• 2019年12月25日
  • 2022年5月13日

知っておきたい!看護師の「独立」という選択肢(後編)

 

自らの知識や経験を生かして、ヘルスケアに関連する分野での独立を考える看護師は少なくありません。中でも注目されるのが、ニーズが高まり続ける訪問看護ステーションの開業。その事業所数は年々増加しており、全国で約1万1000施設にも上ります。今回は、2016年にウィル訪問看護ステーションを立ち上げた岩本大希さんに、これまで手がけてきた事業所運営支援や看護師教育制度についてお話を伺いました。

WyL株式会社 代表取締役 ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長
看護師・保健師 岩本大希さん

総合大学の看護医療学部を卒業後、神奈川県相模原市にある北里大学病院の救命救急センターのICU等で看護師として従事。三次救急のドラマティックな看護を経験しながら、患者が家に帰りたくても帰れないことで救急車のたらいまわしが起こる「ベッドの玉突き事故問題」や、突然の搬送・救命治療での充分な意思決定の時間が足りない事を問題と捉え、在宅医療・ケアの受け皿としてヘルスケアベンチャーにて24時間365日対応の訪問看護事業を起こす。

開業時よりも開業後の運営支援が重要

ウィル訪問看護ステーションは、東京都江戸川区・江東区で事業所を運営するほか、のれん分けした事業所が沖縄県と岩手県、福岡県にもあります。また、WyL株式会社として訪問看護に関するコンサルティング事業や研修受け入れ、教育コンテンツの配信も手がけ、看護師の起業をサポートしてきました。自身が事業所を立ち上げたときを振り返って、岩本さんはこう語ります。

「いざ、『この地域で在宅医療を頑張っていこう!』と決心しても、初めはわからないことだらけ。一つひとつを調べ上げ、ハードルをクリアしていくのは簡単なことではありませんでした。とはいえ、開業は調べれば誰でもすぐにできます。開業してからより良い看護を継続するため運営を安定させていくことのほうがよほど大変なのです。私がのれん分けにおいて開業することよりもその後の運営支援に力を入れているのも、自分自身が苦労した経験がもとになっています」(岩本さん)

事業所の立ち上げまでは事務的な側面が大きく、ポイントを踏まえて進めていけばサポートがなくとも誰でもクリアできます。しかし、スタートしてからは“経営”“マネジメント”の領域。事業経験がない看護師にとっては、右も左も分からないまま手探りで進んでいくことになります。そうした中で、岩本さんのような先達が伴走してサポートをしてくれるのであれば、どれだけ心強いことでしょう。

また、訪問看護の経験があまりない、あるいはまったくない看護師をスタッフとして受け入れたとき、どう育てていくべきかという点も悩ましい問題となります。

「疑問や不安、悩みがあるときは、誰かに相談するのがいちばんですが、訪問看護ステーションに所属するスタッフは平均5人程度。相談する相手がとても少ないのが実情です。より多くの意見が聞ければ解決するかもしれないし、詳しい人が少しでもいれば正しい方向へ導いてくれるかもしれないのに、それができない。そうした部分も、きちんと支援していけたらと思っています」(岩本さん)

ウィル訪問看護ステーションでは、のれん分け先のスタッフ全員が同じコミュニティの中で情報へのアクセス権を持ち、相談や教育コンテンツのすべてのリソースを共有できる仕組みを構築。そこで看護上の悩みはもちろんのこと、日々のケアを通して感じた喜びやモヤモヤなども気軽にシェアして前向きなコミュニケーションを図っているのだとか。また、小児や緩和、精神といった分野の専門家(認定看護師や専門看護師など)が所属しており、いつでもどこの場所からでも相談できる体制が整っていることも特徴のひとつです。

若手の参入を促す教育制度に注目!

訪問看護師の平均年齢は50歳近く。これから多くの地域で必要とされる24時間365日対応を実現するためにも、より若い層の看護師を訪問看護の世界に迎え入れる必要があります。そのために重要になってくるのは、「採用と、一にも二にも教育」だと岩本さんは話します。

「弊社では、たとえ新卒の看護師であっても、十分に成長できる教育制度を整えています。例えば、プリセプター制度によるOJT教育として、3カ月~6か月程度、細かくステップに分け進捗を細かくコントロールした同行訪問を実施していますし、クローズドのSNSやWEB帳票を活用して、同行訪問で行ったケア内容や課題、指導されたポイントなどが記録されチーム全体に常に公開、成長の進捗や課題の透明性を担保しています。このシステムにより、皆で新人の成長を見守り、いつだって必要に応じてチームとして検討・介入することができるのです。更に自チームだけで悩まず、他チームと一緒にディスカッションしたり、あるいは違うチームに研修に行ったりすることでより良い学習環境を構築できています」(岩本さん)

単独で訪問するようになってからも、クローズドSNSを活用し「常に自分だけで判断しなければならない」状況を避けるように「安心・安全」をコンセプトにしているとか。一方でオハマシステム(看護の成果を定量的に評価・共有できるツール)やポケットエコーなどを使い、自分たちの看護介入のアウトカムや成果を重視しているとのこと。

そしてそれらを支えるのが、学研メディカルサポートと共同開発した新人訪問看護師向けe-learning教材やウィルグループ内で共有されている専門家たちによる継続学習動画(小児や緩和、精神看護など)を使って、座学の面でも学びをサポート。訪問看護についての基礎から、緩和ケアなどの専門的な知識を習得できるものまで、多岐にわたるカリキュラムで若手の育成に努めています。この仕組みは、社員であればいつでも閲覧できるので、すきま時間を活用するなど好きなタイミングで自己学習することが可能。のれん分けした事業所でもウィルに関わる事業所ではすべて活用されているそうです。

また、自社だけでは学びにくい部分を補完するために、提携している東京都立墨東病院や、他の訪問看護ステーションに出向いての研修を実施しているのも、ウィル訪問看護ステーションの特色。OJT、座学、実務研修をうまく組み合わせることで、経験の少ない看護師の不安をやわらげ、ステーション全体の看護力の底上げを図っているわけです。

飽くなき前進がステーションの未来を拓く

ウィル訪問看護ステーションでは、オフラインだけでなくグループ内での“交換留学制度”にも取り組み、既に沖縄、福岡、東京、一関間で看護師たちの研修・交流がインタラクティブに進められています。

「沖縄県や岩手県、福岡県の事業所は、東京とは違った強みやスキルを持っています。だからこそ、互いのチームに出張し、いつもと異なる地域・メンバーでのケアを経験してもらえば、普段とは違った“学び”につながるはず。実際に行ったメンバーは非常に有意義であったと喜々として帰ってきます。将来的には、各人のライフステージに応じて、柔軟に異動や出向ができるような組織作りも視野に入れています」(岩本さん)

地方へののれん分けを行い、積極的な事業所間交流を図る一方で、岩本さんは、“地方看護師が大都市の事業所に集中して、地域による医療格差が激しくなること”に懸念を抱いています。「地元で育ち、その地域の実情をよく知る看護師が、地元の事業所に入職する、あるいは地元で事業所を立ち上げる、看護師の地産地消が理想」というのが岩本さんの考えですが、そうした流れが定着すれば、地方に雇用が創出され、地域活性にもつながっていくに違いありません。

「独立を考えている方にいちばん伝えたいのは、経験がないからといって躊躇しないでくださいということ。訪問看護に従事する人が増えれば、希望通り自宅で暮らせるようになる患者さんも確実に増えていくのですから。たとえ得手不得手があったとしても、それはチームで補えば良いのです」(岩本さん)

取材・文:ナレッジリング 中澤仁美 撮影:和知 明

参考:一般社団法人 全国訪問看護事業協会「令和元年訪問看護ステーション数調査結果」

ウィル(WyL)訪問看護ステーション
ライフスタイルに合わせた多様な働き方ができるステーション。同行訪問や引継ぎのみの教育だけでなく、オリジナルのe-larningとアクティブラーニング型の教育を取り入れ、新卒・新規入職者研修から管理者・看護専門職として自立するまでを支えるキャリア開発ラダーを提供します。各事業所では、転職希望者だけでなく、看護師や看護学生、他事業所の方々の見学も受け付けています。「訪問看護って?」「キャリアの相談をしたい」「経営について知りたい」そんなときは見学に参加してみてください。

所在地:東京都江戸川区中央4-11-8 アルカディア親水公園ビル 地下1階
TEL:03-5678-6522(ウィル訪問看護ステーション江戸川)

URLhttps://www.wyl.co.jp/

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