• 2016年12月13日
  • 2023年12月27日

トイレに間に合わず尿失禁してしまう高齢女性

 

問題

Aさん(85歳、女性)は、1人暮らしで、他県に住んでいる長男家族がいる。腰部脊柱管狭窄症(lumbar spinal canal stenosis)と診断されているが、ゆっくりとした動作であれば日常生活が可能であり、畑で野菜をつくることを趣味としている。Aさんから尿失禁について外来受診時に相談があった。最近は尿意を感じてから洋式トイレに座るまでに時間がかかり、尿が少量漏れることがある。排尿回数は1日7回程度で、残尿感、排尿痛および排尿時不快感はない。咳、くしゃみ及び農作業の動作で尿が漏れることはない。   このときのAさんの尿失禁の種類として考えられるのはどれか。

  1. 溢流性尿失禁(overflow incontinence of urine)
  2. 機能性尿失禁(functional incontinence of urine)
  3. 切迫性尿失禁(urge incontinence of urine)
  4. 腹圧性尿失禁(stress incontinence of urine)

【解答】

  1. 1.溢流性尿失禁は、排尿障害が原因で膀胱にたまった尿が少しずつ漏れ出す状態です。
  2. 2.機能性尿失禁は、排尿機能に異常が認められず、身体運動機能の低下や認知症が原因で尿が漏れる状態です。
  3. 3.切迫性尿失禁は、排尿中枢が障害され、尿意が我慢できずに漏れる状態です。
  4. 4.腹圧性尿失禁は、尿道括約筋の機能が低下し、腹圧がかかったときに尿が漏れる状態です。

解説

尿失禁のタイプによって治療やケアの方法が異なるので、しっかりとアセスメントすることが大切です。実際には、複数のタイプの尿失禁が重なり合う混合型尿失禁であることが多く、とくに切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁の混合が多く見られます。

設問の女性の場合、腰部脊柱管狭窄症のため、長い距離を歩くことが難しくなっていると考えられます。脊柱管の中をとおる神経が圧迫され、脚の痛みやしびれ、こわばりが生じ、間欠性跛行となることがあるからです。つまり、排尿機能に問題があるのではなく、間欠性跛行のためにトイレに間に合わず、尿失禁を起こしているものと考えられます。※出典:【状況設定問題】2016年 第105回 過去問題(午後97)老年看護学

現場ではこうする!

設問の女性は、トイレに座るまでに時間がかかって尿が少量漏れる以外には問題ないようですが、だからといって「大した問題じゃない」と片付けてはなりません。排尿回数は1日7回程度ということですが、最大で1日に7回も尿漏れを起こし、そのたびに不快感を覚え、下着を履き替えざるを得ない状況にあるということになります。ケアに当たる者としては想像力を発揮して、その状況をリアルにとらえることが大切です。

トイレ移動を妨げる要因を取り除こう!

排尿機能に問題はないのですから、機能性尿失禁を防ぐ方策としては、まずは腰部脊柱管狭窄症を治療することが考えられます。具体的には、血流改善薬などを用いる薬物療法、牽引などの物理療法、脊柱管拡大術などの手術療法といった手段があります。また、前屈みの姿勢では神経が圧迫されづらく、症状を抑えることができるので、杖や手押し車を使って移動するよう勧めてみてもいいでしょう。

自宅の構造がスムーズな移動を妨げているようであれば、室内の段差をなくす、廊下やトイレ内に手すりを設置する、トイレ内のスペースを広げるといった改修を検討してもいいかもしれません。ケアマネジャーや福祉住環境コーディネーターにも相談できますし、条件に適合すれば介護保険から改修費の補助を受けることも可能です。こうしたリソースを把握して活用の筋道を付けることも看護師の役割のひとつになります。

設問の女性がおむつを着用しているかどうかは不明ですが、仮に着用していないとすれば、着用を勧めるのもひとつの手です。おむつの着用に抵抗する高齢者も少なくありませんが、おむつを「老いの象徴」としてとらえるのではなく、「QOLを高めるアイテム」としてとらえられるように話し合ってみましょう。また、設問の女性は高齢であるため、内転筋を鍛える尿漏れ改善体操が有効であることも考えられます。実施する際は理学療法士や作業療法士と連携し、安全かつ効果的な方法をアドバイスしましょう。

<自宅でカンタン! 尿漏れ改善体操>

尿漏れを改善するために鍛えたいのが内ももの筋肉、内転筋です。この筋肉を鍛えることで尿漏れが改善されます。用意するものは、ゴムボールのみです。ゴムボールがなければ、クッションや丸めたタオル、座布団などでの代用もOKです。

①椅子に座りボールを内ももに挟む

「力を入れてボールを内ももで押す」⇔「力を抜く」を交互に繰返す

1日10回×2~3セットやることで効果が期待できます。ほかにもいろいろな体操があるので、理学療法士や作業療法士と連携したケアを行いましょう。

監修:医療法人鵬志会 別府病院 看護部長 行徳倫子

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