行っても発症してしまうことはあり得ます。なお、予防医療には保険が適用されないため、自費診療になることには注意が必要です。

看護師自身が罹患したら?

ワクチンが万能でない以上、看護師自身がインフルエンザにかかってしまうこともあり得ます。感染症法においてインフルエンザ(鳥インフルエンザおよび新型インフルエンザ等感染症を除く)は第五類感染症に分類されており、「就業制限の対象外だから休みにくい」と思うかもしれません。しかし、厚生労働省令(労働安全衛生規則)においては、原則として就業禁止の対象となっています。

感染症に関する重要事項に対処することは施設管理者の責務であり、アウトブレイクを起こしたら施設管理問題となります。もし、インフルエンザに感染してしまったら、勤務先の『感染マニュアル』に従って行動するのがよいと思われます。発症後5日間のみの休業、発症後5日間プラス解熱後2日間の休業など、勤務先によって規定はさまざまなので、まずは上司に報告して指示を仰ぎましょう。

患者さんや入所者を守るためにも、しっかりと仕事を休むことがプロとしての責任です。決して「頑張っている私はカッコいい」などと思わず、しっかり治して元気に働くようにしましょう。

監修:医療法人鵬志会 別府病院 看護部長 行徳倫子

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