• 2021年6月23日
  • 2021年10月14日

サルコペニアを食事から防ぐ! たんぱく質の重要性と、日々の食事の工夫

 

2020年に世界保健機関が発表した平均寿命ランキングにおける日本の平均寿命は84.2歳。これは、世界一の数字です。そして、「人生100年時代」ともいわれるほど超高齢化社会に突入した日本では、いかに健康寿命を延ばせるかが重要なテーマになっています。

とはいえ……。同じ80歳であっても、元気に働いている人もいれば、歩くのが困難でほぼ寝たきりの人もいるなど、体の健康状態は人それぞれ。こうした個人差には、運動量や生活習慣だけでなく、栄養状態も大きく関係しています。今回は、高齢者に多くみられるサルコペニア(加齢にともなって筋力や身体機能が低下する状態)を取り上げ、管理栄養士・分子栄養学カウンセラーの篠塚明日香さんに、予防に役立つ栄養素と食事のポイントと教えてもらいました。

管理栄養士・分子栄養学カウンセラー/篠塚明日香
写真/櫻井健司

サルコペニアは「たんぱく質不足」が大きな要因

サルコペニアというのは、加齢によって筋肉量が減少し、咀嚼や歩行といった身体の機能が低下する状態のこと。サルコペニアが進むと、転倒での骨折リスクが高まるなど、日常生活に大きな影響が出てしまいます。骨折が寝たきりの原因になることもめずらしくはないので、運動や栄養摂取によってきちんと予防するように心がけましょう。

さて、ここでは、サルコペニア予防に役立つ栄養素や食事について解説していきますが、その前に「どうして筋力が低下してしまうのか」について、栄養面からみていきましょう。

筋肉の量は、たんぱく質の構成成分であるアミノ酸が、体の中で合成・分解を繰り返すことによって保たれています。成人では、毎日約200gのアミノ酸が合成と分解を繰り返しており、このうちの約80gは食べ物から、約120gは体内でリサイクルしたアミノ酸でまかなっているとされます。そして、筋肉量を維持するには「合成」=「分解」という均衡状態をつくることがポイントになるのですが、加齢によってこのサイクルが衰えてくると「合成」<「分解」となってしまい、筋肉量が低下してしまいます。

では、なぜ「合成」の能力が低下するのでしょうか。原因のひとつに、「たんぱく質の摂取量不足」があげられます。「だったら、たんぱく質を含む食材をたくさん食べればいいのでは?」と思うかもしれませんが、話はそう簡単ではありません。高齢者は消化力の低下が著しいため、たくさん食べても体内で吸収されにくい状態になっているのです。

「消化力低下」が疑われるいくつかのサイン

健康な成人における消化力低下の要因は、自律神経のバランスの乱れや低体温などさまざまですが、高齢者の場合は胃酸を抑える胃薬の長期服用や、口腔状態と腸内環境の悪化などの理由も考えられます。

のちほど詳しく述べますが、胃酸はたんぱく質の吸収に欠かせない要素。その胃酸を薬によって長期間抑えてしまうとどうなるか。摂取したたんぱく質をしっかり消化できない状態が続くため、十分な量を体内に吸収できなくなります。また、食べ物を消化するときに分泌される消化酵素は、すべてたんぱく質を材料につくられているため、消化力低下によって慢性的なたんぱく質不足に陥ると、さらなる消化力低下をまねいてしまいます。

ではここで、消化力低下が疑われるサインをあげてみましょう。

【消化力低下が疑われるサイン】
・食欲の低下、食欲のムラ
・胃もたれ、胃痛
・油ものや肉があまり食べられない
・便通が悪い
・おなかにガスが溜まる

このような症状がある場合は、栄養摂取方法を工夫して、消化力低下とたんぱく質不足を予防しましょう。

消化のいい「簡単チキンスープ」でたんぱく質を補う

すでに消化力が低下してきている高齢者の場合、どんな食事をしたらいいのでしょう。

たんぱく質はアミノ酸がつながってできた物質ですが、腸で吸収するためにはその構造をほぐして、小さなアミノ酸に分解しなければならず、分解には胃酸や消化酵素が必要になります。

ということは……。最初から小さなアミノ酸のかたちで摂取すれば、消化力の弱い高齢者でも、体に負担をかけずに吸収することできるわけです。

そこでおすすめしたいのが、肉や魚のだしです。鶏肉や豚肉、かつお節や煮干しなどからつくってもいいですし、化学調味料を含まない無添加のだしパックを使ってもOK。固形物を食べるのが容易ではない場合でも、鶏手羽肉を煮込めばしっかりアミノ酸が溶け出すので、具を食べずにスープを飲むだけで効果的です。野菜や卵などあまり固くない具を入れたり、ごはんを入れて雑炊にしたりと、好みにあわせていろいろ工夫してみるのもいいでしょう。

なお、醤油や酢などの調味料は、しっかりと発酵させたものを選ぶのがポイント。これらの調味料は、米や大豆を微生物によって発酵させているのですが、その過程で旨味成分であるアミノ酸が生成されているからです。調味料に含まれるアミノ酸はだしに比べると少量ですが、毎日使うことを考えれば、貴重なアミノ酸の摂取源といえます。

ではここで、簡単につくれる栄養満点のスープレシピを紹介しましょう。

◎無添加チキンスープ

【材料】2~3人分
・水……600㏄
・鶏の手羽元……4本
・しょうがスライス……好みの量
・ねぎ……好みの量
・塩……小さじ2/3
・醤油……小さじ1

【つくり方】
具材を鍋に入れて中火で煮込み、最後に塩と醤油で味をつけて完成。シンプルですが、しっかりとアミノ酸が摂取することができます。調味料を入れる前の状態で、スープだけを冷凍ストックすれば、炒め物やあんかけ料理、パスタなどの料理にも使えて便利ですよ。

胃酸、消化酵素の代用となる食材で消化力アップ

消化力の補助として、食物の持つ酸味や酵素を使うという方法もあります。

【胃酸の代わりになる食品】
・梅干し、レモン、酢 など

【消化酵素の代わりになる食品】
・麹(塩麹、醤油麹、甘酒)、大根おろし、キウイなどのフルーツ、まいたけ など

これらを食事に取り入れると、体内の消化酵素の代用となり、消化力をアップさせることにつながります。

鶏肉を大根おろしにつけておくだけでも、たんぱく質の一部が分解されて消化がよくなりますし、そのまま煮物にすればみぞれ煮の完成です。食事中に甘酒を飲んだり、食後に適量のフルーツをとったりするのもいいでしょう。ちなみに、甘酒に含まれる麹にはアミラーゼ・プロテアーゼ・リパーゼという3大栄養素すべてを分解できる酵素が含まれているのでおすすめです(おまけに腸内環境の改善にも役立ちます)。

今回は、たんぱく質が不足することの懸念や、消化力低下をどう補うかについてお話してきました。食べること自体がおっくうになっているような状態でも、ちょっとした工夫でサルコペニアの予防はできますし、症状の悪化も防げます。高齢者のみなさんがいつまでも元気な日々を送れるよう、ぜひ取り組んでみてください。

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